3 落ち着いたらまずごあいさつ
簡易天幕を設置してお互いの荷物を天幕内に置いてからしばらくして、切り株に座った青年が自前の『ストレージポーチ』から取り出した携帯食と水を二人でもそもそと食べ、「えっどこから出し…何これカロ○ーメイト?」と少年が呟き青年がよく分からなかったこと以外は落ち着いた時を過ごすことが出来た。シルフは水だけ飲んで青年の肩で休んでいる。
その後少年が持っていた黒い鞄から取り出して「これ飴ちゃんどうぞ…あっミルクハッカやけどそのちびっちゃいのん大丈夫やろか…」と渡してきた包み紙を「な、何だこれ…甘味…?!」「甘味!!好キ!シルフ甘いノ好き!ひんヤりすルね!」と驚きつつ喜びつつ一緒に舐めたこともあったが、ようやく両者話し合うことが出来るようになった。
「少しは落ち着いたか?」
「…たぶん」
「大丈夫だ、俺も落ち着いているのか分からない。まさか人と会うなんて思ってもなかったからな。ひとまず少年がどこから来たのか教えてくれるか?転移で送れるような所かもしれないし」
「て、てん、転移…?!」
落ち着いたかと思えば突然切り株から立ち上がり仰々しく驚く少年。
「まあ使う者はあまりいないがそこまで驚くことか…?俺は使えるが少年の回りで転移魔法を使える人はいなかったのかな」
「…いや…まさか……、こほん、何にせよまずは自己紹介…やな」
切り株に座り直した少年が姿勢を正してようやく自己紹介を始める。
「俺、松島 光いいます。八天王寺高校所属の16歳。大阪生まれ大阪育ち…学校終わったから道頓堀寄り道して…友達とたこ焼き食べててん。
んで…急に目眩して道頓堀落ちかけたとこまで覚えてて……んで今こんな感じですわ」
「…ほ、ほう、よく分からないことだらけだがとりあえず名前は分かった。マッ…マツ…シマ・ミ…ミツル、珍しい名前だな…すまない発音が少し難しかった。ではファミリーネームからミツルくんとでも呼ぶか」
「あっそういう感じ?そんならミツル・マツシマが正しいですわ!でもミツルでかまへんです!呼び捨てでええです!」
「そうか?では次は俺たちだな」
青年も切り株に座り直し、姿勢を正してから自己紹介を始めた。
「俺はサイ・セルディーゾ。冒険者ギルド所属で契約者。『獣使い』だ。歳は20。生まれは訳あってあまり人には話せないが、育ちはシャグラス王国の王都だ。
今はギルドからの採取クエストで『ホーンラビット亜種の毛皮を出来るだけ』の依頼を受けてこの無法帯にいた。そしたら精霊たちがミツルを地面に降ろすのが見えたから駆けつけ、今に至る。」
「私シルフ。風の精霊。いマはサイと簡易契約でココいる!いツもは色んなトコいる!」
サイたちが自己紹介を終えた直後、ミツルが頭を抱えて唸り出した。どこか痛むのかと慌ててミツルに駆け寄ったが、ミツルは渋い顔をしてぶつぶつと呟いている。
「…あかん、俺もサイさんの名前以外ほぼ分からん。分からんけどめっちゃ嫌な予感するわ…精霊かーそっかー…あーーーーでも当たらんといて欲しい…でも絶対そうやんなこれ…」
「??」
サイにはよく分からないが、ミツルに怪我はなさそうなのでまた落ち着くまで様子を見ることにした。