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獣使いたちの冒険者記録  作者: 砂霧嵐
ある日森の中で出会うのは冒険者と渡り人
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2 森と冒険者と少年

「相変わらずこの辺りは歩き辛いな……む…」


開拓されていない森の中で冒険者の青年が一人佇んでいる。

手にした簡易羅針盤(コンパス)で自分の行くべき方角を確認すると、鬱蒼とした森が続くのを見てげんなりとしてしまう。この辺りは前後左右、どこへ向かってもひたすら森が続く場所であるので今更げんなりしても仕方ない。

ここに来るまでも草をかき分け細木を切って来たのにまだ続くというのか、しかも今度はより深い緑が見える。青年の持つ短剣でも切れないことはないが、ここに来るまでよりも背高く生い茂っている。


「いくら緑が目にいいと言っても、これだけ続くと滅入りそうだな…」


どこかで聞いたそんな話を思い出しつつ、鬱々とした気持ちを振り切るように青年は誰もいない空間へ(・・・・・・・・)話しかける。


「『シルフ』、ここから先30メトー程『切り開け』」

「分かタよ!」


青年の肩に現れた精霊(・・)が鋭利な風を巻き起こし、青年の指定した草木を刈り取っていく。

ざっと拓かれた森を見て、青年は素直に精霊へと感謝を告げる。


「ありがとうな。ついでにこの先何かいるか見えそうか?」

「んーーー…だイぶ先にゴブリンとかいるヨ!その手前に変なホーンラビト!」

「おそらく亜種だな。今回のクエストはホーンラビット亜種の毛皮採取だから早めに確認出来て良かったよ、助かっ…?!!」


短剣の状態を確認し、一度休憩を取ろうとした青年だったが、突然何かの気配を感じて空を見上げた。



木々で視界は見え辛かったが、青年の目には誰にも喚ばれて(・・・・)いないはずの精霊が大量に1ヶ所へ集まるのがしっかり見てとれた。

野良の精霊は確かに様々なところに存在しているが、誰にも喚ばれていないのに集団で、しかも属性関係亡く集まっているのはかなり珍しいことだ。


どの属性の精霊もパニックになりながらも攻撃などはせず、上空で留まってざわめいている。


「なんだ!精霊が集まってる?!おいシルフ!あれ何しているんだ!!誰かが喚んだのか?!」

「分からナい!でモみんな行かなキゃいけない言テるみたイ!シルフもいまサイに喚バれてなかタら行てタかモ!!」

「とにかく俺も向かうか…!何か出来ることがあるやもしれん!」


休憩しようと置きかけた荷物を慌てて持ち直し精霊たちの元へと走る。


空中に大量の精霊が集まる場の真下へ駆け込むと、ざわめいていた精霊たちが徐々に地面へ降りようとしてきた。

もう一度シルフに命じて地面の伸びきった雑草を刈り取らせ、場所を綺麗に空けて様子を伺うことにした。


降りてきた塊状態の精霊たちが地面に着陸し、駆け寄ろうとすると精霊たちは一気にみんな半透明になった。一斉に精霊界に還ろうとしている精霊たちに青年が急いで聞こうとするが、皆すがりつくような顔をして消えてしまった。


──残されたのは、正体不明の人物である。


「……なんだ…?人間族か?」


青年は突然空中に現れ精霊に囲まれていた人物を注意深く観察していく。


青年より少し幼い顔をしており、おそらく少年と呼んでよさそうな年頃のようだ。耳は典型的な人間のように丸みがある。外見的には少なくともエルフや獣人ではなさそうである。

しかし青年は警戒心を解けずにいた。何故なら少年の着ている黒い服が、シンプルながら見たこともないデザインと素材であったからだ。


「空から落ちてきたのなら…天使…いや服は黒いな、単純に悪魔か?…羽はないし様子も違う。うーん…間違いなく人間族だろうなぁ」

「耳も丸イしネ?」

「あまり見な……いや見たことがない服だな…防御力の欠片も感じないが……そもそもここへどうやって…何故精霊たちが……ん?」

「ぅ…」


シルフとひそひそ話していると少年が身動(みじろ)ぎ、うっすらと目を開けた。

ぼんやりとしているがしばらく辺りを見渡して、すぐに青年と目が合う。


「起きたか少年?俺のこと分かるか?見えてるか?」

「ここ…森……森!?」

「いきなり空中に現れたように見えた。おまけに精霊が大量に集まってお前を降ろしたんだ。少年、一体何者だ?」

「は?精霊?」

「それに見たこともない服…どこから来た?名前は?分かるか?」

「……いや…いや?!」


少年はまだ意識がはっきりしていないのか、かすれ声で喋っていたが意識が覚醒したのか、突然はきはきとした反応になる。


「いやいやいや何言うてんのオニイサン?!俺かてそないファンタジーな服着た人見たことないわ!コスプレか!?日本橋(ポンバシ)でコスプレイベントやっとったんか?!…ちゅうかオニイサンこそ誰?!ほんでここどこ?!森やん!!マジの森?!」

「え、ここは…シャグラス王国近くの無法帯だが…」

「なんて?日本のどのへん?」

「…ニホン?孤国連邦の一部か?ここはユラ大陸だがまずどうやってここへ…」



「…ん?」「…んん?」



話がほとんど噛み合わずに、二人して首をかしげる。



「とりあえず…落ち着いて話し合おうか」

「アッハイ」


青年はとりあえず、その場に簡易野営と昼食の準備をすることにした。

よく分からないが、とにかく少年も何か手伝おうと動き始めた。

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