12 お邪魔しますよ前線防壁
やっと文明圏に入ります
森をかきわけて草木を切りついでに魔物も倒し、
宵待星が空に出た頃に前線防壁の関所へと辿り着くことが出来た。
森なぞ走り慣れていないミツルは疲労困憊である。
「はーっ…はあっ…着いた…?」
「よく頑張ったなミツル、とりあえず到着だ」
「良かった…ほんま…こんな走ったん久しぶりで…」
「ミツルはまズ体力つケるとこから始メないとだネ」
「何はともあれ、危ないから関所に入るぞ」
前線防壁に埋め込むように作られた砦のような関所には、大きな門と警備兵が駐在する警備室がある。
サイはまっすぐ前線防壁へ向かうと、前線防壁に備え付けられている小さなベルを鳴らした。
程なくして、警備室から警備兵が一人顔を出す。
「おお!サイさん、クエストは終わりましたか!」
「やあ警備兵さん、クエストは終わったよ。何か異常あった?」
「いやー今日は平和なもんでしたよ。向こうの関所ではアースウルフが山盛り出たらしいけど!サイさんはどう?何か異常ありましたか?」
「うん」
「そうですよね何事もないのが一番………うん…?」
「異常はあったんだよねぇ」
サイの後ろからタイミングを見計らってミツルが顔を出す。
「どうも。ご紹介の異常です」
「………ど、どちら様で…?」
「詳しくは中で話そう。取り調べしてくれてもいい。俺が身元保証しよう」
「サイさんがそう言うなら、まあ」
警備兵はとりあえず中に全員を入れた。
駐在している他2人の警備兵も呼んで、お茶をとりあえず出して取り調べしていくことになった。
「は~~~!渡り人!へぇそんなこと本当にあるんですね!」
「僕、ひいばあちゃんに渡り人伝説聞いたことあったけどボケてるんだと思ってたわ。ごめんひいばあちゃん」
「サイがいるとこに精霊が運んできたんだって?その辺に放り出されなくて良かったな坊主!」
あっさりと警備兵たちは信じ、ミツルの無事を喜んでくれた。渡り人の話を知ってる兵がいたのが決め手である。
お茶請けにとミツルが飴とチョコレートを出し、甘味の少ない世界で更に娯楽も少ない関所勤めの警備兵たちに衝撃が走った。
「チキュウだっけ?旨いものが豊富なんだなぁ…!あー帰れるかどうか今は分かんねぇんだろ?じゃあまずはこの大陸の身元証明を作るとこからやらないとな!」
「それ、俺でも作れますん?」
「手っ取り早いのは冒険者等になることですかね」
「そうだな、この後ギルドに寄って登録させる予定だ」
「そうか!まだ夕方だから登録も間に合うだろう!あとこの菓子、チョコだったか、甘くて旨いな!こんなに旨いならきっと高いだろうに悪いなぁ」
「正確にはチョコレート言いますねん。こっちにあるか知らんけどカカオから作られとるお菓子でこれは量産されとるから、安いし何か増えるらしいんで気にせんといて下さい」
ミツルの発言で室内がまたざわつき始める。今度はサイも驚いている。
「これが量産?!」「どうなってるんだ…?」「異世界すげーな」「こんな旨いのが安くいっぱい作れるだと?!」「チキュウは楽園なのか!?」等々ひとしきり騒がれ、しばらくして仮証明書を持たされサイたちは関所を王国側に出ることにした。
「おっと言い忘れてたな」
「ん??」
警備兵の一人が関所の扉を開けながら笑顔で言う。
「ようこそ。ユラ大陸一の規模と人口を誇る大国、シャグラス王国へ。
まずはこの辺境町ミチェリアでゆっくりしてくれや、渡り人」