122 双子パーティと欠員パーティ
各辺境町から王都までは、馬車でおよそ1ヶ月かかるように大街道が設計されている。例外もあるが、辺境町ミチェリアからもそのくらいかかる。
緊急召集であれば冒険者ギルドにある転移陣を使わせてくれるが、集まるよう言われたのは約1ヶ月後であるのでまあ間に合う。ミッツが転移陣がどうこうと聞かずとも、ミチェリアからは馬車で行くこととなっていた。
サイの呼んだいつもの八脚大馬がふんふんと鼻息荒くずんどこずんどこと引く大型馬車、その中に冒険者一同はいた。
周囲や進行先はそれぞれが契約している天使や幻獣に見張らせている。何かあれば彼らが勝手に処理するか、己の契約者に知らせるだろう。
どうでもいいがこの場合のずんどこは、『ずん』で地面を踏みしめて『どこ』で地面を抉って前に脚を進めている、の効果音である。そのため、馬車が通った後は大変土が掘り返しやすくなっていた。
地面が柔らかく穴だらけになっていて後々に続く馬や通行人が怪我をしないよう、馬車の後を追いかける土精霊たちがミッツの指示通りに地面をかためていた。
馬車の中には5人席が向かい合わせに設置されており、その後ろには荷物が積み込めるようなスペースがある10人用の馬車である。
なんとなく各自が席に着いて、馬車が落ち着いてきたところでサイが喋りだす。
「では大街道にも乗ったことだし、改めて自己紹介でもするか。とりあえず俺たちから。サイ・セルディーゾ、『獣使い』でゴッド級だ。パーティ名は『世界の邂逅』、一応リーダーではある」
「ほな俺も。ミツル・マツシマ、冒険者名はミッツ。『獣使い』のビショップ級の渡り人やで。『世界の邂逅』のNo.2や。二人しかおらんから末端とも言うで」
「「知ってるよー」」
「ミチェリアで知らない人いないんじゃないかな?」
「というかゴッド級と渡り人の組み合わせで興味ない人いないよねー」
「そういえば、『世界の邂逅』ってなかなか強気な名前よね」
「ああ、それな。異世界と異世界の類稀な出会いをこう、ええ感じの言葉にしたかったんや」
「ちなみに俺たちで名前を付けなかったら、センスの破壊魔に色々と決められるところだった。ミチェリアラブハンターだの、ゴージャスゴッドキューティーだの」
「危ないところだったのね…」
自己紹介からしみじみとした空気になったところで、双子の自己紹介となった。二人揃って片手を上げて自己紹介をする。
「僕ね!ヤノー・フィフィ!一応お兄ちゃん!」
「僕ね、リノー・フィフィ!一応弟ー」
二人とも天然パーマみたいなふわふわした髪だが、ヤノーの髪色はこげ茶色、リノーの髪色はマロンのような茶色なので、見分けは普通につきそうである。
喋り方も少し個性があるが、それ以外は黙って並ぶと本当に見分けがつかない。
「パーティ名の『フィフィフィ』はねー、フィフィとフィフィでフィフィフィなんだよー」
「そうなんやー可愛らしい響きやねー」
「ミッツ、口調が移りかけてるぞ」
「二人とも『獣使い』なんだよ!僕は羽翼白馬!あと短剣を使うよ!」
「僕は一角虹馬だよー。今は馬車の後ろを守ってるはずだよー。僕は小斧を使うよー」
「へえ、ペガサスとユニコーン!ファンタジー定番やな!双子やから契約獣もちょっと似とるんかなぁ?」
フィフィ兄弟が自己紹介を済ませ、次はシェラたちの自己紹介となった。
「『不屈の峠』リーダー、キング級のシェラ・トレンチ。『悪魔憑き』で弓使いです。ミチェリアのナイトパレードでミッツくんとは仲良くなったね」
「シェラさんには色々お世話になったわ」
「いやいや、僕もミッツくんと会わなければスライム討伐の第一陣なんて名誉にかかれなかったからね。それにナイトパレード中のごはんも美味しかったし、モフモフカフェにも巡り会えた!本当に幸運だったよ」
「そ、そないに言うて貰えるとは…」
ミッツが照れたところで、次の自己紹介に移る。
「同じく『不屈の峠』、キング級のティック・アドラーだ。『天遣い』だが基本的に非好戦的で弱気な天使でな、人見知りでもあるから物陰からサポート系の魔法を使って、そんで俺がメインで戦っている。武器は大斧だ。こんな中年冒険者で悪いが気軽に接してくれや。一応俺もナイトパレードにはいたんだぜ?」
「斧!僕と一緒だー」
「おう、大きさは違うがよろしくな双子の弟!ああそうだ、シェラと俺は契約者がどうのこうのとかそんなつまらないことで文句は言わねぇから気楽にしてくれや」
「ほんま?良かったわ」
中年のベテラン冒険者といった風格のティックの自己紹介も終わり、最後にこの中で紅一点のノルリエが自己紹介をする。
「同じく『不屈の峠』!C級のノルリエ・ピース!『非契約者』で、メイン武器は剣!よろしく!私もナイトパレードで動いてたけど、ミッツくんたちとはどちらかというとモフモフカフェで会ってるよね!」
「せやね、抽選でプレオープンに来て貰ったんや。今はモモチしかおらんけど良かったら暇な時にでも撫でたりしたってな」
「いいの!?やったー!おいでモモチちゃん!」
「きゃん!」
ミッツのリュックからもぞもぞと現れたモモチを、早速ノルリエが抱っこした。今日もふわふわである。
「あっそうやった。このプチフェンリル、俺の契約しとるモモチ。凖神グランドフェンリル、通称神狼王の実子。まだまだ育ち盛りやさかい、交流とかも積極的にさせよう思っとるんや。せやから馬車でも基本的には放しっぱなしにするつもりやねん、ええか?」
「「僕たちは構わないよー」」
「こちらも構わないさ」
「あ、あと…」
モモチがノルリエの腕から徐ろに降り、その場でぶるぶるとドリルした。柴ドリルならぬ、フェンリルドリルである。
瞬く間にモモチの周りの床は白いもこもこで覆われた。
「きゃむるるる…」
「今抜け毛シーズンやねん。こんなことにようなると思うけどすまんやで」
「全然構わない」
「ご褒美だよ、こんなぶるぶる」
「ご褒美て。でも抜け毛めっちゃ出るけどどう処理しよか悩んどってなぁ」
「この抜け毛、プチフェンリルの素材として売れるのでは?プチフェンリル自体、相当希少だろ?」
「いやいや凖神の実子の抜け毛だぞ?いくらになってしまうんだ?でもとりあえず今服に付いた毛は貰っていいか?」
「モモチちゃんのお人形作ってその中にちょっとだけ抜け毛入れたら?私が言い値で買う」
「ノルリエちゃん、それ今度狼吼里フェリルで意見として提案してええ?ご当地土産にする。発案者の利益としてこうこうこんだけの率を還元して…」
「えっもう意見として採用されてる…!?」
モモチの抜け毛から商売の話へ移り、ミッツがルーズリーフにノルリエへの利益話を設け、わいわいと騒いでいた冒険者はしばらく話し合いを続けた。
一段落ついたところで、ティックがふとひとりごとを零す。
「それにしても……『獣使い』が4人、『天遣い』『悪魔憑き』『非契約者』が1人ずつか。バランスがなんとまあ…色々ありそうな…」
「王城では一足先に4人解散なりそうだな」
「はは、ちげぇねぇな!というかあの御方はまだ嫌っておられるのか?」
「好きになったという噂は聞いてないよね。そんなことになったら1日で噂になるよ」
「確かにー」
「なんの話?」
ミッツ以外の冒険者が笑いながら話しているのを聞いて、ミッツとモモチは不思議そうにした。
「そうか、ミッツはまだ知らないよな」
「そういえば渡り人だったねー」
「せやで。何かあんの?」
「んー、これはまあ、実際に体験してもらうか!なに、すぐに分かるさ」
「「賛成ー」」
結局何も教えて貰えず、大型馬車はずんずんずんどこどんどこどっこんと大街道を進むのであった。
どうでもいいが、1日目に泊まった野営地で契約獣や契約天使たちから「報告。途中の大街道脇にてスライムを5匹確認。ユニコーンが駆除した」「ご主人、スライムゼリー美味しかったです」「僕タチ草原オオカミに襲われタ」「野生のマンドラゴラが群生しておりました」「僕タチで美味しく頂きマシタ」などの魔物グルメレポートをされることとなった。
大型馬車の外はまあまあ危険だったようだ。
こんな感じで、1か月の旅は始まったのであった。