126 宇宙人ピピビルビの功績
「まあ…見つかってないネェ」
「まあせやろなぁ…」
「存外あっさりしているんだな、ミッツ」
「見つかっとるんやったらもう帰っとる渡り人の話くらい聞いとるやろうし」
そうだネー、とピピビルビがおでこを掻きながら苦笑した。
ミッツはおでこだと思っているが、髪の毛はないので頭かもしれない。
「のんびりと調べてはいるし、ユラ大陸に来て300年目ぐらいからはもはや片手間というか趣味になりつつあるというか…」
「そないに帰られんかったらまあ、そないなるわなぁ。ピピちゃん今いくつなん?長生きさんやな?」
「今?748歳だヨ!平均寿命はまだまだ先だネ。まあ諦めてるのもあるんだけど、ワタシね、惑星べべロスに帰ったところで、戦争が嫌だしネ」
「あ、戦争中やったんや。宇宙戦争やな?」
宇宙戦争という単語に少しそわっとした。お年頃、尚且つロボット大戦アニメである『魔獣戦記ベルガーナイン』が大好きだったミッツにとっては実に魅力的な単語である。戦争は戦争なので普通に怖いが。
「そう!第1127次ギャパス星雲圏戦争!我々は戦況に有利なピオーネ軍に所属する惑星星人でネ!あの戦いはこちらの勝利だったはずなんだヨ!あれどうなったのかナー!!知れないのが悔しい!」
「よう分からんけどすごそう」
「フフン、これでもギャパス星雲圏べべロス軍隊のニャンニャラー第一隊の副司令官と特攻隊員の兼任だったんだヨ。ワタシも小惑星ぐらいならいくつかソロ遊撃で破壊してネ…いやーヤンチャしてたヨ!」
「やんちゃやなー、やんちゃで済ませてええんかは知らんけど。全然分からんけどニャンニャラーってなんや可愛いし、ピオーネ軍のピオーネって美味しそうやな」
ミッツはほっこりした。あとユラ大陸にぶどうはあるが、マスカットはあるのかなぁと思った。
「地球のニホンジンはみんなそう言うけど、ニャンニャラーはギャパス星雲圏語で『敵を灰燼とせよ』って意味だヨ。ピオーネは…大昔にギャパス星雲圏を支配した偉大なるダレオス星人、ピオーネ・ダレオス・ポポルジェダーポノポレンドから取ってつけられてるヨ」
「前言撤回、こっわ」
ミッツは即座に色々撤回した。
ピピビルビの大体の身分と宇宙事情が判明して、サイはユラ大陸での身分に話を切り替えようと、説明に加わってきた。
「ピピビルビ殿は昔から王都に色々な功績をもたらした御方なんだ。その報酬として、この王都に屋敷を当時の国から貰って暮らしている」
「へー。例えば何したん?」
「この地の環境と魔法を解析して、人や亜人が歩きやすい道の素材を作ったヨ。『べべロスの故郷路』、大通りはもう見た?」
「見た!あの城まで続いとる白い道やろ?」
「うん。ワタシの星の技術の応用だけど、あと1000年は交換しなくても問題なし!ワタシがいなくなっても作り方はもう安定してるから大丈夫だヨ」
「えっあのコンクリみたいな、でも転んだりしたらヤワヤワになるあの地面って…宇宙技術の応用!?」
「うん、ユラ大陸と惑星べべロスの技術が揃って出来たんだヨー。あの大通りを作るだけでちょっと材料足りなくなっちゃったけどネ」
ミッツはさっき見た、転んだ女の子を柔らかくぽよんと受け止めた地面を思い出した。
ファンタジー系素材かなと思っていたら、SF系素材だったらしい。どちらにせよ日本育ちお年頃学生のミッツにとっては未知に変わりない。わくわくしている。
「あ!ちなみにこの図書館はユーヤが作っていた従来のレンガ作りから改装させて貰って、ワタシたちのべべロス建築に可能な限り近づけたヨ。図書館の青い外見、あれね、惑星べべロスの一般住居にそっくりなんだ!……まあ、ワタシの落ちた地点からでは、この建物とその他一部を変えるだけで精一杯だったけどネ」
「あっやっぱり!?図書館やのにSFっぽいなーって思ってたんよ!宇宙船みたいやなー思ってたらマジで宇宙技術なん!?宇宙建築!?オーパーツ!?やば、うわ!……ん?落ちた?」
ミッツもユラ大陸に落ちたといえば落ちてきたが、本人はその時に意識はなかった。意識のない間に精霊たちがサイのところへ運んだから。
なので渡り人は本当に落ちてくるのかと思った。それが本当ならとても危ない。怖い。
「うーん、まあ落ちたというか、この地に『渡って』来たというか。ワタシの乗っていた愛用機ごと墜落した地点と思ってくれて構わないヨ」
「墜落」
「戦争真っ只中だったからネー。敵に撃たれた瞬間に空間が歪んでさ、ヤラれた!何の攻撃だ!と思ったら全然知らない景色でネ、未開の惑星に落とされたかと思ったヨネー」
「わーSFー」
「そこからまあ、色々あって、異世界に来たんだーと理解して、でももう愛用機で移動出来なくて、ウーン何か出来るかナーと思って…落ちた地点のすぐ横がこの図書館だったから、ちょっとべべロスの技術をちょちょいとネ!
愛用機はもう燃料がなくて動かなかっただけで、機能はちゃんと使えるし、図書館をべべロス建造物風に変換することぐらいは出来たからネー。あっあと王都の壁あったでショ?あれも図書館の同じ素材だヨ」
「壁もあれ、ほんまに宇宙的な感じやねんな!初めて見た時、すごいそんな感じやなー思ってん!ところで愛用機って宇宙船?今も見られる?まだ風化しとらん?」
ワクワクした顔でミッツが手を上げて聞く。
「地球人みんなそれ聞くネェ。ワタシの愛用機は400年ごときで劣化しない、今日も元気に起動してるヨ。落ちた時の衝撃と環境不調和、あと純粋に燃料不足で移動は出来なくなっちゃったケド…そうそう!なんかここに来たことによって魔道具になってるって言われたネ!」
「俺の学生鞄とかと一緒やな。あ、あと壁と図書館の青い素材、何て言うん?」
「エ?べべロス鉱石だけど?建造物名はべべロス建築ネ」
「思ったよりシンプルやった…」
ちなみに『べべロスの故郷路』の素材に名前は特にない。材料不足でこれ以上作ることが出来ないから、別に名前なくてもいいんじゃない?という雰囲気になったからだ。
材料は国家秘密であるが、足りなくなった材料とは惑星べべロスに住む微生物である。そりゃもう二度と作れる見込みはない。
「名前はシンプルだけど頑丈だヨー。対高重力型怪機体戦闘ビームにも耐えられるし」
「分からんけどめっちゃ分かる気がする」
「ユラ大陸でいうと、最上級攻撃魔法に耐えられるってところかナー。実際、シャグラードにワタシが来て壁を作ってから、ドラゴンの本気の攻撃受けても欠けもしていないからネ!」
「分からんけど分かる気がするし、めっちゃすごいやん。ドラゴン来るん?この王都」
「フフン、昔は来てたけどすぐ帰ってったネ。あっそうだ、ワタシの愛用機を見るなら明日以降にした方がいいヨ。渡り人は丸一日かけて見学するから」
「わあ。そら楽しみや…、明日と明後日は用事あんねん。明々後日以降のピピちゃんの予定は?」
「ワタシ、王族に呼ばれない限り結構ヒマだヨー」
今回呼ばれたのは条件に見合った冒険者だけなので、冒険者ギルドに登録していないピピビルビは関係ない。当日も屋敷でのんびりしたり、王都を散策する予定である。
ミッツは明々後日以降に必ずピピビルビの屋敷へ向かうと約束を交わした。
「いやー今日来て良かったわ。ちょっとだけ渡り人ユーヤのことも知れたし」
「そう?このあと時間があるなら、ワタシの知ってる渡り人のこと、もう少し詳しく教えよっか?」
「え、知りたい。観光はいつでも出来るし」
「ピピビルビ殿、俺も興味がある」
「オッケー、ここにちょっとした会議室あるから押さえてくるネー」
ピピビルビは空中庭園を軽やかに抜けて、図書館スタッフに会議室の予約をしに行った。
しばらくかかるだろうと、サイとミッツがまだ眠っているモモチをソファに座らせてやりひなたぼっこをさせていると、ピピビルビが何故か受付のビドワードを引き連れて戻ってきた。
「お待たせー。会議室借りれたヨー」
「ピピちゃん、ビドワードさんはアブダクションしたらあかんで」
「そうだダメだぞ、ちゃんと元の受付に返してきなさい」
「誰がアブダクション犯ヨ」
「ハイエルフを捨てられた犬猫のように言わないでください、サイ様」
ハイエルフがほんのちょっとプンスカすると、会議室へ案内すると言って3人を1階へと誘導して行った。
図書館内を移動するハイエルフ(図書館司書)、人間(最強クラス冒険者)、人間(異世界からの来訪者)、宇宙人(異世界からの来訪者)の一行はなかなか目立っていたのはここだけの話である。