121 選抜冒険者たち
「よし、これで2人だ。あと6人な」
クロルドが冒険者たちを見渡す。最初からギルド内にいた者に加え、説明をしている間にクエストを終えて戻ってきたのか、何人か冒険者が増えていた。
「次、パーティ『フィフィフィ』のヤノー・フィフィ!リノー・フィフィ!この中にいるか?」
「「いるよー」」
酒場の奥の席にいたらしい冒険者が二人歩み出て来る。
少年と青年の境目ぐらいに見える外見で、髪色が違うだけで顔がそっくりのどう見ても双子であった。
「お前たちは二人ともクイーン級だし、実力も安定している。行ってくれ」
「うん!王都は久しぶりだね!」
「王都で今美味しいものなんだろねー」
「王都で今楽しいことなんだろね!」
「いや観光じゃねぇんだからよ」
「「わかってるよ!ギルマスにもお土産買ってくるよ!」」
「分かってねーだろ。まあ終わった後ならいいけどよ」
「じゃあ『獣使い』クイーン級のヤノーと!」
「同じく『獣使い』クイーン級のリノーも王都行ってくるよー」
「サイさん!よろしく!」
「ミッツくんもよろしくー」
ヤノーと呼ばれた冒険者がサイと、リノーと呼ばれた冒険者がミッツと握手をしてきた。よろしくと握り返したところでクロルドが残りの冒険者を呼び出す。
「おう、仲良くやってくれ。次!パーティ『不屈の峠』のメンバー全員!いるか?ミチェリアにいるはずなんだ、クエストからそろそろ帰ってきてる頃だと思うんだが」
「ギルドマスター、僕たちを呼んだ?」
「あっ!?シェラさんやん!」
「本当だ。ミチェリアに来ていたのか」
ちょうど冒険者ギルドの扉を開けて入ってきて返事をしたのは、ナイトパレードの時に遠距離攻撃職を率いていた『悪魔憑き』のキング級冒険者シェラ・トレントとパーティメンバーだった。
モフモフカフェのプレオープンにも参加したノルリエと、ミッツは見たことがなかった他のパーティメンバーと共にギルドに入ってきたところでクロルドの声が聞こえたらしい。
「やあサイさん、ミッツくん、久しぶり」
「ほんまに久しぶりやなぁ!」
「いつからミチェリアに来たんだ?」
「しばらく護衛クエストで違う町に滞在していたんだけど、クエストも片付いたし、休暇がてらみんなでモフモフカフェに来たくてね。ミチェリアには昨日の朝着いたんだよ。昨日が休暇日だったから、モフモフカフェを満喫出来たよ」
「はー、そらご贔屓におおきに」
モフモフカフェ設立者として礼を言うと、ノルリエや他のメンバーも感想を言い合ってきた。
「ミッツくん久しぶり!ノルリエだよ!ミチェリアに着いてすぐ、昨日のお昼前に早速モフモフカフェ行ったんだけど『カピバラのお風呂タイム』が見られて本当良かった!リンゴ食べてぼーっとしてるカピバラ、ずっと眺めていられるねアレ!」
「ああ、のんびりした気持ちになれて悪くはなかった。だが一昨日は『ペンギンおさんぽロード』の日だったんだろ?一糸乱れぬかと思いきや予想しない方向へウロウロする姿、俺はそっちのも見たかった」
「僕は先週あったって聞いた『鳥さんハミングコンサート』も見たかったなぁ~。すごく綺麗な声だったって隣席の常連さんが言ってたから~」
「分かる!ミッツくん、色々イベント増やし過ぎ!ここに住まなきゃならなくなるじゃん!」
「おーおー、住んだらええやん。ミチェリア拠点にしようや」
冗談ぽく言ったノルリエだが、ミッツに冷静に返されて少し本気で考えた。
「うーんミチェリアか…住み心地はまずまず…『不屈の峠』全員が良いと言えばいけるのかな……むっ!ミッツくんが他の町にもお店を増やせばいいのでは…!もしくは類似のお店がもうあるのかな…!?王都とかにありそう!」
「いや、モフモフカフェも一応…あの、あれ、王族御用達やから勝手に他の人が似た店出すんは出来へんはずや。特許みたいなもんやな」
「トッキョは分かんないけど、そっか!王族御用達なのよね!王族御用達なら貴族が入り浸る高級店が多いのに、冒険者も貴族も気軽に入れるなんて、不思議なお店だよね!」
ノルリエが言った通り、王族御用達とされる店…『シャグラス王族公認状』が国から発行されるような店は9割以上が高級感漂うレストランや宝石店である。とても一般庶民が入れる雰囲気ではなく、中には庶民の接近すらも厭がるところもある。
その正反対にあるのがモフモフカフェ。一般庶民がメインターゲットであり、最低限の条件さえ守られれば誰であっても入店OKの変わった店として、シャグラス王国中で噂となっていた。むしろ貴族が庶民に合わせてでも入る店である。
そして王族御用達の店は、『その組織体制やシステム、レシピなどを真似ることをしてはならない』という法律がある。もし真似たりすれば、王国から厳しい処罰が下されるのだ。
ミッツのいう特許のようなものである。
「すまんがモフモフカフェの感想は後にしてくれや。実は…」
「ああごめん、でも大体察した。王族不定期令かな?なら僕たちは大丈夫……でもないんだな、これが」
「ああ良かった……、………は?今なんつった?」
「ごめんねぇギルマス~」
『鳥さんハミングコンサート』に興味を持っていた、ふわふわした雰囲気の男冒険者が最後尾からとことこと前にやってきた。
その男の顔右半分は布でぐるぐる巻きにされていて、血が滲んでしまっていた。
「は?ベラー!?お、おま、お前その、顔どうした!?誰に、いやお前は人から恨み買うような奴じゃない!何にやられた!?魔物か!?」
「いや~ちょっと…その…バチバチクルミにやられちゃってぇ~」
「は?」
「こいつ、今朝のポイズンフロッグ討伐クエストの休憩中に余所見しながらバチバチクルミをおやつにして、そのクルミの弾けた破片が右目に直撃したんだよ」
「うっそだろ、そんな、ええ…」
「ミチェリアに帰って来たのも、クエストが終わったのもあるけど、べイムの右目を治して貰おうと思ってなんだけど…」
「治癒魔法の使い手、ミチェリアにいる~?いたとしても他に怪我人とかいたら、すぐには治せないよねぇ~…だから王都にすぐ向かうのは無理かもぉ。あ
~めちゃくちゃ痛かったぁ。バチンッてなったんだよぉ」
本人からすると真剣に話しているが、そののんびりしたような口調と真剣な内容にクロルドは頭を抱えた。
「あああ…、治癒専門の先生は明後日帰ってくる予定だ。タイミングが悪いな、今は辺境町サルサッラの要請で向こうに行っちまってるわ。先生の魔法は強い方だから失明にはならんだろう」
「ありゃ~、まあ明後日なら視力は戻るね。とりあえず良かった~」
怪我の程度と怪我から治療までの期間、そして治癒術士の腕によっては完治することが出来るので、失明の心配はなさそうである。
「そういうわけで、『不屈の峠』で参加出来るのはリーダーである僕、『悪魔憑き』キング級、シェラ・トレンチと」
「私!『非契約者』C級!ノルリエ・ピース!」
「俺、『天遣い』キング級、ティック・アドラー」
「以上3人となるよ」
「『獣使い』ルーク級、ベイム・ベラーはミチェリアでお留守番します~。ごめんねぇ~」
シェラとノルリエ、ティックと名乗った中年の男がクロルドへ了承の返事をした。
「えー、そういうわけだ。指名確認!等級順に、サイ、シェラ、ティック、ヤノーにリノー、ノルリエ、ミッツ、以上7人!急で悪いが今日この後、昼から王都に向かってくれ。そうすれば王都の召集期限には間に合うだろう!馬車はこちらで用意する!馬は今手配をして…」
「クロルド、馬はいらん。八脚大馬にでもユニコーンにでも引かせるからとりあえずデカい馬車を頼む」
「分かった」
「転移陣ってのを使わんでも大丈夫なん?」
「召集は1ヶ月後だからな、ミチェリアからだと普通の馬車でギリギリ1ヶ月未満、八脚大馬で3週間強、何かあってもこのメンツなら1ヶ月以内で行けるだろう」
わちゃわちゃと準備が整えられていく中、留守番が決まったべイムはのんびりとパーティメンバーにしばしの別れを告げた。
「リーダー、みんな、気を付けてねぇ~。僕はミチェリアでおとなしくお留守番と資金稼ぎしておくよぉ~。あとモフモフカフェも通う~」
「あっずるい!私も通いたいのに!」
「いいご身分だなてめぇ!」
「まあまあ二人とも…。ベイム、目が治っても一週間は安静にしておくようにね。その間はクエストもモフモフカフェも禁止。リーダー命令ね」
「えぇ~、まあしょーがないよねぇ。そうするよぉ~。星の御加護があらんことを~」
「ああ、星の御加護があらんことを!」
「べイム、もうクエスト中に余所見しないでよ?星の御加護があらんことを!いってくるね!」




