156 さっきまで行方不明だった第一王子と謎と謎と謎と以下略
「色々、本当に色々聞かねばならぬことがあるのだがな」
「そうですね」
「何から聞けば良いと思うかね?ミッツよ」
「個人的にはサイのこと聞きたいんやけど、あっちの王のことも纏めなあかんのちゃいますかね」
「そうだな。だが…まずこれを腹に入れようか。流石に疲れたのでな、甘味が今とても有り難い。ああ、王族の前だとか気にせず各々くつろぎながら食べよ。今は多少の無礼講を許す」
「「あざーす……」」
サイとギルバートが飛び出した時には、無法帯の王エサイアスも側近大男トードルドも、王城エリアを囲っていた結界と生きた魔コウモリも既に消え去っていた。
今、王城とその周りは生存者と死傷者の仕分け、魔コウモリの死骸回収、遺体の身元確認、建物などの損害状況の把握、治療のための搬送、など様々なことをするために王城はその門を全て開けて手伝いや治癒士を行き来出来るようにしている。
あの部屋にいた王族と、騎士たち、兵士たち、冒険者たち、薬師1名は安全を確認された応接室へと腰を落ち着かせて、ひとまず休憩をとっていた。
非常事態の中、寝ることなく何も出来なくても頑張って様子を見ていたガルーダ第三王子は、さすがに眠くなったのかソファでうとうとしかけている。
庭園にいたグングニールは流石に疲れたとボディランゲージして『良き隣人』世界へ帰って行った。それと同じくして地味に戦っていたサイの契約獣たちとチャトラのエメラルドマーモセットも帰った。
みんな、お土産にミッツから貰ったチョコの包みを大事に抱えて。なんならチョコをつまみながら。ガーゴイルがどうやってチョコを食べるのかは分からないが。
先に帰ってしまった双頭ワシにも渡してくれるとライトグリズリーが頷いてくれたので、ミッツはライトグリズリーにチョコの包みを2つ持たせていた。両脇に包みを抱えるライトグリズリーはちょっと可愛かった。
生き残っていた中でも精神的に無事であるメイドが全員に紅茶を配膳し、ミッツがお茶請けとして学生鞄から作り置きの大量のプリンを配膳し、ようやく話をする態勢が整った。
これはモフモフカフェで提供するプリンの練習のために大量に作られた試作品で少し不格好あったが、全員疲れていたので特に何も言われることはなかった。味は美味しい。
とりあえずみんながプリンを黙々と食べる中、サイは1人掛けソファに座らされ、目を閉じてただ静かにしている。日本的にいうと誕生日席だ。
「ほへへ、ひっふほひひはひほほ」
「スプーン咥えんと話してくれや。俺そこまで言葉通じへんでギルさん」
「ん、…ミッツの聞きたいこと、とりあえず纏めてくれよ」
「ギルバートの言う通りですわね。おそらくミッツさんが一番客観的に見られる立場ですもの」
「えー、ほな2分待ってな」
ミッツは思い出しながらルーズリーフにざかざか書いていく。
・王城の被害状況
・無法帯の王エサイアスとトードルドのこと
・エサイアスと国王に面識あったのか
・昏き海ってどんなとこ?
・そもそも無法帯ほとんど知らん
・サイード第一王子について
・待って?さっき銀の血じゃなかった?
・それ言うたらあいつら目赤くなかった?魔物?
・なんで俺とサイだけあいつの目見ても動けたん?
・そもそもサイについて
・サイって何者?
・サイについて詳しく調べました!
「後半、何?」
「悪ノリし過ぎたわ。でも俺聞きたい第一位そのへんやからな」
「それについては俺もだ」
「私も」
ラロロイだけは困ったように微笑み、プリンの器を持ったままでいる。ミッツは気付いてなんとなく器を受け取ってアイスを盛り付けて渡してあげた。すごく嬉しそうである。
ガルーダ王子にも同じ目をされたので同じことをしておく。
「黙っていますがラロロイは聞きたくありませんの?アイス食べている場合ではありませんのよ。美味しいですけれども」
「これを知っているということはモフモフカフェに行ったことあるのですか?羨ましい。私は…サイのことを多少知ってますので」
「え、何を!?」
「何でラロロイだけ!俺ら何も知らんのだが!?」
「というかサイは何故黙ったままですの!?」
「え、いや…その…」
四頂点の面々でぎゃいぎゃい言い合っていると、声をあげる者がいた。
「陛下、発言をお許しください」
「うむ。ベルサッチェ、発言を許可する」
「ありがとうございます」
立て籠もり談話室にはいなかったが、王族の安全を確認するために真っ先に応接室へ駆け込んできていた初老の男性がエルバート国王の隣へ立つ。
部屋に入って来た時、サイを見て動揺していた人物でもある。
「私は王族に仕える従者長のベルサッチェ・セバスティーノと申します。秘書や専属執事のようなものとお思いくださいませ」
「私はこれまでゴッド級冒険者であるサイさまを何度もご案内したり話し合ったりしたことがあります。ええ、『サイ・セルディーゾ』という人物として接してきました。しかし…今見ると、『この方はサイさまである』という考えと同時に…『この方はサイード第一王子殿下である』と、そう思えるのです」
「私から見てもそう思うのだ。どういうことだ?サイ、いやサイード、……この場合どう呼べば正解なのか…」
「間とってサイでええんちゃうかな」
一度会話が途切れた時に、エルバート国王を見たミッツはその視界に必然的に入ったアメリア王妃を見て思い出した。
「えーと、サイが話してくれる気になる前に、ちょっと失礼。えーと、精霊たち、おる?」
わらわらと野良精霊たちがミッツの周りに集まってくる。
あの結界は解けたので『良き隣人』世界からまたやってきた精霊もいれば、突入時からずっと一緒にいてくれている精霊もいた。
「えっとなー、呪いとかまじないとか、そんなんも何とか出来る?」
「デキルゾー」「もチろん!」
「ほうかー。せやったら……ん?そういや戦っとる時も思ったんやけど、そんな流暢に喋れたっけ?」
「ミッツ、私やサイは聞こえていますがおそらく一部の者にしか精霊の言葉は聞き取れませんよ。精霊の瞳が成長したのではないかと」
「あ、そうなん?まあええわ、えっとな…『もしもし!あの黒モヤ、なんとかして!』」
ラロロイが疑問を解消してくれてちょっとスッキリしたミッツは突然アメリア王妃を指差すと、スマホ越しに精霊へお願いした。
何故か逃げようとするアメリア王妃だったが着ているドレスは王妃に相応しい豪華な作りとなっている。ドレスって割と普通に重い。
あっさり精霊に囲まれて、ミッツには見えていた黒モヤが精霊たちによって掻き消された。黒モヤはミッツが身構えていた小さい瓶に集められる。
王妃は一瞬がくんと気絶し、すぐに起きた。
「…あら…あ、あ…?」
「どうした!?大丈夫か!?」
「わたくし…私……!なんてこと…!」
アメリア王妃は狼狽し、エルバート国王が支えている。騎士たちはミッツに剣を突き付けようとしていた。
「どうなっている?何をした!?」
「何があったか知らないがこれ以上事態をややこしくするな!」
「いや、王妃さんに纏わり憑いとったのを、こう、ぺいってしたんや。たぶんこれ、呪いか何かやな」
「呪い!?王妃殿下が呪われていたと!?」
騎士たちは剣をあっさり仕舞った。
「おい聞きたいことを増やすんじゃない!でもよくやった!何の呪いだ!?」
「それも話さなあかんねんけど、俺はまずサイのこと聞きたい」
ミッツは質問事項に書き足した。
・アメリア王妃の呪い?について
「仕方ないか…、国王陛下。1つお願いが」
「何だ?サイード…、サイ?」
「どちらでも好きに呼んでください。認めますから」
「認める?」
ため息をつきながらサイが自前の銀髪を束ねる。
束ねた髪を右肩から胸にかけて垂らすと、一部の人々があっと声を出す。
「俺が、サイ・セルディーゾであり、サイード・シャグラスでもある、ということを認めます。ええ、俺は第一王子だった男です。今は1人の冒険者ですけど」
「そうか。…懐かしいな、お前の銀髪はあまり切ってはならぬとあの方々に言われていたからよくアメリアが髪を結ってやっていた…そうか、無事だったのだな」
「ええ、おかげさまで」
「え、え?兄上?本当に…?」
「兄様…?」
大混乱の王族に、サイは更に爆弾を落とそうとしていた。
「んじゃ、早速お願いを聞いてくれますかね」
「お、おお。何だ?」
「ここに、父さんたちをよびます」
「……ん?」
「よう分からんけど、サイが王子さまなんやったら…お父さんは王様ちゃうの?」
「あ、俺は養子なんだよ。だから国王陛下は義父。ミッツとちょっとだけ同じだな!」
「あかん、また聞きたいこと増えよった…!」
「これから説明するよ。そんなわけで、よびます」
懐かしく思っていたのと思考が停止したことで一拍遅れ、「待て…待て!」と慌てるエルバート国王。しかし、止めるには遅かった。
【父さん、母さん、何人かでいいので暇なら来てください】
『来てく』の辺りで凄まじい閃光が部屋を走り抜け、部屋は白く塗りつぶされた。一瞬のことだったが数秒間全員が目を閉じ、目を開けた頃に応接室に人影が増えていた。
もちろん、異変を察知した騎士などではない。
サイは増えた人影に普通に話しかける。
「父さんたち、母さんたち、久しぶり」
「おお、サイル!久しいの!もうここまで大きくなったか!人間の成長は早いな!」
「もっと喚べと言うとるのに!もしくは遊びに来い!なんだ、友達出来たんだろ?俺らに紹介ぐらいしろよ」
「サイルちゃん本当に久しぶりねえ!お母さん泣いちゃいそう!急に喚ぶんだもの、お土産もないわよお!あ、何かお花でも咲かせましょうか?ワラネアのお花なんてどうかしら!ね、あなた!」
「ワラネアの花は絶滅寸前種だからそこそこの年齢のエルフも見たことないはずだよ。それより落ち着いてね。そもそも今はサイルではないのだろう?何だったか、サイードでいいのかい?」
「サイードはもう違うのではなかったか?今はサイと名乗っていたはずだ」
誕生日席にいたサイは増えた人影に囲まれてやりとりを交わし、他のみんなはそれをぽかんと見つめていた。
「父さん母さん、落ち着いて」
「ん。ネイラードも来たそうだったんだがな、今は黄金サーペントを釣り上げて戦っていたぞ。ありゃ大物だったぞ、帰って食うのが楽しみだ。今度刺身を送ってやろうな」
「ああ…それは手が離せないね。黄金サーペントは俺も好きだし、お願いする。そうだ、ミッツは刺身…生魚好き?」
「え、だっっっっいすき。日本は新鮮な生魚捌いて食べるで。お寿司大好きお造り大好き、もちろん焼いても煮ても大好き。サーモンもまぐろも好きやで」
「だってさ。2人分お願いしておく」
人の姿はしているが、明らかに人ではないオーラを放っている。人の顔をしているが、人の魔力では推し量ることが出来ないものを纏っている。
そんな彼らの顔を、部屋にいるほぼ全ての者はよく知っている。知らないのはこの大陸でまだ半年しか過ごしていないミッツとモモチだけ。いやモモチも何かしらを感じ取ってびっくりしていた。
呆然とする面々に、サイが苦笑いしながら紹介する。
「えーと、知っているかもしれないが紹介する。彼らが俺の父さんと母さんたち。の、一部。神ノ島に居る、正真正銘の神々だ」
「「「よろしく」」」
「え、え…?植物神ドルドナーさま…?」
「ハーヴェジルさま!!」
「ロロ、ロ、ロ、ローロアさま?!!」
「グジャラさままで!?え、父さんっつった!?」
「ジェオララさまじゃ!!?ひぇえ…!」
「うーん、説明おおきに。どれが誰かは分からんけど」
更に大混乱に陥っている面々を見て、ミッツもちょっと困った。困ったので大混乱に陥れた張本人に尋ねることにする。
「サイ、俺、もう何から聞いたらええんか分からん…」
「そうだな、俺もどれから説明すりゃいいか分からなくて黙っていたところだ」
「あっ、あれ黙秘しとったんちゃうんかいな」
黙秘していたわけではなく、単に考えを纏めようと考え込んでいただけらしい。
サイはとりあえず、話す順序をざっくり決め、そのために両親たちを呼んだらしい。
そんな気軽に呼べるんだ、とミッツは思った。
「うん、では、とりあえずは俺の過去から話そうか」
「あ、うん。よろしゅう…」