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獣使いたちの冒険者記録  作者: 砂霧嵐
王都召集、魔が喋る
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132 王家と四頂点、そして顔見知り

いよいよ、今回集められた冒険者が謁見の間へと案内された。

王城の中央辺りにあるとても広い空間は謁見の間ということもあり荘厳な細工が施された場所である。奥には段差があり、その更に上に向かう階段の先には王族が座るであろう玉座が複数備えられている。


既に『悪魔憑き』『天遣い』の冒険者たちは謁見の間へ案内されていたので、その隣に『非契約者』、一番入口に近いところへ『獣使い』が整列の指示を受けて並んだ。

各冒険者列は50人前後、ミッツは脳内に出てきた『朝礼の体育館』という単語を頑張って消し去った。


4つに綺麗に分かれた冒険者の集団の先頭は最強とされる四頂点(スクエア)である。そこから階級順に列を為して王族の到着を待っていた。

尚、ミッツはビショップ級ではあるが渡り人でもあるため、国の保護対象としてサイの後ろにそのまま並ぶよう言われた。本来ならビショップ級なのでもっと後方にいるはずである。


和歌山(しらはま)におるパンダぐらいにはレアやねんなぁ俺、とはミッツの心情である。

断じて東京(うえの)のパンダとは言わない。だって身近な和歌山にパンダがいるからね。


ちなみにパンダの獣人にはまだ出会っていない。もしかしたら存在しないのかもしれないが、まだ諦めていない。だってドラゴンはいるもんだもの。

今ミッツが会ってみたい獣人…いや動物はパンダ、コツメカワウソ、チベットスナギツネ、コアラである。ユラ大陸にチベットはないので、別名称かもしれないが、いるといいなと思っている。あの何とも言えない顔を見たい。

ドラゴンがいるならチベスナぐらいおるやろう、とミッツは考えていた。いてほしい。あとマヌルネコも見たい。あとフェネックも見たい。

コツメカワウソは、普通に可愛いので見たいだけである。こう考えていると見たい動物がいっぱい出てくる。


それはさておき、ミッツは目の前で横に並んでいる四頂点(スクエア)たちをチラ見していた。さすがにこの場では書けないので、しっかり記憶してから脳内のルーズリーフに記録する。

『記憶を記録する』。ちょっとかっこええな、とどうでもいいことも記録しながら思春期の男子高校生は、真剣な顔をして前を見つめる四頂点(スクエア)を見た。




『悪魔憑き』ゴッド級、ギルバート・トランダム。

浪漫の国ファジュラの血が入っていると公言している通り、ファジュラの民によくいる褐色の肌を持つ色男である。契約悪魔はヴェザバルド。二つ名は『黒染め男爵』

ミッツはナイトパレードで知り合いになり、ワイルドな見た目に反して実は小動物が好きであることも知っている。爵位はないが、ファジュラ国では男爵相当の地位を持っているらしい。


『天遣い』ゴッド級、キーラ・クリアノイズ。

ミッツはまだ紹介されていない唯一のゴッド級にして、今の四頂点(スクエア)唯一の女性である。ベールを被った聖女のような装いと雰囲気、スラリとした体は、まるでその場の空気が澄んでいるかのように思わせる。契約天使は未だミッツは知らない。

精霊女王フロイラールやエルフ族に会っていなければ、これまで見た女性で一番美人だと言える。後にこの言葉を聞いたギルとサイに「いや人間とエルフと精霊を比べるな」と言われた。ごもっとも。


『非契約者』S級、不可視の里のラロロイ。

先程紹介されたハイエルフの冒険者であり、中性的な顔の()ハイエルフである。未だに信じられない。ワンピースのようなチュニックと首元を隠すストールを巻いているのが原因じゃないのかと思われる。

今も穏やかに笑いながら前を見据えており、その神秘性はどちらの性別であろうと崇拝する者は減らないことだけは分かる。

あと口を出すわけではないが、ゴッド級だのS級だの、覚え辛いので統一して欲しい。


『獣使い』ゴッド級、サイ・セルディーゾ。二つ名は『銀の魔王』。

毎日顔を合わせておはようおやすみを言い合う、ミッツの保護者にして相棒。見慣れているせいで忘れかけているが、整った顔に引き締まった体をした青年である。毎日会っているので他に言うことはない。

精霊や神獣たちときちんと契約を結んでいる、かとおもえばその場だけの簡易契約だけで喚び出すことも出来るという、未だにちょっと謎に包まれている保護者ではあるが、悪い人でないのだけは分かるので今はまだ何も聞いていない。




揃った冒険者たちがしばらく待っていると、各大臣と関係者が前方の扉からぞろぞろと入って謁見の間の段差上に集まり、起立のまま王族を待つ。

そして国王たちがまもなく来ると通達があり、騎士の1人が声をあげる。どうやら王族以外は揃っていたようだ。


「国王陛下、並びに王妃殿下、王子殿下、王女殿下の御成りである!全員、平伏!」


冒険者と大臣、謁見の間にいる騎士は一斉に片膝をついて頭を垂れた。ミッツもなんとか遅れずに同じ行動を取ることが出来た。


「うむ、面を上げよ。楽にして良い」


その言葉で冒険者たちは頭を上げて起立する。

大臣たちも同じく立ち、頭を下げている間に入ってきて着席している王族を見上げた。


「冒険者の諸君、よくぞ集まってくれた。初めて会う者もおろう。私が今代のシャグラス国王、エルバート・シャグラスである。我々王族の顔を間近で見る機会も無かろう、今のうちに見ておくが良い」


笑いながら気軽に言うが、庶民の多い冒険者が謁見の間に入ることも王族の近くに行くことも滅多にない。しかしあまりジロジロ見るのも不敬にあたるかもしれない。

そう考える若い冒険者のほとんどは恐る恐る王族をチラ見する程度であったが、そんなことは特に考えず、許可されたものは堂々と利用する…具体的にはタダと書かれたものは必要かどうか関係なく貰って行く、という関西人理論を持つミッツは堂々と顔を上げて王族の顔を見た。


控え室で説明を軽く受けた通り、階段上の玉座には5人の王族が並んで座っている。


真ん中の一番立派な玉座には、名乗りをあげたエルバート・シャグラス国王が座っている。金髪と翠の目の端正な顔つきで、朗らかに微笑む王の手には、王が持つに相応しい杖が握られている。

足が悪いと事前に説明されていなかったら、王位を示すような装飾品だと思っただろう。宝玉が埋まり、厳かな彫刻が施されている。


その左の玉座には、例の『獣使い』嫌いと聞いた王妃 アメリア・シャグラスが座っていた。赤い髪に赤茶色の目を持つ美貌は、地球でいう美魔女のようである。

年頃の王子王女を持つには若く見えて美しい王妃であるが、決してこちらには目を向けない。視界にも入れたくないと思っているようだ。

冒険者たちはこの時、特に何も感じることはなかったが、ミッツだけはアメリア王妃からどろり(・・・)とした何かを見た。なんか王族ってそういうドロドロしたこともあるのかもしれないし、今は公的な場だから後でサイに聞こうと思った。


王の右側には3つの玉座があり、若い男、若い女、小さな男の子が座っている。説明を思い出して該当させると、第二王子と第一王女と第三王子で間違いない。

3人とも両親に似たのか、王と同じ金髪でどこか王にも王妃にも似た雰囲気を放っている。要するにイケメンに美人。




「ん…?」


ミッツは第二王子と第一王女に視線を固定すると、ちょっとだけ声が出てしまった。今は冒険者たちが少しだけざわついているので、声を多少出しても問題はなかった。


ミッツが声を出してしまったのは、どう見てもミチェリア領主であるチュルノ伯爵がプレオープンの時に連れてきて以来、たまにモフモフカフェにお忍びスタイルで訪れては獣人とふれあっている兄妹が目の前で揃って座っていることを認識したからだ。

お忍びでリピーターの貴族は老若男女問わず、実は結構いるため、なんとなく上位の貴族の子供なのだろうと思っていた。ミッツが視察兼カフェ客として訪れる時にも会うことがあり、挨拶を交わす程度の関係にはなっていた。


確か名前は、ラウ(・・)メラ(・・)


ラウール(・・・・)王子とメノーラ(・・・・)王女は冒険者の中からミッツの視線に気付くとミッツと目を合わせ、「あっ」「やば」と声を漏らし、とりあえずさり気なく手を振ってきた。

ミッツに手が振られていることを確認したサイはギギギという音が似合う仕草で後ろを振り返った。


「…サイ…あの…」

「おま、まさか…知り合いか…?」

「モフモフカフェのお忍び兄妹……名前はラウ(・・)メラ(・・)

「何してんだあの御方たち…陛下はご存知なのか…?」


コソコソと端的に話していると、本題に入る雰囲気になったので2人は前を向いた。

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