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獣使いたちの冒険者記録  作者: 砂霧嵐
王都召集、魔が喋る
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129 王城での組分けと学校の思い出

何はともあれ、ゴ、大サソリへの対処法を聞けた冒険者たちは一度大サソリのことをスッパリと忘れ、いや忘れられないがさておいて、王城へと入っていく。

ミッツもサイたちに続いて城門を潜って行った。


シャグラード王城は王国の要として、500年前に建国されたと同時に建てられた城である。元々バグレー王国の王都であったところをそのまま王都シャグラードとしたが、バグレー王城を使うことは縁起が悪いと満場一致で叩き壊された。その後に少し離れたところへ作られたのが今の王城である。


初期王城は建築技術もまだ育っておらず、少し小さかった。しかし増築やリフォームを重ね、人も施設も増やし、王都の面積地も増やし、今の城と王都へと至ったらしい。

大きさは地球の某有名建築家の未完成大教会ぐらいはある。とミッツは思っている。とりあえずとても大きい。

王城の周りは平民の住居も貴族の屋敷もなく、騎士団本部と兵団本部が城を囲むように作られている。何かあれば各本部から騎士や兵士をすぐに増員出来るようにするためだ。


城門をくぐってしばらく歩くと、王城の入口で少し並んだ。順番に冒険者たちの身元を調べているらしい。


「──…次の冒険者!全員、魔石の提示とどこからの代表かを述べよ!」

「はいよ。辺境町ミチェリアからだ」

「…よし、確認した。辺境町ミチェリアからの7人だな。それでは、『天遣い』は右の突き当たりの部屋、『悪魔憑き』は左の突き当たりの部屋、『獣使い』と『非契約者』は正面突き当たりの部屋で待機せよ」

「「はーい」」

「へ?はい」


なんでか契約種ごとに分けられたが、冒険者たちは特に何も言わずに指示に従っている。

周りが何も言わないのならとりあえず従う。日本人のサガである。たぶん。


少なくともミッツはクラスメイトが数名でどこかへ走って向かっていればなんとなく後ろから着いていく。

いや、着いていった。好奇心に満ち溢れた男子高校生ミッツの実話である。




クラスメイトたちの行き先が体育館裏で、「こ、これは漫画の王道カツアゲ!?喧嘩か!?」と思いながら体育館の角からこっそり覗いていた。

ミッツの高校は歴史ある宗教系の学び舎であり、喧嘩やふしだらな行為は厳しく処罰がくだる。

男子校なのでふしだらな行為はなかなか起こらないと思われるかもしれないが、そういう趣味の者がいないこともない。だって女子校とか男子校ってそっち方面の扉(・・・・・・・)が何人かは目覚めて開くものだし。

喧嘩ならとりあえず近くの先生、いやそれでは間に合わないので容赦なく近くの非常ベルを叩き鳴らそうと決意した。


体育館裏は茂みがいくつかあって雑草が生える程度に人気がなく、他に何もないし、これから誰かがやって来ることもなさそうだった。

しばらく様子を見ていると、クラスメイトたちは周囲を警戒している。暴力の気配はないようで少し安心した。

すると、クラスメイトの1人が茂みをごそごそと探り、茂みの中から錆びかけたクッキー缶を取り出した。

おそるおそるクッキー缶を開けると、クラスメイトは1冊の書物を真剣な表情でゆっくりと取り出した。


「おおっ…ほんまにあった…!」

「これが…先輩の言っとった…『男子校の聖書そのよん』!!」

「あほんだら静かにせんかい!先生来たらあかんやろ!」

「お前の声がうっさいわボケ」

「なんやとコラやんのかコラ」

「うっさいぞお前ら!ぐちゃぐちゃ言わんとちゃっちゃと読むで…!」


その書物が、割とガッツリでケモでニッチでマニアックな内容のちょっと古い成人指定エロ漫画の表紙だったこと、そしてクラスメイトの健全で不健全な欲望を確認し、「まあ…武士の情けや…」と去ったミッツの背後では抑えられた歓声が上がっていた。

何度も言うが武士ではない。


ちなみにミッツが体育館前にやってきた時、校内を巡回中の先生と遭遇した。

どうもーと挨拶はしたが、先生がどこへ行こうともミッツは関係ないので、例え「なんや話し声が聞こえるな、誰か体育館で遊んどるんか?」と確認に向かったのを知っても黙って会釈し、歩いて去った。


後日、掲示板でクラスメイト数名と上級生数名に対して名指しの注意文が貼り出し、もとい公開処刑されていた。あの様子では普通に興奮して、普通に先生が現れ、普通に芋づる式に犯行が暴かれたのだろう。

もちろん『松島 光(ミッツ)』の名前は無かった。ミッツには関係のないことであった。


よく考えたら、これは別に日本人のサガ関係ないな?とミッツは冷静に考えた。

あと『聖書そのよん』ということは、あの学校には少なくともあと3冊の聖書(・・)が今もどこかに隠されているんだろうなぁ、うちの学校ダンジョンやったんかな、とも考えた。




そうこう考えている間に、「じゃあ終わったらウィスタリアで!」「また後でなー」と言ってシェラとティックは左右の通路を進んで行った。

半年前までの微妙な高校生活を思い出していたミッツは、よく分からないがサイと双子とノルリエに着いていき、真っ直ぐの通路の突き当たりにある部屋へと入っていった。


部屋というより広間のような大きい空間であった。本来は小さなパーティーやダンスパーティーが行われる場所らしく、天井もそこそこに高く、人が多い割に閉塞感は一切ない。

部屋には既に多くの冒険者がおり、なんとなくグループ分けされていた。近くの町同士で集まっていたり、知り合い同士で話し合っているようだ。


よく見ると壁に、『非契約者』はこちら、などの表示がされている。今のところ多分ごちゃまぜになってはいるが、時間が近付けば自然と分かれるのだろう。


「じゃあ私、友達に会ってくる!『非契約者』なんだよ!また後でねー!」

「ああ。どうせ俺たちすぐに出るだろうし」

「「またねー」」

「よう分からんけど後でー」


ノルリエとも手を振って分かれ、ゴッド級と渡り人と双子だけになった。ミッツはさっさとルーズリーフを取り出してさっさと問い詰める。


「ほんで?説明してくれる?なんで分けられたん?」

「説明?……あ、そうか」

「ミッツくん、初めてだっけ」

「そうだったねー」

「初めても何も、ミチェリアから大移動したんはこれで二度目やし、俺を誰やと思っとるんや。日本以外を知らん渡り人やぞ」

「それは知らんし、競売都ベリベールは護衛クエストだったもんな」


そういえばそうだったなぁと説明が行われた。


基本的に王城へ召集される時、町の代表ごとに並んだりするとごちゃついて、どこにどの程度の冒険者がいるのか分からなくなってしまい、防犯対策がしにくくなる。らしい。

別に冒険者のことを疑うわけではないが、王族が揃って出てくる機会はそう無い為、過剰防衛気味に警護側はピリピリしていることもある。

そこで一番分かりやすく、契約者ごと、そして冒険者階級順に並んでもらうことにより、なんとなくどこにどの程度の冒険者がいるかが把握出来る。ということらしい。

階級順に並ぶと王族に一番近いのは必然的にゴッド級とS級になるので、何かが起こっても彼らが動いてくれるから安心、というのもある。



実際、王家に恨みを持つ没落貴族が数十年前にバカをやらかした事件があった。その元貴族は隠し持っていた財産を全て使い、かなり凄腕の暗殺者集団を雇って、没落原因となった王子を狙わせたのだ。

数十年前なので今の王族一家ではない。しかし腕の良い暗殺者に危うく王子の首が斬られるところであった。

その時は町の代表ごとに並び、いわば無造作に実力の違う冒険者が入り乱れていた。それもどうかと思うが危機感があんまり無かったとも言える。


当たり前のように応戦した騎士たちに冒険者たちは他の暗殺者に足止めされ、王子に毒の短剣が触れる寸前でたまたま冒険者の1人が暗殺者の腕を刎ねることに成功した。それが当時のゴッド級冒険者である。


それ以来、王族を守れるように騎士の警備体制が見直され、冒険者の並びも変えることが即決されたのだった。


「まあここまでは、歴代王家の本音であり、今の王家の建前だ」

「は?」

「サイさん、先に伝えといた方がいいんじゃない?」

「そうだなぁ、謁見の間で呆然となっても困るだろうし」

「そうだねー。ミッツくんあのねー」


双子がちょっとだけ声を潜めてミッツに伝える。


「「実はね、王妃さまは王国随一の『獣使い』嫌いなんだ」」

「…………はい?」

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