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獣使いたちの冒険者記録  作者: 砂霧嵐
サイ・セルディーゾという存在
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158 神ノ島のサイル

月日の流れは早いものであっという間に5年が経った。

神々は年に数回ユラ大陸に向かう以外の生活はほぼほぼ自堕落…とまでは行かないが、目的は無くただ生きているだけで意味のある存在である。働くという概念もないし着飾るという概念もない。


そんな存在が人間の子供を、1から、育てる。とてもイレギュラーなことである。


神々は衣服も魔力で作っているため毎日変えるということはないが、人間はそうもいかない。本音としては我が子の着せ替えを楽しみたい。

知恵神メティオラは服を作る知識を披露し、手先の器用な神が初めて作ることになった。これを機に愛神ビザエロがファッションに目覚めることになる。


神々は毎日食事を取る必要がない。各自好きな時に好きなものを食べるだけで済むが、人間はそうもいかない。赤ん坊の頃は木の実や乳だけでいいが、そのうちそうもいかなくなる。

水神ネイラードは日課のただぼんやりしていただけの釣りで毎日魚を釣ってくるようになり、地神ポルノックと豊穣神ハーヴェジルと植物神ドルドナーは畑を新たに作り、空神アーパウラと鍛冶神ジェオララと戦神グジャラはタンパク源となる肉を狩るようになった。


5歳までの神ノ島ライフは赤ん坊…『サイル』にとっても、育て親となった神々にとっても特別な日々となった。いつの間にか全員で食事を取る習慣もついている。

このサイルという名前も、神の子となった翌日に名付けようという段階で相当揉めた。結果として全員の意見を混ぜて決まった。決まるまでに1週間かかった。


この他にも子育てで話題は尽きない。

例えばサイルが1歳になった時の出来事。覗いた記憶で誕生した日は判明しているが、神の子としての誕生日はその数日後なのでそちらを誕生日とし、神々なりに人の誕生祝いを真似た時のことだった。


「サイルちゃん!出来たわよぉ、小さなあなたでも食べられるケーキですわ!」

「あーうー」

「まあ!ありがとうお母さん愛してる、ですって!やだこの子天才!」

「言ってない言ってない」

「そうさな。今のはケーキより肉がいいよーだったぞ」

「お肉食べたいのは貴方でしょ、グジャラ」

「まあそうだな!」

「ふふ、お肉もあるわよぉ。人間たちは誕生祝いにいつもより豪華な食事とケーキを用意する、って取り寄せた本に書いてたわ」

「ふむ。ケーキを振る舞うのは知らなかったが…へえ、渡り人ユーヤからユラ大陸へ伝わったんだね」

「ケーキとやらはユーヤの思っているようなものには遠いらしいけどな」

「人間族だけじゃなくて他の種族でも誕生祝いは似たような感じなのねえ、面白いわ!」


神々もサイルを通して人間族のことを学んでいっていた。人にとっての数年は神にとって短い時間にも関わらず楽しく過ごしていた。子育てというものは時に大変なものである、ということを改めて学んだ万能神ゼノンを始めとした男神はユラ大陸の男たちに子育てを援助させる神託をこっそり送った。


ちなみに渡り人ユーヤは自炊はちょっと出来るタイプの学生であったが、さすがにケーキは作れなかった。かろうじて生クリームらしいものをクッキーらしいものに塗り付けるものをケーキ (仮)と呼び、そこからケーキはどんどん改良されている。だが、サイルに振る舞われる今も地球のケーキには届いていない。


クッキーらしいものがクッキーになるのが渡り人ミノリが来てからで、ケーキが地球のケーキと呼べるレベルになるのはここから20年後、ミツル・マツシマが来てからである。


こうして楽しく過ごしてはいるが、学ぶと余計なことも覚えてくる。例えばサイルが4歳になった頃のことである。


「ねえねえ、ローロアおとうさん」

「おやサイル、どうしたんだい?」

「おとうさんというのは、男のおやにあたるそんざいのことをいうんだよね?ローロアおとうさんからもらった本でよんだよ」

「言い方はアレだけど、そうだよ」

「おかあさんというのは、女のおやにあたるいだいなそんざいのことだよね?」

「…う、うん。そうだけど…」

「じゃあなんでビザエロダディはダディっていって、アーパウラパパはパパっていって、ハピュラスママはママっていうの?アリアーゼママンはママンなの?ママとママンのちがいってなぁに?」

「おっと…?」

「あとゼノンじいじの、じいじってどういうこと?おとうさんじゃないの?ゼノンじいじは……ぼくのおやじゃないの…?」

「全神、全員集合。ちょっと話し合う必要がある。ゼノン様もです」

「ネイラードは釣りに行ってるぞ」

「グジャラは内紛の起きた地域へ審判を下しに行ってるわ」

「ハピュラスも確かエルフたちのとこ(アルテミリア)のラルラテラ崖へ採取に行っていたはずだ」

「では夕方に全員集合です。サイルはお昼寝しなさい」

「はい!」


その日、サイルがお昼寝した後に第248回我が子会議が開かれた。


「別に良いだろう!?俺はお父さんよりパパって呼ばれたいんだ!」

「わたくしもマミーが良い!」

「母上でもよろしくてよ!」

「私もダディが良い!スマートな呼び名じゃないか!」

「マミーもおかあさんっていみなの?ママもマミーもいっしょで、ママはははうえで…??ダディはおとうさん…?」

「ほらサイルが混乱してるだろうが」

「じ、じいじは良いじゃろ!?私は見た目でも父親ではないし、お爺さんでは味がないじゃろ!」

「神の代表が爺孫の何を語るというんだ。……まあ良いでしょう」

「はい!はい!俺はお兄ちゃんがいい!お父さんは何かいやだ!あ、兄ちゃんでもいいな。アニキでも…うん、いい!」

「アリアーゼも!アリアーゼもお姉ちゃんがいい!お姉ちゃまでもいいわよ!でも年頃になったら姉さまがいい!思春期ってのになったらツンツンしながらの姉貴がいい!最終的には姉上でフィニッシュ!」

「綿密な計画を立てるな」


癒神ローロアの説教により、父親役のことはお父さん、母親役のことはお母さんと呼ぶように固定された。

ただし兄弟目線で接している者はお兄ちゃんお姉ちゃん、じいじ目線で接している(ゼノン)はじいじのままだった。


このように過ごして約5年。サイルは神の子としてすくすくと成長した。ここでいう神の子は『世間一般的な神の愛し子』的な意味が4割、『神々(わたしたち)の血が流れているのだから実質神々みんなの子供でしょ?』の意味が6割である。


本来栗色であっただろう髪の毛は、神の血を通わせた影響からか見事なサラサラ天然ストレート銀髪に。目の色も生来の青色から透き通るようなアウイナイト色へと変わっていた。色白な肌は元々である。


人間族からすれば誰が見ても美少年に育った子供は、今日も兄貴分の空神アーパウラと共に神ノ島にある山で空陸鬼ごっこをし、兄貴分である愛神ビザエロたちに神々目線のいらんイタズラを教えてもらい、すっかり母の自覚を持った知恵神メティオラに3人まとめて怒られたりしていた。やんちゃ盛りである。

人の子としてはやや常識に欠けるところがあるが、同い年の基準がいないこの島においては些事であった。




そうして5歳の誕生日を翌週に迎えたある日、ユラ大陸の三大大国の1つであるシャグラス王国の国王夫妻から神々に相談をしたいという願いを受けた。

万能神ゼノンが代表として向かうことになり、サイルは豊穣神ハーヴェジルに抱っこされて手を振って見送った。自分には関係ないことだけど、じいじがお仕事をしにお出かけするから笑顔で見送った。じいじ(ゼノン)はニッコニコで王都シャグラードの謁見の間へと舞い降りた。


「万能神ゼノンさま、この度は我らの願いにお応え頂き誠に有難き………あの、何か良いことがありましたか?」

「む?分かるか?少しな」

「そうでしたか。それは良きことですな」

「うむ。して、そなたらの用件は何だ?何かあったのか?」


対面したのは玉座から降りて膝をつく、若き国王エルバート・シャグラス。その横には若き王妃アメリア・シャグラスもおり、腕には赤ん坊が抱かれていた。


玉座と同じ段に据えられた席へ座ると、エルバート国王は真剣な顔で話を始めた。


「ここにいる私の子、ラウール・シャグラスのことは覚えておいででしょうか」

「覚えているも何も、ついこの前に祝ってやったではないか」

「ついこの前というか1年前ですね。その節はありがとうございました。そのラウールなのですが……王城に代々仕えている占い師によると、どうやら運命力が低下しているということでして…」

「運命力が?何か人生の岐路に至るということか」

「我々にも分かりません。ですが、その未来に過酷な顛末があるかもしれないという結果です。神から見てどうかと思ってお呼びしました」

「ふむ。少し視せて貰おう」


運命力を司るのは運命神アリアーゼであるが、万能神ゼノンもある程度視たりすることが出来る。万能を司るから。

万能神ゼノンがラウールの目を視ると、確かに運命力の低下傾向が見られた。


「話は分かった、この下がり方は確かに気になる。運命神アリアーゼに伝えておこう」

「ありがとうございます!」

「……ところでエルバートよ」

「はい?」

「人払いを」


それを聞いたエルバート国王はアメリア王妃も含めた全ての人間を謁見の間から出させる。

万能神ゼノンが念の為に防音魔法も使い、万全の状態となった。


「さて、お前も知っているとは思うのだが」

「何をでしょう?供物ですか?いつも通り自然のもので作った最高品質の工芸品を供えますよ。ちなみに今回の予定供物は赤密林ウッドワードで採れた木の籠です」

「いや、私の孫のサイルについてなんだがの」

「いや初耳ですが!?お孫さまがおられるので!?」


自らの出来事を誰かに伝える、という人間たちなら当たり前なことを神々は誰もしていなかった。万能神ゼノンの数少ないうっかりである。

ここで初めて、神ノ島のサイル少年の存在が他人へ伝えられることになる。

神送りで奇跡的に島へ辿り着いたことから神の血を流す特殊な人間であることも伝えられた。


「はぁ、なるほど。我々がで悩んでいた5年、神々は子育てに勤しんでおられたと。なるほど」

「含みのある言い方よな。はっきり申せ、今なら不問とするぞ」

「なんか腹立ちます」

「こやつめ、はっきり言いおって…」

「で、そのサイルさまがどうなさったので」

「サイルで良い。うむ、それなんだがな…」


万能神ゼノンは少し言い淀みながらも、はっきりと告げる。


「サイルを、お前たち人間族や亜人たちの国で育てて貰うことを、万能神ゼノン以下全ての神は願っておるのだ」


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