表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
獣使いたちの冒険者記録  作者: 砂霧嵐
王都召集、魔が喋る
142/172

142 方針会議

「──というのが、俺の見たことっす」

「そうか…、辛いだろうに知らせてくれて助かった。しばらく寝ていろ、寝ている間に足を生やせそうなら生やしてくれるらしい。ただ、どのぐらいかかるかも分からないしそもそも無事に生えるかどうか…」

「っす、あざす。試みだけでも嬉しいっす。すみませんが、ちょっと寝ます…」

「一応睡眠魔法をかけますので、少しお休みくださいね」


医務室に運ばれた直後に走ってきた上級治癒術士によってひとまず痛みを緩和され、自分の見てきたことをある程度話し終えた兵士トムは大人しく眠ることにした。

この上級治癒術士は欠損再生魔法を使えると言うが、再生するには5日はかかると言う。それも治療の時は相当患者に痛みが走るという。


本来欠損は治らないものなので、再生魔法の使い手に出会えるだけでも幸運な世界だし、あとは無事に右足が戻ることを祈るばかりだ。


医務室を出てギルドの受付前へと戻ったサイたちはまた話し合いを進める。


「推測通りであったか」

「まずいことになっているな、しかし王城にゴッド級が3人、それも魔法特化のラロロイ殿がいるのは僥倖といえるのではないか」

「何が僥倖だ!こんなことになっておるというのに!」

「やめんか!ぎゃあぎゃあ言っても仕方ないだろ!」


お偉方はもうパニック寸前である。ミッツが逆に冷静になっていると、ギルドの扉がまた開いた。


兵士トムが話してくれる前にサイが喚び出して偵察を任せていた、次期精霊王である特級火精霊イフリートのブレイア、そしてキング級ドラゴニュート冒険者のライラムが王城の結界を観察して戻ってきたようだ。


ブレイアがこちらに喚ばれた時にちょうどライラムが冒険者ギルドにおり、目が合った2人は何故か強い握手を交わしていた。なんとかして地球へ試合を観にいくぐらい格闘技が大好きな精霊ブレイアと、見た目通り脳筋寄りのライラムは何かしら通じるところがあったのだろう。

説明を受けて、それなら俺も着いて行くぜとライラムと共にギルドを出ていっていたのだ。


「戻ったぞ、サイ・セルディーゾ」

「同じく戻ったぜ」

「ありがとう。まずライラム、あの結界、どのような感じだった?」

「手始めに小石を投げてみたが、ありゃダメだ。当たった瞬間に削り消えた。手持ちの愛用の武器なんかで攻撃したら、今頃俺は泣いている。あとは軽い魔法攻撃をしてみたが…そちらは単純に消えただけだ。反射の効果(リフレクション)はなさそうだぜ」

「それは…まだマシか。ご苦労、精霊の立場としてはどう見る?」


腕組みをして考えたブレイアは悩みながらも答える。


「確実にとは言えぬが、あれは我々の世界との繋がりをほぼ断つ効果がある、と思われる」

「繋がりを断つ?」

「お前たちが『良き隣人の世界』と呼ぶ我々の世界とユラ大陸の世界、契約などで繋がる線のようなものを断っている。既に召喚されていた獣たちは、断たれる前に喚ばれていたのでなんとかこちらにいて、戦闘することが出来たのであろう」

「やられた場合はどうなる?トムの話ではワーウルフが還ったらしいが」

「一方通行で還ることは出来るのだろう。だが、再び喚ぶことは出来ぬ。あちらからの戦力は期待出来ぬな」

「そんな…」


そんな中でミッツは気になったことを遠慮なく聞く。


「あの、ええか?精霊もおったって、さっき騎士さんらが言っとったけど、その精霊は野良なん?」

「知っているかもしれんが、我々『良き隣人』は勝手にこちらへ来ることも出来るのだ。今あの結界にいるのは、勝手に遊びに来ていた野良精霊であろう。無論、精霊もやられてしまったらあちらへ還ってしまうと思われる」

「そうなんか…」

「尚、王城の近くなぞで呑気に散歩しているのは間違いなく精霊ぐらいである」

「な、なんで?!」

「天使と悪魔と獣らはある程度こちらの世界の秩序とか文明を理解しているから、王城のような所へ行くと、こう、迷惑だろうなーと思うのだ。…まあ、人々迷惑にならぬほどには森や村近くなどでのんびりしていることはある。そうすると、運良く縁ありそうな者と契約を結べることもあるし」

「契約ってそんな運もあるんや…」

「それにひきかえ、大半の精霊は非常に自由というか何というか…。王城内だろうが博物館内だろうが、邪気や不穏な気配さえ無ければどこにでも遊びに行く」

「そういや精霊女王のフロイラールさんも泉に遊びに来てはったな…」


ミッツがふむふむとメモしていると、ブレイアが思い出したように話した。


「ああ、あとあの結界はおそらく地上だけに作用しているように見えた」

「え?」

「きっと土の豊かな場所に力のある守護精霊がいたのだな。大地には守護の力が働いているのであろう」

「土…守護……ああっ!ガーゴイル!」

「ガルーダ王子のガーゴイルか!本当に庭園にいたのかもしれないな!」


第三王子ガルーダはよくガーゴイルを王城庭園で自由にさせているらしいので、それが今回良い様になったのだろう。


「さて、俺に分かるのはこのぐらいかな」

「ご苦労だった、戻ってくれていい」

「そうか。…ああ、サイ。もうひとつだけ忠告だ」

「ん?」

「この結界、我々の世界では見たことがないし、俺が生きてきた中でも初めて見た系統の魔法だ。気をつけよ」

「…なんか嫌な感じだなぁ、でもありがとう」

「うむ、では戻る。また好きに呼べ」


ブレイアが消えた後、改めて話し合いが進む。


「つまり、地上が駄目なら地下から入ることが出来るかもしれないのかね?」

「ふむ、大地に守護の力が働いているのであれば…もしかしたら、召喚した状態で大地より下から入れば、消えることなく戦えるやもしれぬ、ということだな。倒されてしまえば強制帰還にはなるし、再召喚は出来ぬだろうが」

「それでもいい!それなら俺たちも結界内に入って戦えるかも!」

「しかし地上だけと言っても、地下から王城へ入れるものか?」

「地下通路なんて聞いたことねぇけどなー」


誰かが思いついたように声を上げた。


「入る所が無ければ掘ればいいのでは!?ちょっと離れたとこから、王城エリアのどこかにまで!」

「どんだけ時間かかると思っているんだよ。コウモリたちにすぐバレるだろ」

「…だよな!じゃあ地下から入るところ…ん?あるのか?」

「無くはない、緊急時の王族の抜け道ならある。しかし…王族や一部の大臣しか知らないらしいし、抜け道の全てを知っているわけではないそうだ」

「あかんやん」

「ダメじゃん」


ギルドマスターのぶった切った発言に、全員悩んだ。

全員が黙ってしまい、周りで冒険者や兵士たちが行き来してがやがやする中、サイが溜息をつきながら手を上げた。


「……他に手段なさそうだな…仕方ない、おいベイラッド!」

「あ?」

「少数精鋭…えー、10人ぐらいで臨時パーティを編成、俺とミッツは加える。『非契約者』と『獣使い』を数名ずつ。比率は問わない。期限は今日の夜までに。臨時パーティの活動開始は…明日朝の明光星が出た時だ」

「は?」

「『獣使い』の条件は、なるべく中型までの獣もしくは精霊と契約していて、魔法も申し分ない者に限る。大きいやつとの契約はダメだ。『非契約者』は小回りの利く魔法を使えて物理も強いと良いな」

「おいおい、聞いていただろ!あの結界は触れるとこちらが傷付くんだぞ?それに地下からの通路も俺たちには分からないから侵入なんて出来ない!」


つらつらと指示していくサイ。

ギルドマスターとその他のお偉方はサイに苦言を呈している。サイはガン無視しているが。


「ああ、あと足がもし生やせそうなら兵士トムも編成に加える。戦闘要員ではなく王城関係者として連れて行くだけだ」

「あ、サイ。この薬使おうや。フィジョールお姉さんから送ってもろたやつ」

「え、それ…いいのか…?」


ミッツが取り出していたのは、競売都ベリベールでミッツがオークションに出し、フィジョールが競り落としたシャグラス産天の雫で作られた『身体欠損完全回復薬』である。



遡ること1ヶ月半前、特級薬草の生花をあっさりとタダでプレゼントしたミッツの口座にいつの間にか振り込まれていた1億ユーラと共に、実はミチェリアの冒険者ギルドへ『返送不可』で送られてきた小箱があった。

箱をガサガサ開けてみると中には手紙と小さな瓶が2つあり、ラベリングには『生花エリクサー』、そして『身体欠損完全回復薬』と書かれていた。古の文献に精製法が記されている、身体版エリクサーである。


尚、手紙にはこう書かれていた。


◆ミッツとサイへ 

完成した。薬師人生で最高の出来かもしれない。1滴で手足ぐらい生えるらしいよ。一口飲めば下半身食われても再生するらしいよ。王城の鑑定士が言ってたし、すごい目で私見られた。

怖い。いやはや世間への影響怖いね。怖いから君たちにも、 ̶な̶す̶り̶つ̶け̶、失礼、少量だけ贈ろう。安心してくれ、大半は王族に渡しているよ。あ、『生花エリクサー』は普通のエリクサーだよ。呪われた時にでも飲むといい。 薬師のフィジョールより


追伸 返品は受け付けない。前の入金の返金も受け付けない。◆


つまり、責任の共有、悪く言えば共犯である。

そんなわけでミッツの学生鞄(ストレージバッグ)には、外科も内科もびっくりの薬が入っているのであった。


「足やったらこれ1滴ぐらいでええんやって。寝てる間にシュッて生えるんやったらそれでええやん」

「……まあ、俺たち使うようなとこなかったしな!」

「せやせや、実験…間違えた、試そう!」

「言い換えられてないぞ」

「そんで、パーティにトムさん入れるんやっけ?」


ぽかんとやりとりを眺めていたお偉方は、その一言ではっと我に返った。


「だから!侵入なんて出来ないんだよ!」

「いや、そこは俺が案内する」

「は?」


サイはふと笑いながら、ギルドマスターとお偉方に告げた。


「任せろ、俺は、|王家の抜け道を聞いたことがある《・・・・・・・・・・・・・・・》」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ