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獣使いたちの冒険者記録  作者: 砂霧嵐
サイ・セルディーゾという存在
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160 獣使いのサイード

神々が帰った後、サイルはシャグラス王国での儀式を受けていた。儀式といってもこんなケースは滅多にないので、義理の家族になる手続きになるだけだが。

貴族の中でも信仰深い一族の侯爵であり各地の孤児院をまとめる男性がしずしずと前に出てきた。各地のシスターたちの一番上の上司であり司祭長である。


「神ノ島のサイル殿、初めまして。私はヘイル・バロッド。侯爵位を賜っており、各地にある身寄りのない孤児院を統括している司祭長も兼任しています。よろしくお願い致しますね」

「はい!よろしくお願いいたします!」

「元気があってよろしいですね。さて、これからあなたは、シャグラス王家の一員となります。それに伴い、名前を授けなければなりません」

「そうなの?」

「そうなのか?」

「そうなの?」

「何故陛下まで首を傾げるのですか?あっ、王妃殿下まで…。サイル殿の名前はこの国での名前ではなく、恐れ多くも神々の御元で過ごされていたという証です。これからはシャグラス王国で過ごすのですから、名前を新たにして第二の人生を進めるのですよ」

「なるほど。わかりました!お名前ってどう決めるんですか?」

「そうですね…。私も経験したこともないので、サイル殿の名前を捩るのが妥当でしょうかね。陛下、何か良い名前思いつかれますか?」


エルバート国王は腕を組み悩む。アメリア王妃も手を顔に当てて考え、バロッド侯爵も候補を考えている。


「ふむ。サイル、サイ、サイール…ラウールと被るが響きは悪くない。むう…」

「陛下のエルバートからサイートはどうかしら?」

「少し響きが軽いな」

「ではサイードでは?」

「サイード、サイード・シャグラスか。…良いな、サイルはどうだ?」

「サイード!一番すっぽりきました!」

「たぶん『しっくり』だな」


エルバート国王の実子がいるにも関わらず、血の繋がらない第一王子サイード・シャグラスが誕生した。

第一王子のことは訳あって遠戚で育てられていたと発表することになり、平民や貴族たちもすんなりと受け入れた。



サイードが王都に来てから、神々とはまた違った教育が施されていった。サイードは素直に育っていたので、ぐんぐん学んでいる。楽しそうである。

そんな中で従者長であり教育係であるベルサッチェ・セバスティーノは未だに緊張感を持って接していた。神々の血を人の身に流す特別な子供だということを知る数少ない一人であるがために、いずれ第一王子であることを増長し傲慢にならないかを懸念していたのだ。


「よろしいですかな、サイード殿下。ラウール殿下は陛下と王妃殿下がなかなか結ばれぬ期間を経て生まれた実子です」

「はい!可愛いですね、ぼくがおとうとだったので、すごく嬉しいです」

「そうですか、それは何より。それでですな…」

「ぼくがこの国にずっといるかは分かんないけど、おとうとがすべやすいような国になるといいね!あっ何か言いかけましたか?」

「…!ははは、そうですなぁ。いえ、こちらの独り言でした。お気になさらず」


本来なら実子であるラウールが第一王子であることを釘刺そうとしていた従者長は、サイードにその気がさらさら無いことに気付き、だんだんとサイードに対する緊張感を解いていった。


王城で過ごし1年が経ち、サイードは王子としての丁寧な言葉遣いと民に対しての優しい態度、そして銀髪の少しミステリアスな容姿で人気を博していた。

落ち着いた少年王子となったサイードは、まだ幼かったためになかなか会えていなかったラウールと自由に会える許可を貰った。

自由とはいうものの、お互い王族教育や手習いなどがあるためいつでも会えるわけではない。だがお互いに気になる存在ではあるらしく、気付けば2人で仲良く遊ぶようになっていた。サイードが家族になったのはラウールがまだ1歳頃で物心ついているかも微妙な時期だったので、ラウールはサイードのことを本気で兄だと思ってヒヨコよろしく後ろに着いて回って慕う仲となっていた。


もちろん、元の家族のことも忘れてはいない。

ラウールには適当に公務だと言って、年に4回、具体的には季節ごとにサイードは神ノ島へ専用転移魔法で帰っていた。帰るごとに成長していく姿を見て感激する豊穣神ハーヴェジルの流す涙はユラ大陸への祝福となり、サイードがいる間は農作物が豊作となるのだが、それは関係者しか知らないことである。

出来ればこれからもずっと感激していて欲しい、とは国王の独り言である。


そんなサイードが8歳、ラウールが3歳になる頃。まだまだお兄ちゃん離れしそうにないラウールが従者を連れてサイードの私室へといつものように突撃してきた。


「にいたま!にいたまー!」

「おや、ラウール。廊下は走ってはならないよ」

「ごめんなたい!でもね!ラウールもね、にいたまになるんだって!」

「…ん?」

「おかあたま、おとうとかいもうとができるって!」

「おやおや………マジで?」

「えっ、ラウールさま。本当ですか?僕も聞いてないんですが…」

「うん!おとうたまがいってた!『まだまだわたちもげーぇきだな!はっしゅるしたうぞー!おとうといっぱいつくったうぞー!』って。はっしゅるってなぁに?おとうとってつくれるの?いっぱいつくれるならいもーともいいなぁ」


サイードはラウールを抱えて廊下を低滑空して義両親の元へと向かった。ラウール付きの従者は余計なことを言った国王に初めてちょっと遺憾の意を覚え、サイードたちの後を早足で着いていく。

廊下を走ってはならないとは言ったが、飛んでるから走っていない。後で怒られたサイードはそう反論した。


「失礼しますよ義父上ー?」

「うおっ!?サイードか、なんだ?」


コンコンコンココココンと『失礼します開けますよ開けました』の独自解釈の意味を持つ高速ノックをしたサイードは、談話室でゆったりと寛いでアメリア王妃とイチャつこうとしているエルバート国王に話しかけた。


「義父上、ラウールに余計なこと言ったでしょう?」

「貴方、何か言ったの…?」

「何の話だ!?」

「『まだまだ私も現役だな、ハッスルしちゃうぞ、弟いっぱい作っちゃうぞ』」

「…アッ?!」

「弟は簡単に作れるものだとラウールが覚えてしまったらどうするんですか」

「つくれないのー?『あのやわぁだとちちはたまらんなー』も言ってたよ?やわぁだってなぁに?ちちっておとうたまのこと?」

「ほら手遅れじゃないですか、子供って覚えたことは繰り返し言うんですよ?何子供の前で言ってくれてるんですか、閨教育はさすがに早すぎます、どうしてくれるんですか」

「国王陛下、従者の身ながらさすがにその発言はどうかと思います」

「さすがに引くわ…」

「いや、まさかあの独り言を聞いているとは…!違うんだ、私もつい嬉しくてだな、というかサイードは何故知っているんだ?え、知ってるのか?まだ閨教育はしていないだろう?」

「私がどういう出自かお忘れですか?」

「あっ!あの方たちはありのままをお教えになられたのか…!」

「にいたま、あのかたたちって?」

「何でもないよ。さ、ラウール。義父上はこれから義母上とお話しがあるみたいだ。戻って少し遊ぼうか」

「はーい!」


サイードはサイルだった時に受けた教育の中で、ぼかして伝えることを一切しなかった愛神ビザエロによって生命誕生に関する一連の流れは全て教えられていた。なんなら島に生息しているサルの交尾も鹿の交尾も鳥の産卵も亀の産卵もじっくり見たことがある。神ノ島は結構動物も生息していた。

現場を見ても、うわーすごいな、としかサイルは思わなかった。


サイードとラウールと従者が出て行った後、談話室から大きな声が聞こえた気もしたがサイードと従者はさっさとラウールを連れて戻る。

エルバート国王も公務を除けば、まだ若い男であったということだ。

そんなこんながあり生まれたのは、メノーラ第一王女。その5年後にまた頑張ったらしく、ガルーダ第三王子が誕生した。



サイードが王族になってから5年、10歳になる頃に『魔水晶診断』が行われた。

ちなみにラウール王子は5歳、メノーラ王女は2歳である。ガルーダ王子はまだ生まれていない。

どの属性の魔力が一番使いやすいのか、そして『非契約者』かそれ以外なのかを調べるアレである。

実は神々でも契約者になっているかどうかは分からない。神々はこの世界の神なので、『良き隣人』の世界は干渉出来ないのだ。診断された後であれば神々も分かるようになるのだが、不思議な話である。


謁見の間よりも少し小さな部屋に王族たちとヘイル・バロッド侯爵…名付けの時のヘイル司祭長が集まり、ヘイル司祭長の持ってきた大きい水晶玉をサイードが覗き込む。


「これが魔水晶ですか。司祭長の顔より大きいですね」

「ええ。こちらは大昔に討伐されたハイエンシェントクリスタルドラゴンから採れた魔石をなんやかんや加工して作られたものです。ユラ大陸各地になる魔水晶も、同じ個体から採れた魔石を使って作られていますので…全て同じドラゴンから作られているらしいです」

「じゃあ…ものすっごく大きいドラゴンだったんだね?」

「文献によると辺境町2つよりも大きかったらしいので、それはもうめちゃくちゃ大きかったんでしょうな」

「すごい!見たかった!でも討伐されるぐらいだから何か人間族や亜人といざこざがあったんでしょう?縄張り争い?」

「そうですな。実はこのドラゴンにはある悲恋にまつわる実話がありましてな…」

「司祭長、司祭長。診断を始めてくれ」

「…かしこまりました」


サイードの少年心と隣にいるラウールのキラキラした目に触発されて心の中の少年を目覚めさせかけたヘイル司祭長は、エルバート国王に言われて正気に戻った。

サイードに手を翳すよう伝えると、魔水晶は強く輝きを放つ。


「…サイードさまは全ての属性を安定して使われるようです。これは素晴らしい。さすがは…いえ、まるで(・・・)神々に愛されているかのようですな!」

「やったー」

「それで…、ふむ。サイードさまは『獣使い』です」

「ほう!私と一緒だな」

「義父上も『獣使い』なんですか」

「ああ。契約獣は見せたことが無かったな、今度見せてあげよう」

「にいさまは『けものつかい』さんかぁ!ぼくも『けものつかい』がいいなぁ。にいさまとおそろいがいい!」

「ラウール、そこは義父上とお揃いであることを嬉しく思いなさい」

「もちろんおとうさまとお揃いも嬉しいです!あっ、おかあさまは何さんなんですか?」

「私は『非契約者』ですよ」

「へぇ!ぼくもメノーラも楽しみです!」


エルバート国王が素直に喜び、ラウールもよく分かっていないながらも兄を祝う。

サイードが誰と契約するのかと少年らしく想いを馳せる中、アメリア王妃だけは少しだけ顔色を曇らせていた。


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