41 ならず者を捕まえよう
「…というわけであの貴族馬車は9割誘拐犯で構成されている。間違いない」
「そうでしたか…私兵にしてはやけに荒々しいのが混ざっているとは思っていたのですよ」
「俺は今からあの馬車の中を含めて捕縛しようと思う。騒がしくなるけど問題ないからなって伝えようとこうして集まって貰ったわけだ」
「分かった。ゴッド級がいるんなら俺たち役立たないだろうしな」
「いや夜明けまで見張りぐらい頼もうと思ってるけど」
「だよなー」
冒険者の天幕を回って適当な理由をつけて天幕ごとの代表者に集合をかけ、サイは商人たちと商人馬車に集めた冒険者たちに状況を説明していた。
誘拐という言葉には流石に冒険者も商人も驚いていたが、サイがゴッド級冒険者であること、そしてその貴族の子供は既に保護されていることを知るとほっとした雰囲気が流れた。
「さて、では魔法で捕縛するか」
「えっここで?」
「別に外でやってもいいが、ここだとあいつら油断するだろ。術者も見えないわけだし」
「確かに」
「俺ゴッド級の魔法見たい」
「つかなんで魔法?契約獣にさせりゃいいじゃん」
「あんな奴らを捕まえるだなんて、そんな嫌なことさせたくない」
「ちょっと分かる。俺も契約天使にそんなくだらないことさせたくない」
「俺も」
「おいらも」
「だよなぁ。じゃあ……黒棘縛り!」
商人馬車から闇魔法が放たれ、その野営地にいた『ポメル・ダルダットの誘拐に関わる全ての者』が突如足元から現れた刺々しい影に拘束された。ご丁寧に鳩尾に棘が食い込み地味に痛みを重ね与えている。
この魔法は対象を拘束することに特化はしているが、普通は室内などにいる5人程の人数を捕縛出来れば優秀な方である。野営地のような広い範囲で、尚且つ指定された40名程を一気に縛りあげることは少し難しい技術を必要とする。
魔法を使う素振りを見せる者が視界にいなかったことが私兵もどきたちを油断させており、結果として地面に転がることしか出来なかった。
「なんだぁ?!おい誰だ!!」
「くそっ!俺たちは貴族の私兵だぞ!こんなことしてただで済むと思うなよ!?」
「子供一人逃すようじゃ、お前ら私兵失格だしそもそも私兵じゃねぇだろ」
馬車から降りてきたサイが全員を捕縛出来ているか確認する。傍にいた冒険者に貴族馬車の中からも引きずり降ろしてくるよう伝え、計43名の私兵もどきとメイド長もどきを野営地のど真ん中に集めた。
その間に全冒険者に詳細が伝えられ、誘拐犯を囲むように冒険者たちと商人代表のタレゾが円となって武器や触媒を構えている。
誘拐犯は口々に喚いており、その中でより一層喚いているメイド長らしき女に声をかけた。
「お前がダルダット家元メイド長…いや、ダルダット家裏切り者兼誘拐犯か」
「失礼な!私はダルダット家に長年お仕えしている歴としたメイド長です!」
「待て!ダルダット家?!お前らさっきこの馬車の紋章セヌーヨ男爵とか言って…!」
「そこの私兵もどきはややこしくなるから黙っとけ。ソンザーイ・セヌーヨ男爵は幻に散ったんだよ」
「セヌーヨ男爵?!誰だいそれ!」
「ほら見ろメイド長もどきも混乱してるだろ」
「サイさん、話がズレてますしセヌーヨ男爵のことは後で詳しく」
「セヌーヨ男爵のことは明日にでもミッツに聞いてくれ。で、お前らのことはもうバレてるんだよ誘拐犯」
「ぐっ…!」
私兵もどきもまだ喚いているしメイド長もどきも憎々しい顔をしているが、ここで「あっ」と冒険者の一人が声を出した。
「どうしたビショップ級くん」
「いや、俺そいつ知ってるかも。あれだろお前、洞窟街ベランザで5年ぐらい前に指名手配受けてた女盗賊。確か、ネルギだったか」
「な、なんでそれを…!今私化粧だってしてるし雰囲気も変えてるだろ!」
「あ、自白した」
「あっ」
「……冒険者ども!喜べ!指名手配捕獲賞金をこの場の全員で分けられるぞ!」
「「やったー!」」
思わぬ報酬に喜ぶ冒険者たち。冒険者は意外と整備などでお金のかかる仕事なので報酬が増えると誰でも嬉しいのだ。
まだ喚き続ける私兵もどきを鎮めるために、冒険者たちが武器を突き付けたり『契約者』が自分の契約天使などを召喚して静かにするよう怒鳴るが更に喚いている。
「あーもう仕方ないな。冒険者の中で蛇苦手な奴いるか?」
「俺苦手」
「僕も」
「苦手な奴らは商人馬車の護衛に戻っておけ。今からでっかい蛇呼ぶから」
「うわ…あとは任せた!」
蛇嫌いの冒険者数名が商人馬車に全力で走り出し、サイは簡易契約を行う。
「来い!『ルージュバジリスク』!」
「シャァアアアーーーッ!!」
「「ぎゃあああーーーっ!!!!」」
私兵もどきを取り囲むように光りながら現れたのは、全長10メトー超の深紅の鱗を持つ大蛇…ルージュバジリスクであった。
本蛇は胸を張り『こんばんは!ここは任せてくださいよご主人様!ふんす!』と健気にシャーと鳴いたつもりだったが、囲まれた私兵もどきだけでなく想像以上に大きい蛇に冒険者からも悲鳴が上がったのだった。
ただ一人、タレゾだけが「…可愛いですね…触りたいなあ」とキラキラした目で鱗を眺めていた。