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獣使いたちの冒険者記録  作者: 砂霧嵐
王都召集、魔が喋る
133/172

133 冒険者へ報告したいこと

「さて、そろそろ報告会を進めよう。我々王族も冒険者諸君も、等しく時間は有限であるからな」

「!」

「うむ、よろしい。今回の報告だが、主に3点ほどである」


エルバード国王が姿勢を正して声を上げた瞬間、謁見の間は静かになり一気に緊張感が漂った。

ここに集まった冒険者は、己のいた町や拠点から選出された代表たち。報告された内容をちゃんと町まで持ち帰ってギルドや他の冒険者に報告しなければならないという義務がある。

背筋をピンと伸ばし、何を聞いたのかをきちんと覚えようとしていた。


一声かけるだけで一斉に鎮まる、これは日本全国の校長先生に欲しいスキルである。いや、スキルじゃないけど。


「良いか?では1つ目、最近無法帯近くの辺境町のいくつかで『人間の言葉を喋る魔物を見かけた』という噂が広がっている」


ざわざわと冒険者たちは思わずさざめく。知っている冒険者はうんうんと頷き、辺境から離れた町で活動している冒険者は初耳であると驚く。


魔物というのは、基本的には動物や幻獣に何か(・・)が起きて目が赤くなって凶暴化した存在のことを示す。その何か(・・)というのは、未だ原因が分かっていない。

例えば、普通の狼が突然魔物となった魔狼などがいる。魔物となれば、進化を遂げることが可能となる。


他にもスライムやゴブリンのように元々魔物という生き物もいるし、植物が魔物となったトレントという魔物も存在する。トレントももちろん目があり目は赤い。死した魂が魔物となる、リッチやゴーストも目が赤い。

スライムのような目がない魔物は、一見して本能で魔物であると分かる。


そんな魔物であるが、基本的な共通点の1つとして『人の言葉を喋る魔物はいない』がある。

同じ種族の魔物同士で通じる独特の言葉はあるようだが、人間族と意思疎通をとれる魔物は存在しないはずなのだ。


エルバード国王に指示されて大臣の1人が一歩進み出た。

細身だがしっかりとした体つきの男性である。


「防衛大臣、少し詳しく頼む」

「はい。防衛大臣を拝命しているプラム・ラマラ、爵位は子爵です」


子爵で大臣になれるんだ、と冒険者たちはちょっとびっくりした。エルバート国王は笑い、プラム子爵は少しいたたまれない表情になっている。


「ははは、私は実力主義でな。子爵は指揮を執るのがとても上手くてなぁ、昔内乱が起こりかけた街を瞬時に鎮めたのを見て防衛大臣に任命したのだ」

「恐れ多いことです…」

「おっと、話が逸れた。では、頼む」

「はい。こちらで調べた限りでは、最初の証言は辺境町サルサッラを拠点とするルーク級冒険者の男性。無法帯でのクエストを終えたと申告した時に、『気になることがある』と受付で言葉を漏らし、『無法帯にあった洞窟の中で、薄暗かったが、明らかに人ではない何かが言葉を喋っていた』と伝えたそうです」

「ちなみに今回、この召集に彼はいない。来てもらいたかったが、後日受けたクエストで負傷した為の断念となった」

「その通りです」

「王国側でも事実関係を調べているが、まだ噂の域を出ていない。しかし、他にも『人のように見える魔物を見た』などの別角度からの証言が複数ある以上、捨て置けるものではない。また進展があれば各冒険者ギルドへと伝えよう」

「今のところ、こういった話があったということだけを帰り次第周囲に広めてくれれば良いです。この件に関しては、以上となります」


ミチェリアでもそういや聞いたことがあるなぁとぼんやり覚えていたミッツは、自分に関係があるかは置いておき、この情報をしっかりと覚えておいた。

プラム子爵が下がると、エルバート国王が話を変えた。



「2つ目、冒険者たちの間で怪しい占い、もしくは占い師の話を聞いたことがある者はいるか?この件に関しては宰相から伝えて貰おう」

「簡単に名乗りを。宰相のゴーゴラ・アズラン、爵位は公爵を頂いている。手短かに占いもしくは占い師について聞きたいことをまとめる」


一番王族に近い位置にいた初老の宰相ゴーゴラが淡々とルーズリーフを片手に告げる。

ミチェリアから売られたルーズリーフは着々と王都にも広まっているようだ。別にお金に困ってないが、有難いことである。

作ったものではないとはいえ、自分から発信したものが売れるのはとても嬉しい。だって商人の町、大阪の育ちと生まれだもの。


宰相の話によると、最近シャグラス王国と浪漫の国ファジュラの、主に庶民の間で妙な占いが流行っているらしい。

その占いの方法は国の調べが追いつかず不明だが、実行するとよく当たるし妙に幸福感を得られる代わりに、性格が悪い方向へ変わり、暴力に走る者もおり、段々と魂が抜けたようになるという怖いものである。

精霊の国アルテミリアは排他的なところもあるので、今のところそんな怪しい人影や占いが流行っている様子はないらしい。


冒険者なら色んな場所に行くし、表にも裏にも携わる人間もいるだろうと思って報告会での発言に参加したらしい。


「今分かっていることは名前と信者の持ち物。占いの名前は『リフレイン』というそうだ。そして信者全員が『黒いヤギ』の装飾品を占い師から受け取っているという。何か心当たりのある者は、後で騎士に声をかけて欲しい。今はとりあえず報告会を進めよう」


宰相ゴーゴラはそう締めくくると、エルバート国王に向けて一礼してから大臣の並びへと下がった。



「3つ目、これが冒険者諸君にとっては今日一番の関心事かもしれぬな。半年前に新たな渡り人がユラ大陸へと落ちてきた。記録上では実に60年ぶりとなる。既にシャグラス王国に益をもたらす者として貢献してくれておる。ゴッド級のサイ・セルディーゾが無法帯にて保護し、そのまま冒険者パーティを組んでいると報告を受けているが。セルディーゾよ、真か?」

「サイ・セルディーゾにございます、発言をお許しください」

「許す」


サイが片膝をついて声をあげることをエルバード国王が許可する。

許可されたサイは立ち上がると報告を続ける。


「では発言を。その報告は真です。王国に報告した通り、俺は無法帯にて精霊たちより渡り人を預かり、その後は基本的にずっと共に行動しております」

「国に貢献したのは真か?いや、部下たちからもカフェの報告は受けておるし、ナイトパレードの件は事実と受け止めてはいるのだが」

「はっ。主に辺境町ミチェリアで活動しているため、王都にまで情報が届くのは遅くなってしまいますが、ナイトパレードの予言、狼吼里フェリルの準神の復活、異世界の営業形態の再現、獣人の就職促進、幾つもの異世界縫製技術、精霊の瞳の覚醒など、ざっと思い返すだけでこのぐらいです。あと宰相がお使いのルーズリーフはミッツの魔道具の産物です」

「細々としてはいるが、多いな…!」

「ああ、あと俺たち冒険者に一番関わりがあるのは…やはりスライム対策です。食料にもなるというのは俺も正直驚いています」


半年での貢献の多さに冒険者と大臣たちはどよめいた。スライムに関しては冒険者が特にどよめいた。「なんだ、遠距離職の救世主だったか」とか「ありがとうスライムキラー」とか聞こえている。スライムキラーはもう定着しているっぽい。ミッツは諦めた。


ミッツとしてはやりたいことをやっているだけなので、ちょっと照れくさくなっている。これが内政チートというやつか、とも思ったが、内政チートにしてはちょっとしょぼくない?とも思っている。


かと言って水道の整備だの、産業革命だの、そういったことは出来ない。あとはせいぜいユラ大陸中にモフモフカフェと料理レシピ、あったらちょっと便利なことを広めるぐらいやな、と思った。


「ほう、異世界の営業形態というのは…あれかな?息子たちの、その…」

「ああ、ご存知でしたか。モフモフカフェのことです。俺はすれ違ってしまうのかお会いしたことがないですが、先程の反応を見る限り…まあお忍びだったのかと」

「責める気はないんだ、羨ましいだけでな。それで、後ろの者が?」

「ええ。渡り人ミツル・マツシマです」


サイが後ろから横に並ぶように視線で合図すると、ミッツはおずおずとサイの横に並んだ。

さっきのサイと同じように片膝をついて発言する。


「えっと、ミツル・マツシマと申します。ビショップ級冒険者で、ミッツと名乗っています。失礼があったらすんません、あっ違う、申し訳ありません」

「そう固くならんで構わん。異世界においての言葉遣いが少々異なることは報告を受けておる。そちらは方言が強いと報告されている、多少言動に気をつけておればそれで良い」

「あっそうなん?ですか?」

「こちらとしては恩恵を受けられるだけ有り難い。何より、誰1人として来たくて来ておらんのだ。記憶喪失の者を保護するようなものよ」


「過去の渡り人と同じく名で呼ぼうと思ったが、冒険者名があるのならばそちらで呼ぼう」と気さくに笑ったエルバード国王だったが、ミッツはアメリカの大統領とかにサシで向き合っているのだという気持ちを忘れなかった。


「さて…これまでの功績を鑑みると、既に王国に利益をもたらしているな」

「そうですね」

「そうなん?です?」

「そうなんだよ」

「とりあえず、用意出来るか分からないが要望があれば言うといい」

「要望?なんで?」

「お前な…」


呆れるサイがミッツに当たり前のように言う。


「ユラ大陸に技術をもたらした渡り人に対する報酬に決まっているだろう」

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