21 冒険者の洗礼(煽り)
ぐだぐだ冒険者活動編
「さて、朝食も済ませた所で…ここの飯が王国の一般的な味だが、ミッツの正直な感想をどうぞ」
「うん、薄い!」
「本当に正直に言ったな」
昨晩は食事も取らず熟睡してしまったミッツ。
サイと一緒に宿の食堂でこの世界で初めてまともな食事を食べたが、内陸部の料理は塩がやや高価であるため薄味になる。言ってしまえば日本とは違って食文化がまだまだ発展途上なのだ。
それでも聞こえていて不機嫌になりかけたライラックの女将さんに地球の塩を少しお裾分けすると、途端に笑顔になって更に二人の連泊代を半額にした。塩を分けて貰えるだけでも高額割引きを即決ぐらいに庶民には嬉しい。
ミッツの持っている塩がとてもきめ細やかで口当たりもまろやかで王都でもなかなかお見かけしない品質であるのが最大の決め手でもあったが。
「さてミッツ、お前には今日の選択肢が3つある」
「はい!」
「ひとつ、この後すぐ冒険者ギルドへ行ってナビリスからクエスト受注の説明を受けて依頼をこなしてみる。おそらく薬草採取か町中での手伝い等になる」
「ほう」
「ふたつ、資金調達のために商業ギルドへ行き調味料その他を鑑定して貰う。さっきの女将さんの態度を見て分かる通り、絶対に騒ぎになるのでこの場合は冒険者活動が明日以降になる」
「わあ」
「みっつ、敢えてミチェリアを観光する。というかまず生活に慣れる」
「あーなるほど」
ミッツは悩んだ。どれもいいと思っている
サイが二杯目の紅茶を飲み終わる頃にようやく決定した
「冒険者活動する!商業ギルドは逃げへん!でもサイにお金借りっぱなしはあかんから明日商業ギルド行く!」
「なるほど。俺は稼いでる方だから別に返さなくてもいいが…観光はいいのか?」
「だって冒険者やっとったらその内慣れるやろ?もちろん最低限のマナーとかは教えて貰うし、俺には切り札『すみません、ワタシ渡り人なのでワカリマセン(片言)』がある」
「隠す気一切ないことは分かった」
お互い笑いながら宿を出る。今日も明光星は綺麗に3つ青空を彩っている。
しばらく人混みを歩くと昨日も来た冒険者ギルドへと辿り着いた。
「ミッツ。昨日より冒険者多いから気をつけて」
「何に?スリ?あっやっぱりあれか?冒険者といえば醍醐味のギルドに禁止されとる私闘の勃発か?」
「そんな醍醐味ない!いやあるとこにはあるけど!違うよ、ほら『契約者』のいざこざ!」
「あーそういや」
「ミッツが『獣使い』しかもポーン級だと分かった途端、たぶんビショップ級以下の『悪魔憑き』『天遣い』は突っかかってくるぞ」
「めんどいなぁ。でもゴッド級にもなったら突っかかってくるアホおらんやろ?」
「うーんあいつら『獣使い』自体をナメてるからな」
「じゃあ天使と悪魔は、精霊や神獣のことナメとるん?」
「それがそうでもないんだよなぁ」
ギルドに入ると昨日より多くの冒険者でごった返している。
依頼板で依頼を吟味する者、受付カウンターでやり取りする者、今日のクエストをどうするかパーティで話し合う者たち…
ミッツとサイは受付でナビリスがいる列へと並んだ。
すると程なくして、列の隣から女冒険者が自分たちを見ながらニヤニヤと笑っていることにミッツは気付いた。
「ねえねえ、あいつサイじゃん」
「うわっほんとだ!ギルド中が獣臭いと思ったら!」
「誰か一緒だけどあの子も『獣使い』かな?」
「え~やだますますギルドが獣臭くなっちゃうじゃん~」
品のない笑いをしながらこちらを見る女冒険者二人
「な?ナメてるだろ?俺をゴッド級と知っての発言だぜ?」
「…サイ、聞いてもええか?」
「ん?どうした?」
「いや、この世界ってクオッカみたいに愛玩動物もおるんよな?」
「ああ、いるぞ」
「『契約者』も『非契約者』も可愛い動物・神獣は好き?」
「まあ人にもよるが、昨日見たホーンラビットも愛玩動物として飼ってる奴もいる。首長ヒツジの牧場なんかもあって観光地になってるし」
ミッツが喧嘩売って来たであろう二人を見つつにっこりと笑いながら言う。
「俺、この世界の生活が落ち着いたら、近い内にめちゃんこ可愛い無害なネコちゃんウサちゃんワンちゃんと契約して、ギルドに許可貰ろて、精神安定効果があるモフモフなでなで喫茶コーナー作った上で、絶っっっっっ対『天遣い』と『悪魔憑き』には触らせずに『非契約者』だけご贔屓してナメてくる奴らに見せつけたるわ」
サイは数秒目をぱちくりさせてからにっこりと笑う
「その際は俺も是非協力してやろう」
「この世界に飼いたくても飼われん人らのために動物カフェの定義を植え付けたんねん…!」
「チキュウにはそんなものもあるのか…」
「あと、売られた喧嘩はちゃんと買わなあかんからな!」