25 異世界カルチャーショック
「素晴らしい!いやはやほんと素晴らしい!すごい!調味料も素晴らしいがこのような菓子が…!チキュウとは、ニホンとは食の楽園なのか?!」
「食に関したらマジで執念強いから実質楽園みたいなもんかも…」
紳士としての態度を既に捨て去ったルバラが大興奮で塩などの検分を済ませ、チョコレートや飴やクッキーを大喜びで頬張っているのを見てミッツも思わず引き笑いをしてしまう。
サイはとても気持ちが分かるし、こうなるのを想定していたので頷きつつのんびり紅茶を飲んでいる。
「で、こちら全て無限に出る可能性がある魔道具と?」
「俺とシルフがその場で軽く鑑定した限りはな。だがこういう時は商業ギルドの鑑定のがより正確に分かるだろ?とりあえずミッツの荷物全部確認してやってくれ」
「もちろんですとも!こんな機会滅多にありませんからな!今回は全て無料鑑定とさせて頂きます」
ルバラ直々の鑑定が始まった。
商業ギルドマスターになるには高度な鑑定魔法が使えるというのが資格の一つになる。「鑑定は折り紙付きっちゅうことやな」「折り紙とは?」のやりとりから、鑑定してる間にミッツがルーズリーフを千切って鶴を折ってルバラの集中力が大いにブレブレだったりしたが、鑑定は無事に終わった。
「いやー…すごい。食べ物や消耗品は本当に無限ではないですか…」
「ほんまに無限なんや…」
「ただ条件はついていましたけど、無限補充でこの条件なら破格ですな」
「条件?俺普通に出してしもてたで?」
「そう、それです。取り出せるのはミッツ様だけというのが条件なんです」
どうやら持ち主にしか発動権がないタイプの魔道具になっているようで、試しにルバラが塩の瓶を振っても塩一粒出て来なかった。サイも砂糖の袋を持ち上げたが何かに阻まれるかのように砂糖に触ることは出来なかった。
「出て来た塩や砂糖、菓子、消耗品はミッツ以外でも使えるようなんだがな」
「そのようですな。このティッシュというものもすごいですな」
「ほな、俺がここで出しまくるから……ルバラさん、これどのぐらいの量をどのぐらいの金額で買って貰えますのん?」
「お金…ああ!なるほど、昨日来たばかりということは…現在1ユーラも持っていないということですか!」
「さっきクエスト受けて所持金は500ユーラと、日本のお金だけやわ」
「ほほう異世界のお金!」
ミッツは制服に入れていた財布を取り出して見せた。
初めて見る異世界の国の硬貨(583円)と紙幣(3000円)にまたルバラの紳士が剥がれ落ちた。
「流石にこちらは…いくら同価値程度のものと言われても、異世界のものというだけで価値が跳ね上がるので…買取金額が想定出来ませんな」
「いやまあ塩とか買い取ってくれたら俺はそれでええんやけど」
「ああそうだルバラ殿。この本はどうなっているんだ?」
サイがミッツの教科書を指差す。
「個人的にずっと気になっていたんだ。魔導書化しているようで、元々はミッツの通う学校の教本だそうだ」
「あ、学校の教科書。これは数学、こっちは英語と音楽やわ。家庭科の本も持って帰ったら良かったな…」
「失礼、食品などで我を失ってしまい鑑定してませんでしたな。今鑑定しますね」
数学→扱いの難しい大型展開魔法の補助魔導書
英語→古代詠唱の基礎となる魔導書
音楽→地球の音楽が再生される魔導書
最後だけ異様に気になったミッツが適当なページを開いてみると、地球ではあまりにも有名な『第九』のページから『第九』のオーケストラが流れた。
「いやなんで?音楽の教科書だけなんでそんなん?オーディオみたいなっとるんか?」
「「……」」
「ほんでお二人さん黙ってんのなんで?」
「ミッツ、これはチキュウの音楽か?」
「へ?うん。日本だけやなくて世界的にも有名な音楽家が遺しはった有名なクラシックやな」
「なんと…なんと……」
この世界では音楽と言えばエルフが奏でる笛が至高とされていて、音楽関連は未発達である。弦楽器に至っては日本の小学生の知る知識以下であった。サイもルバラも、今まで聞いてきた音楽を遥かに凌駕する音に呆然としてしまった。
このミッツの音楽の教科書…改め『音の魔導書』が今後この世界の音楽を劇的に進化させることとなるのを、今はまだ誰も知らない。