144 王家の抜け道、出口にて
「臨時潜入パーティはこれ以上絞れない。リストを渡しておこう」
「おう、あとの実行は任せろ」
「すまん、俺は結界外の様子をきちんと見ておく。頼んだぞ」
「まあ…すぐには行かないんだけどな」
臨時パーティは『獣使い』3人、『非契約者』8人、下級兵士の『非契約者』1人で決定した。基本的にクイーン級以上とA級以上で構成されている。
その中にサイ、ミッツ、ノルリエ、トムが含まれていて、獣人たちも候補にいたが先ほどの出来事で外された。あんな超音波を身近で聞かなくて済むので獣人たちはほっとしている。
『獣使い』である双子はパーティ編成候補から外されてしまった。残念そうにしているが、ギルドマスターの決定なので素直に従っていた。
「臨時パーティ…えーと『急げ!王城ドキドキわくわく探検隊』とでも記録しておくか」
「ギルマス、あんたもナビリスみたいだな」
「あ?ミチェリアのナビリスは遠縁だぞ」
「血が強いな…」
「まあこの際名前はなんでもいい。ある意味探検のようなものだしな」
「え、そうなのか?」
「まあね」
ギルドの酒場の一角に集められた11人はサイとギルマスの話を聞きながら、緊張感を高めている。トムも起きて、椅子に座りながら話を聞いている。足はまだ片方だけである。
自分たちの肩に王城内の人々、王族の安全がのしかかっているからだ。どうなっているのかも確認出来ない以上、既に…ということもあるが、早く助毛に向かわなくてはという使命を抱いている。
「えーなんだっけ?『行け!王城ぞくぞく救助隊』?のリーダーは俺、ゴッド級のサイが務める。異議は?」
「「なし」」
「異議あり!『急げ!王城ドキドキわくわく探検隊』だ!」
「よろしい。早速だがお前らに説明を簡潔、されど詳しく話した後、速やかに明日早朝まで寝て貰う」
「「え?」」
「おい俺は無視か?おい」
「抜け道を教えるとは言ったが、その抜け道出口から王城内のとある部屋まで、結構な距離があるし、面倒な所もある。迷路、いやダンジョンのようだと思っていてくれ」
「うわ…まあ王家の使う抜け道ならそうならざるを得ないのか?」
「その通り、だから体力を温存させるため、そしてコウモリの活動が比較的落ち着く朝方に王城へ入れるようにする。さて俺たち…面倒だな、『探検隊』の行動をざっと説明するぞ」
「無視か?俺ギルドマスターなんだぞ?名前って大事なんだぞ?」
ベイラッドを無視したサイのざっくりとした説明はこうだ。
まず早朝に抜け道出口から侵入し、王家の抜け道の入口の1つを目指す。
そこまでには急いでも2時間はかかるため、これから十分な休息をとる。今のところゴッド級の証に異変はないので、大丈夫なはず。
そこまでの道のりでは各自、出来るだけ魔法を使わずに移動。もし魔法を感じ取られたら終わりなので。ただし気配を隠すために隠密魔法だけは、冒険者ギルドにいる中で一番腕の良い斥候職の『非契約者』にかけてもらう。この斥候職は共に同行するメンバーの1人だ。
そうして辿り着いた先で、状況を見てサイの指示で部屋へ突入、状況により戦闘、の予定。
そんなわけでギルドの宿泊施設を借り、臨時潜入パーティ全員に仮眠を取らせることとなった。おやすみ。
そうして眠ること数時間。明光星がうっすらと輝く、夜も明けきっていないような時間、『探検隊』の面々は冒険者ギルド前からひっそりと移動しようとしていた。
その中には、仮眠中に無事足を生やせたトムもちゃんといる。上級治癒術士は幻の回復薬を使えたことや数分で人体を再生出来たことに感動を覚えていたが、その辺の話は省く。
「これより『王家の抜け道』の1つへ案内する、着いてこい」
「サイ、その抜け道、一応俺も見させて貰うぞ」
「構わないぞ。どうせ内部は複雑だしダンジョンのようだから一度では覚えられないだろうし、ギルマスはその一端しか見ないんだし」
なんでお前は内部を知ってるんだよ、と全員思ったがとりあえず黙っておいた。
数分後、昼間なら人々の憩いとなる噴水広場、その1つである南西の噴水広場へサイは案内してきた。
王都に8つある噴水広場はそれぞれ特徴がある。
例えば北の噴水は貴族街にあるからか豪華な金ピカの竜の像が噴水に巻き付いたもの、西の噴水は噴水の周りで子熊と母熊の像が戯れているものである。
この南西の噴水広場は噴水の周りに小鳥の彫刻がたくさんあることが特徴で、他にこれといった特別な何かはなさそうに見える。
「南西の噴水広場っすか」
「トム・ダッケル兵は…」
「トムでいいっす」
「そうか。ではトムはこの広場へ来たことは?」
「そりゃもちろん。巡回でもプライベートでもあるっすよ。他の噴水広場にもね。でもまさか、こんなところに抜け道への入口が?」
トムは辺りをキョロキョロと見渡す。
王都を観光したことのある冒険者たちもキョロキョロするが、静まりかえっていること以外は特に何もない。
「正確には抜け道の出口だけどな。ああ、これから付かう抜け道の内部は、別に覚えてもいいぞ」
「へ?」
「どうせ今回使った後、王家の命令で今後埋められるか、道順が変更になるだろうし」
「あー…そうっすよね。冒険者と下っ端兵士が通ったことある道とか、信用されないっすもん…」
「まあそれもあるが、俺らが通ったら痕跡残るだろ?それを賊に辿られるかもしれないし」
「あ、そっち?」
「ところでその出口、どこにあるん?抜け道ってことは何かギミックとかあるん?小鳥さん押したら地面に階段現れるとか?それとも周りの建物のどこかがダミーとか?」
「いや、普通に噴水の中だが?周りはただの住宅だ」
「「え?」」
サイが親指で指したのは噴水広場のど真ん中、噴水そのものだった。
皆に少し離れてもらい、噴水の前でサイが何かを言うと噴水の放水が止まった。
と思ったら、急激に噴水の水が消えていく。よく見ると噴水の中央の柱にいつの間にか穴が開いているのでそこから水は抜けているのだろう。
ざばざばと穴に水が流れて残り少なくなってきた頃、周りにいた小鳥の彫刻がカタカタと動き、穴へわらわら集まると小鳥は一斉に穴へ飛び込んだ。
すぐに穴から、大きくなった小鳥の彫刻が1体顔を出す。意思を持つかのようにぎゅむぎゅむと穴を頭で押し上げると、そのまま噴水の柱と一体化した。
後には水のない噴水と、その中央の柱に空いた人が通れるぐらいの空洞、その空洞を見守る大きな小鳥の顔だけが残った。
空洞を覗くと、地下へと向かう階段が見える。その先はとても暗い。
「これが王家の抜け道の1つ、抜け道の第35番。『小鳥さん小鳥さんお外へ出られない私の代わりにお腹いっぱい食べてお水もたくさん浴びて自由に羽ばたいてちょうだいな』だ」
「なんやその名前、いや他にも聞きたいことあるけどや…!」
「これは確か王女の1人が作った抜け道だったかな。小鳥が大好きだったらしい。こんな感じで歴代の王族が王都のどこかへ抜けられるように、少しずつ抜け道と仕掛けを作っているぞ」
「お、俺の住む王都にそんな仕掛けが!?」
「ギルマス、あんたが毎日いる冒険者ギルドにも仕掛けあるぞ」
「俺の知るギルドにそんな仕掛けが!?どこにだよ!」
「教えるわけないし、探しても無駄だぞ。今みたいに特殊な解除方法があるからな」
「だよなー!」
「では斥候、隠密魔法を頼む」
「はーい」
12人に隠密魔法がかけられると、サイを先頭に空洞の中へと入っていく。
「これが…池の水全部抜くってやつなんかなぁ」
「ミッツさん、池ではないっすよ…」
「せやな」
そうして潜入パーティが全員入って階段を降りたことを確認すると、サイは振り返って「閉ざして良し」と言う。
入って来た空洞はすぐに埋まり、一瞬真っ暗になったがすぐ薄明るくなった。
階段を降りた先は石造りの通路のようで、魔法によってかぼんやりと灯りが点々としている。人が入ると点灯する仕組みらしい。
「さて、少し急ぐぞ。着いて来てくれ」
サイがそう言うと、一行は気を引き締めてサイの後を追いかけて走った。