146 小鳥、そしておじいちゃん
でかい小鳥、改めマリエッテを守る大きい小鳥ちゃん、改め守護小鳥は想像より強かった。それはもう、浪漫の国ファジュラに点在するダンジョンの中でもそれなりの難易度に匹敵するダンジョンのフロアボスぐらいには強かった。
人を見た目で物事を判断してはならない、とはよく言ったものである。人じゃないが。
大きいとはいえ一応小鳥の外見だったのに、突然小鳥の顔を残して首から下が翼の生えたムキムキのごついマッチョになったり、風属性魔法だけだったのに突然氷属性の上級魔法を使ってきたり、翼が3対になったり、1つ目の試練にしては濃い時間が過ぎた。
最終的にサイの驚異なる銀で羽を1つもいだ。ミチェリアのパレードでアンデッドドラゴンたちを串刺しして以来で久しぶりに見る、銀の針で攻撃するやつだ。
近くで見ても針が金属かどうかも分からない。針の正体は未だ謎。
「はぁ…ぜぇ…!驚異なる銀で羽しかもげないとか…!何で出来てるんだあの羽!!」
【むっ、ボクちゃんの羽をもぐとはやるでちゅ!さあ目的を言うでちゅ!】
「え、なにこいつ、今目的聞くの?」
「現王族に危機が訪れているが地上から近付けぬため、少数精鋭で我々冒険者が地下から救援に向かうところだ」
【なんと!ボクちゃんと戦ってる場合ではないでちゅ!さっさと行くでちゅ!】
「あんたが話を聞かねえからだろ、あっごめんなさい何でもないっす、はい」
戦闘に参加していなかったトムがツッコんだが、守護小鳥マッチョは特に気にしなかった。嘘である。マッチョ威嚇のポーズをとってトムに威嚇していた。そこまで威圧をかけるには眠れない夜もあっただろう。
マッチョ威嚇のポーズってなんだろうね。
小鳥マッチョは潜入パーティが入ってきた扉とは反対の壁を筋肉美あふれる腕を上げて指差すと、壁の一部がボロボロと崩れ、部屋の出口の鉄扉へと変わった。
そして小鳥マッチョはただのでかい小鳥へと姿を戻す。どうやら見送ってくれるようだ。
「よし、ここの試練終わり!気を取り直して行くぞ」
【あっ、次の試練はボクちゃんと違って戦いは無いでちゅ。ただ面倒なだけでちゅよ!】
バタンと閉まる扉から不吉な台詞が聞こえた。
「面倒…?」
「さっきもだいぶ面倒だったような…」
「何度も言うが俺も内容知らないからな。さっさと行くぞ」
再び石造りの地下通路を走ること15分。次の扉が見えてきたので、さっさと開けることにした。
戦闘が無いという話だったので、武器を構えることもないし。
さっきは原っぱの部屋だったのに対し、今度の部屋は洞窟の行き止まりのような空間になっている。
奥には白いフードを深く被った老人が剥き出しの岩に座っていた。膝には本を、肩には小鳥を乗せている。
生きた人間ではなく魔法で作られた存在のようだった。
【よくぞ参った。この抜け道に侵入者か助っ人が入るのは実に299年ぶりじゃ】
「魔法使い…か?」
「いいえ、この気配は…魔法そのものです」
【そこなエルフの言う通り、我は魔法で作られた存在。とは言っても、抜け道の守護者は皆そうなんじゃがな。ああ、小鳥を従えたおじいちゃん、が我の名前じゃ】
「そのまんまじゃん」
「こら、不敬だぞノルリエ。昔の幼い王女がつけたんだ、ちょっと名前が単純だからってそんな言い方よくない」
【おぬしも相当不敬じゃがな。まあ、しがない魔法使いのようなものと思ってくれ。さて…エルバートらを救うために急ぐのであろう?】
「知っているのか。その通り、今の王家に危機が迫っている」
【今の四頂点が数人おって良かったのう。まだ大丈夫じゃが、急ぐのに越したことはなかろう】
「なんで知ってるの?」
【はは、なんでじゃろうなぁ?】
魔法使いは肩の小鳥を岩に置いてあげると、膝の本をパラパラと捲った。
【何者にしても、試練は受けて貰わねばならんからな。この部屋での試練は、問いかけの試練。この我の問いを5問出す故、誰かが1問でも答えることが出来れば通れるようにしよう。では、早速問うぞ】
守護小鳥の時よりも冒険者たちは身構えた。
脳筋が多い冒険者は謎かけや頭脳を使うギミックを解くのが苦手なことが多い。そのためダンジョンなどでは、単純な戦闘よりも謎解きギミックや罠で命を落とす割合の方が高いぐらいだ。
罠を解除したりすることが多い斥候職フルッタ、賢き種族のチャトラ、ゴッド級冒険者のサイ、そしてあの児童養護施設に一矢報いるためにいっぱい調べ物をしていた図書室で息抜きがてらなぞなぞの本をそれなりに読んできた経歴のあるミッツが率先し、どんな問いかけが来るのかと身構えた。
モモチはあくびをしている。
他の冒険者はたぶん答えられないだろうけど、一応後方で聞くことにした。
ちなみにトムも謎解きは苦手な部類であるので、後方で三角座りして様子を見守っていた。
どうでもいいけど、三角座りって関西だけの言い方らしい、とテレビで昔見たことをミッツは思い出した。
【よるの無法帯はたいへんきけんなので、平民のこどもひとりでいってはならない。合っているか否か?】
「なんやその幼児に語りかけるような喋り方は。そら…あかんやろ」
「こども1人ではダメだろう。その通りだ!」
「合ってる!!」
「私も同じく!」
【残念。無法帯は昼も夜も危なき所。そもそも子供が1人であろうが何人であろうが無法帯に入ること事態が間違っておる】
「「は?」」
【次。おうさまのたからばこに入っているものとは?】
「財宝!」
「えーと機密文書!」
「お宝!」
「いや待てよ、さっきの問答傾向から察するに……答え!王家に宝箱という概念はない!宝が入っているのは宝物庫だ!」
【残念。王族の宝を把握すること、すなわちプライベートな問題。王族以外に知る権利はない】
「はぁああーーーっ!!!??ふざけてんの!?」
「…クソ解答じゃねえか!」
「クソなぞなぞやないか!」
「これは酷い」
「いや待ってクソなぞなぞって言うたけど、これあれか!教習所のひっかけ記述か…!義姉ちゃんの免許取得ん時に問題見せてもろたことある!あれ?ちょっとちゃうかな?」
【そんなボロクソ言われるぐらい我の問いかけは酷いか?】
散々な言われようにショックを受ける魔法使い。
まあまあクセのある問いが書かれているらしい本を寂しそうに撫でる。
【我…なうでやんぐな…創造主である王女さまの最新問いかけ本と最新の謎解き本を参考にしておるだけなのだがな】
「なうでやんぐ、が既に古い」
「なるほど、小学生向けのなぞなぞも書かれとる本ってことかいな。そら理不尽やわ」
「廃れた町の場末の酒場の倉庫奥に打ち捨てられてる酒瓶ぐらい古い」
「当時の最新は現在の懐古だぞ」
【お前さんら…】
チクチクとショックが積み重なって、魔法使いはちょっと拗ねる。
【しかし試練は試練!よくも王女さまが笑顔で差し出してくださった問いかけ本を愚弄してくれたな!】
「あ、キレた」
【しかもその場には当時の国王グラリッドさまもおられ、生暖かい目をしていらっしゃったのだ!国王陛下もたぶん直々にお認めになった本なのじゃぞ!なんとなく苦笑いしておった気もするが!】
「やべ、これ王族に対しての不敬になる?」
「いえ時効でしょう。グラリッド国王は350年ぐらい前の国王だったはず」
「チャトラよく知ってるわね。さすがエルフ」
【ええい、さっさと次を問おう!ある種族が雨乞いの儀式で舞を踊ると必ず雨が降る!何故か?】
「急に饒舌になったな」
「ちょ、タイム」
今までのこともあり、みんな慎重に考える。
後方組もなんとなく腕組みをしてそれっぽい答えを考える。が、特に思いつかなかったので全員でぼそぼそ雑談し始めていた。
「よし、その種族は雨乞いの魔法を受け継いでいたから」
「その土地が雨が降りやすい土地だったから」
「たまたま!偶然!」
「えーと雨女がいたから!」
【雨が降るまで踊り続けていたからだ】
「はぁー…」
【本気のため息やめてくれぬか?傷付く】
「傷付いてんのはこっちよ」
続けてもう一問聞かされ、同じように理不尽な回答をされて冒険者たちはまた深くため息をついた。
残り一問はなんとしても答えなくてはならない。
【では最後じゃ。始まりは四つ足、しばらく二足、やがて三足となる生き物。何か?】
「え、何その化け物」
「魔物か…?不覚、このエルフでも知らぬ魔物がおるとは…」
「んん?」
冒険者たちは悩む。魔物がいることが思考を邪魔しているらしい。
あまりにも有名ななぞなぞが突然出てきたことに、そして他の冒険者たちが苦悶していることに、地球人のミッツだけがきょとんとしていた。
「え、急にド定番なぞなぞ来るやん。答えは人間。赤ちゃんハイハイから歩き始めて、最後は杖つくようになるから。いやユラ大陸やと亜人も含むんか?」
【正解。生まれて這い、歩き、やがて杖が必要となる生き物、すなわち人間である。亜人は杖を使わぬことも多いし人魚族などは例外じゃから、亜人は該当せぬ】
「ぁあ?」
「あー…えー?」
「納得できん。杖は足に入るのか?」
「杖を必要としない者もいるのに」
【これが正解なんじゃもの、受け入れよ。正解したのだから良かったではないか。さあ次の試練を受けに行くが良い】
いまいち納得出来ていない冒険者たちは、魔法使いに見送られながら、再び出現した扉を通って先へと進むことになった。
【………そうか…もうこの問いかけ本は古いのか…。いや、そうじゃな、よく考えると我もう300年以上ここにおるからの…これが、じぇねれいしょんぎゃっぷというやつか…】