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獣使いたちの冒険者記録  作者: 砂霧嵐
王都召集、魔が喋る
125/172

125 王都図書館と灰銀のアレ

ランチを終え、再びてくてくと歩いて図書館にやって来た。

「あれがこの国で一番大きな図書館だ」とサイが指差して呼んでいるので、例えその建物が宇宙船とかに見えたとしても、紛れもなく図書館なのだろう。


道すがらの会話では5階建てと聞いていたが、明らかにシャグラードの中でも高い建物の1つに数えられるほど高い。国会議事堂くらいある。国会議事堂は3階建てだが、たぶんそのぐらいはある。ミッツは実物を見たことはないけど。

ちなみにシャグラードど真ん中にある王城は、まるで地球にある有名な未完成建築物のような高さである。詳しく見るのは明後日なので、それ以上はあまり見ていないが高さはそのぐらいある。ミッツは実物を見たことはないけど。

王都を囲む壁と同じ、ツルツルとした継ぎ目のない深青の素材で作られた建物は厳かに人々を迎え入れていた。妙にSF近未来感があるなぁ、とミッツは思った。


図書館の入口にある受付では、無表情のエルフの女性が来館者を出迎えていた。


「ようこそ、叡智を司る最たる砦、最高の知識が集う場所、王都図書館ラプラスへ。受付兼司書、王都シャグラードのビドワードでございます」

「えっあっはい」

「どうも、ビドワード嬢」

「サイ様、久方ぶりの御来館ありがとうございます。そちらは見たことのないお顔ですね、こちらは初めてでしょうか?」

「え、はい。…来た人全員覚えてはんの…?」

「もちろんでございます。図書館受付であり司書ですから」

「受付で司書やったら顔覚えるんや…」

「1つ訂正がございます。私は人間族だけでなく王都図書館(ラプラス)に御来館された種族全てを記憶しています。エルフもドワーフも獣人もです」

「へー、すごい」

「初来館される方はこちらに御氏名…本名と出身地を偽りなく記録して頂くことになっています。初回来館は有料となりますが、記録頂いた方は次回から無料となります。登録料、と王都図書館(ラプラス)創設者は申していました」

「さっきから思ってたんやけど創設者って渡り人やったりする?」

「な、なぜそう思われたのですか?思考を読み取る魔法などを使われたのですか?」

「いや、まあ、俺もそうやしな」


分厚い記録帳に漢字の本名、日本出身であることを記入し、目を見開いたままのエルフに登録料500ユーラを払うと、深々とお辞儀をされて見送られたミッツとサイは館内へと入って行った。


「あの受付ハイエルフが動揺しているのを初めて見たぞ。何故分かったんだ?」

「いや、まあ、登録料システムとかもやけど、叡智とかラプラスとか付けちゃうの、たぶん俺と同じ年頃の男子学生やろなーって……というかさっきのエルフさん、ハイエルフなんや」

「見た目に差はないんだが、ハイエルフは自分から名乗り上げて誇るから。ビドワード嬢に前に聞いたらハイエルフだって答えてたし」

「へぇー、あっそういやモモチ連れて入ってええんやろか」

「契約獣だしな。騒がせないように、というかいつも通りでいいだろう」

「まあモモチ起きてへんしな」


モモチはまだまだ寝て成長する仔狼であった。


受付を抜けて中に入ると、広い館内がよく見える。

図書館の外壁が宇宙船みたいな青い素材だから内部も宇宙船みたいなのかと思っていたが、そうでもなく、内壁は木で作られていて落ち着く内装になっている。なんとなく大きな大学の図書館とかの雰囲気である。ミッツは高校の図書館しか知らないが。


1階だが天井は高く、そして奥行きは広くなっているため閉塞感はあまりない。建物の真ん中が吹き抜けになっているようで、更に閉塞感はなくなる。利用者が座って読んだり調べ物が出来るよう、テーブルや椅子、ソファなども十分にある。


内見と外見はどう見ても釣り合いが取れないが、どうやら特別な魔法で中の空間を広げているらしい。精霊の瞳(ミッツのめ)には、所々で光が点々としていて、とてもキレイに見えていた。

大掛かりな魔法などに反応するようになったのだが、嫌な気配はせんしこんなもんかなとミッツは特に気にせずサイにも報告していない。


ずらりと並ぶ3メトー以上の高さの本棚に圧巻されながら、ミッツは受付前の案内板をじっくりと眺める。

色々と気になるジャンルはあったが、ミッツとサイは『世界と歴史』と書かれたエリアへ向かうことにした。


ちなみに一般利用者が入れるのは1階から4階までで、5階は職員専用フロア、地下は禁書や持ち出し禁止本、曰く付きの本などが収められているらしい。地下に入るには王族の厳しい審査の上での許可が要るということで、サイはゴッド級のあれこれで一度だけ入ったことがあると言った。




しばらく歩いて階段を登り、3階へとやってきた。専門分野を集めた階層になっている。

3階はそこまで天井は高くなく、1階と2階のような明るい雰囲気よりやや暗くなっていて、集中して専門的書籍を閲覧出来るよう工夫されている。

一気に人気のなくなったフロアを静かに歩き、『世界』書籍の場所を見つけた。あまり人気がないのか、周りに人は少ない。ついでに資料も少ない。

少ない資料の背表紙をじっくり見てると、人影が右棚から現れて、真っ直ぐこちらへ向かってきた。


「ヤァ、キミが今回の渡り人だって?ビドワードから聞いてやってきたヨ。サイさんも久しぶりだネ」

「おお、これはこれは。ちょうど良かった。ミッツ、こちらが」

「…う…」

「?」

「ミッツ?どうした?」

「う、宇宙人や!!!!!」


ミッツは驚いた。ユラ大陸へ来てトップ10入りするぐらい驚いた。図書館でつい叫んでしまうぐらいに驚いた。

銀色の少し小さい、まさにThe 宇宙人な存在が、今、目の前にいるからだ。


「ウーン、地球の渡り人全員と同じ反応!ホントに地球人だ!」

「ええー!?宇宙人や!ほんまにグレーのステレオタイプの宇宙人や?!ええ!?いやめっちゃ銀やん!?The 宇宙人って感じの宇宙人や!えええマジで!?ちょっと国際宇宙なんちゃら研究所に連絡……って俺今異世界やないかーい!」


ぎゃあぎゃあと主にミッツが言い切ったところで、笑っている宇宙人が手を差し出す。


「改めて、ワタシがギャパス星雲圏第36系D等級支配惑星ベベロスのピピビルビ・べべロス・ルルトニャードサミャッタチェレトゥルゥル。『非契約者』。今は王都シャグラードで王都壁や提供資源の管理をしているヨ。握手する文化圏の地球人でいいかな?」

「あ、大丈夫、握手握手。名前は全然聞き取られんかった。えーと…太陽系惑星地球、日本の大阪出身のミツル・マツシマです。『獣使い』で冒険者やっとって、こっちでの名前はミッツで、辺境町ミチェリアでモフモフカフェっちゅう動物ふれあいカフェ作ったで」

「ハハ、やはり一度では聞き取れないか!それも地球人みんな同じこと言うネ!ピピビルビでいいヨ。地球の女の子はピピちゃんって呼んでたし、好きに呼んでクレていいヨ。」

「えー故郷でなんて呼ばれてはった?」

「えーとネ、というかモフモフカフェ?何々?」

「ミッツ、ピピビルビ殿。ここでは何だからこちらへ。中庭があるんだ」


図書館内でついつい大声を出してしまったため、3人は3階の空中庭園へ移動した。



1階から4階まで続いている吹き抜けの空中には浮かんでいる床があり、植物に囲まれて机とソファが置かれている歓談スペースがあった。こんなところでファンタジーをちょっと体感したミッツであった。

空中でふよふよ浮かぶ庭園に少しテンションが上がったミッツは、サイとピピビルビに続いてソファに腰掛けた。


「さて呼び名だっけ。ウーン、もう忘れちゃったヨ…。なにせ、ここに不時着したのは468年と23日前だからネェ。でも所属や出身地、仲間のことは忘れたことないヨ」

「そ、そんな前に…ほな渡り人のユーヤとは会えとらんのやな」

「いや?会えたヨ?同じ境遇の者いるヨーって案内されて、この王都シャグラードで隠居生活を楽しんでいたヨ。もう中年って感じで、出会って一番に『うわ宇宙人!!!』て叫ばれたネ」

「せやろな。ユーヤはなんて呼んでたん?」

「普通にピピビルビさんって呼んでたかな」

「ピピピピビ、ちゃう、ピピビルビ…ぴぴ、びる、び……」

「発音難しいらしいネェ」

「あかん横文字苦手や。ほな、ピピちゃんで」

「いいヨいいヨ。気軽でよろしいし、懐かしい」


「で?モフモフカフェって何?聞いたことあるけど」

「モフモフカフェっちゅーのは日本で人気やった動物とふれあえるカフェをこっちでやってみたいなぁって思って、俺が発案したりしたんよ。ふれあえるんは先祖化してもろた獣人のみんなやねんけど、獣人の就職先を増やすんも兼ねて一石二鳥やよね」

「へぇ、確かに獣人の働き口が増えるのはいいネ。王城でも前に会った時に王様たちが嘆いていたヨ」

「何て?」

「馬鹿な考えの貴族共はなかなか減らないな、何か穏便に消す方法はないかね?って聞かれた」

「何て返したん?」

「貴族街を一部吹き飛ばすぐらいしか思いつかないネェって返したヨ」

「物理解決しかないん?」

「惑星べべロスの隣にある惑星マクライドなら、精神操作と記憶操作の技術が集まっているんだけどネ。よくべべロスの隊長たちも捕まった時に記憶操作されてたみたいだヨ」

「怖…」


笑いながら宇宙技術を教えたピピビルビと朗らかに話して、前から渡り人に会えたら聞きたいことを聞いてみることにした。


「とりあえず1つ聞きたいんやけど」

「なに?ワタシで分かることなら何でも聞くとイイヨ」

「ほな。この400年ちょいで、帰れる方法の欠片でも見つかった?正直に話して欲しい」


ピピビルビは沈黙した。

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