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獣使いたちの冒険者記録  作者: 砂霧嵐
王都召集、魔が喋る
131/172

131 最強の3人目

「ちょっと待ってや。えっと、不可視の里、の、ラロロイさん、と」

「おや、変わった紙ですね。草木を感じます」


持ったままだったルーズリーフを戻し捲り、『ゴッド級、四頂点(スクエア)』の項目の空いた箇所へ名前を書き込んでいく。あと1人でコンプリートである。


「あ、これ?再生紙のルーズリーフです」

「さいせいし?るーずりーふ?」

「異世界で木ぃから作られて、繰り返し作り直されとる紙やね」

「異世界……なるほど、あなたは渡り人ですか?」


まだ自己紹介をしていなかったことに気づいた。


「あ、失礼しました。えーと、俺は松島 光。ミツル・マツシマ。冒険者名はミッツ。地球から半年ぐらい前に来たんですわ。『獣使い』のビショップ級で、サイと一緒に『世界の邂逅』パーティで活動しとります。よろしゅう」

「それはご丁寧に。半年は大変だったでしょう。年齢差はありますが、気軽に話してくださって大丈夫ですよ」

「大変というか、こいつ、割と冒険者生活楽しんでいたりモフモフカフェを開いたりしているがな」

「モフモフカフェ!聞いたことがあります、いつか訪れてみたいと思っているのです」


ニコニコと穏やかに笑うラロロイ。その雰囲気に、悪い人ではないと判断したミッツは、常に懐に入れているモフモフカフェの推薦カードを渡した。

これさえあれば、推薦カードと引き換えに、例え混んでいて列を成していてもオーナー枠として優先的に案内してもらえる。つまりファストパスである。


「ミッツはな、無法帯に落ちてきたのを精霊たちが俺のとこまでせっせと運んで来たんだよ。ミッツがたまたまチキュウから落ちてきたところを、色々あってこれ幸いと連れてきたらしいんだが」

「精霊が?ならば愛し子というわけでしょうか?」

「いや…別にそないなわけちゃうけど」

「ラロロイ、あんたなら分かるだろう。目をよく覗いてみろ」


ラロロイは少し屈んでミッツの顔を覗き込むと、じっと見つめて気付いた。


「おお…隠されてはいますが、精霊の瞳ではないですか。愛し子ではなくとも何かの称号はあるのでは?」

「………」

「………」


精霊を信仰することもあるエルフ族の前で、『|精霊王の贔屓《かの王はショタコンである》』を詳しく説明するのは相当勇気のいることである。知らなくていいこともあるのだ。


「何故2人とも黙るのです?あとセルディーゾ、貴方が偽装をかけているのですか?陛下の御前で精霊の祝福を隠すのはダメですよ。やましいことがある、と思われる可能性があります」

「そうなのか?それは知らなかった。精霊の瞳をその辺に野放しにしていると危ないからかけたままにしていた。ミッツ、偽装を解除するぞ」

「はーい」


次期精霊王候補である精霊ブレイアによって瞳を黒くしていた偽装をサイはさらっと引っ剥がした。

偽装をかけるのは難しいが、剥がすのはサイたち人間でも出来るのだ。ただしゴッド級ぐらいの力が必要になるが。

久々にキラキラした色彩の瞳でキョロキョロと見渡しているが、ミッツ本人の視界に特に変わりはない。カラーコンタクトを外しただけのようなものである。



「そうだミッツ。図書館のビドワードいただろ?受付の女ハイエルフ」

「いはったなぁ」

「ラロロイもハイエルフだからな」

「え、そうなん?そもそもエルフって、なんか気高い雰囲気であんまり冒険者のイメージないんやけど」

「その通り。冒険者をやっているエルフは同族の中でも少ないですが、特に冒険者をやっているハイエルフは本当に数少ない『変わり者』ですよ」

「そうなんや」

「あ、たまに間違えられるようだから先に言っておく。ラロロイは男だからな」

「「「えっ!?」」」


何故か周りの若い冒険者、特に『非契約者』の冒険者たちが驚いた。


「ミッツはともかく何故お前らまで驚いてんだ」

「ラ、ラロロイさまが、おおおおおとこ…?」

「ええ、そうですよ?」

「お、お、おとこ??男!?私、今まで心の中でラロロイお姉さまって呼んで…ええっ!?」

「そんなわけないだろ!こんな美しいお顔の女神ラロロイさまに俺らと同じモノがついてるわけがない!」

「結構顔が良くてめっちゃ強いからって適当なこと言うんじゃねえぞ、サイ・セルディーゾ!」

「そうだそうだ!」


やんややんやと、幻想を壊された冒険者たちが騒ぎ立てる。


「ミッツ、褒められたぜ」

「今のは褒めとったな」

「顔が美しいのはハイエルフもエルフもハーフエルフも、エルフの血が入った全員ですよ」

「幻想を壊すようで申し訳ないが、こいつ、こんな華奢な見た目の割に結構ご立派(・・・)だぞ。俺、一緒にアルテミリアで沐浴した時に見たもん」


視線を一瞬だけラロロイの下半身に合わせたサイは、冒険者たちの幻想を丁寧に壊してやることにした。

その幻想をぶち壊、なんでもない。


視線を受け取ったラロロイはチュニックのような服から出ているすらりとした足を肩幅程度に広げ、格好をつけて胸を張った。

ちょっとノリノリである。


「や、やだー!ラロロイさまのそんな生々しい情報いらない!!いや、でもそうなの!?それはそれで有り…!?」

「なんてこと言うんだテメェ!あと一緒に沐浴とかどういうことだ羨ましい!」

「ラロロイさまは葉に溜まった清らかな水滴と清々しく迎えた早朝に漂う朝霧を摂取されて生きておられるんだ!性別もない!トイレも行かない!神秘的な森で動物に囲まれながらお休みになられるんだ!いい加減なことを言うな!」

「うわ最後のやつ気持ち悪っ!」

「いや、私、お肉もお魚も野菜も普通に食べますし。トイレも普通に行きますよ。動物は…いずれモフモフカフェを訪れる予定なので少し合っていますかね」


騒がれても特にダメージも照れもない3人はのほほんと受け流した。

若くして強い世代の幻想は砕かれた。ちなみに知らなかったのは、先輩にあたる冒険者がこぞって「別にわざわざ伝えなくても分かるだろう」と考え、説明を省いたからである。


説明を省いていたとしても、発言が気持ち悪かった冒険者は周りからちょっと引かれていた。


「あー、ハイエルフは特に美しいから…若い世代の奴は知らないこともある、のか?あとそんなワンピースにも見える服を着ているのが悪い」

「男です、とも女です、とも言ったことはないですからねぇ。この服はエルフ族なら誰でも着ていますよ」

「ビドワードさんも綺麗やったし、ハーフエルフのウルスも綺麗な顔やもんな。あとそのチュニック着やすそう。ちょっと見せて」


すっかり馴染み深くなったナルキス村の弓矢職人を思い浮かべながら、ミッツはしみじみと頷く。

ちょっとのっぺり顔の日本人の自分とは違い、ヨーロッパ系のハッキリとしか顔をしたエルフたちがちょっと羨ましい。


「その代わり、ほとんどのエルフの性格はひねくれているぞ」

「そうなん?」

「そうですねぇ、ハイエルフは今この世に100人ほどいるはずですが、アルテミリア国を出ているハイエルフは珍しいです。シャグラードのビドワード嬢、私、あと王城勤めのハイエルフ。シャグラス王国にいるのはこの3人だけかもしれません」

「そら少ないなぁ」

「基本的に我々ハイエルフ、いえエルフ族は社交性がないですからねぇ。基本的に他種族が先に逝ってしまうので、関わりを持つことを諦める輩が多いのですよ。たった300年ごときで簡単に諦めるなど、嘆かわしいことです」


コロコロとエルフ族をディスったラロロイ。

よく見ると、首のストールからチラリと喉仏が動いているのが分かるので、本当に男である。

最後まで認めていなかった冒険者も、うっすらと見えた喉仏を見て諦めた。


女であろうが男であろうが、ラロロイは『非契約者』最強で間違いない。若き冒険者たちは1つ悟って大人になった。

まだ受け入れていない者もいるが、今はそっとしておこう。


「ミッツはこれで四頂点(スクエア)の3人に会ったことになるのか。『天遣い』のゴッド級は後で紹介してやるよ。俺たちは結構仲良いから、きっとあいつも受け入れるだろう」

「やったー。その高名な四頂点(スクエア)さまのお一人様は毎日顔合わしとるけどな」

「奇遇だな。俺もこの世界に今2人しかいない希少な渡り人のお一人様と毎日顔合わしているよ」

「仲良しですねぇ」

「まあパーティ組んでるし、こいつとはなんか波長が合う。ラロロイ、まあ適当に仲良くしてやってくれ。こいつは安全な人間だ」

「分かっていますよ。私は精霊の瞳を持ちませんが、ある程度は野良精霊が見えています。彼は精霊を纏うが如く、邪険にすることなく従えている。それだけでハイエルフは彼を認めるでしょう」


モモチを連れて来ていないが、今日もミッツは肩や頭に精霊を積んでいた。重みは感じないので好きにさせている。

そうこうしていると、ちょうど部屋を騎士が訪れた。


「『獣使い』並びに『非契約者』冒険者の皆、そろそろ時間なので謁見の間へ行く準備を!まずは階級順に並んでください!」

「お、もう時間か」

「ほな俺はビショップ級やから、後ろからとっとこ着いてくわ」


騎士の呼びかけで冒険者はぞろぞろと列を為し、真ん中辺りには双子も既に並んでいる。

ビショップ級であるミッツは後方へ移動しようとした。


「ミッツ、ちょっと待て」

「ん?」

「騎士、こいつは渡り人。つまり本来ならば国の保護対象だ。陛下たちにも連絡は入っているはず。故にこのゴッド級の後ろにつかせる」

「渡り人…!はっ!了解しました!陛下にも一報お入れします!」


騎士はサイとミッツに向かって敬礼すると、同僚の騎士に連絡をしに行くよう走らせた。


「なあ、俺保護対象やったん?」

「今更か?お前がもし一昔前の町中や王都に落ちていたら、きっとお前は今頃王城暮らしか屋敷を与えられる代わりに、その知識を国に捧げた上で警備上の理由で一生その町から出られなかっただろうな」

「こっわ!良かった!今の時代に落ちて!というかサイんとこに運んでもろて!ありがとう精霊!」


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