114 高級オークション第二部
20分の休憩でトイレに行っていたサイがついでに買ってきた飲み物を受け取って飲みながら、サイとミッツとフィジョールは第一部についての感想を交わしていた。
「ふー…今回もなかなか良い植物が揃っているな」
「すざましかったな…美容関係の植物が特に」
「ああ…すごかったな、恋する巨大花の競売を見ることになるとは」
「ああ…、恋する巨大花は花本体からは強烈な臭いを発しているが、その花粉とエキスを取り出せばものすごいアンチエイジング効果と優しい香りの香る化粧水の原料となる。おまけにシミ・シワにもよく効くとあれば…それはもうすごい。貴族女性の競り合いはいつ見ても圧巻さ」
「どの世界でも美容って怖いんやなぁ…。ミチェリアブランドの化粧品出来た時が怖い…」
「ミッツくんの世界でもそうなのかぁ」
「ミッツ、今度恋する巨大花咲かせて欲しいって願ってみろよ。ミチェリア近くに群生して咲くかもしれないぞ」
「イヤや。そんな騒動の元を咲かせたないし獣人従業員に害あるやろ、あんな強烈な臭い。ヘドロ草事件忘れたんか」
「それもそうだな」
「それにそんな願って都合よく咲くなんてなぁ?」
「…そ、それもそうだな」
休憩でトイレに行ったりする以外は、サイとミッツとフィジョールで雑談をして過ごしている。一番最初のオークション第一部で最も競りの激しかった恋する巨大花の競売は周りの席でも話題になっていた。
恋する巨大花は地球にもあるラフレシアとほぼ同じ見た目であるが、相違点は『すごく効能高い化粧水が作れる』ということである。そのため見つけられるとオークションに即出されるか、高く買ってくれそうな貴族・商人に直接掛け合うこととなる。末端価格は800万。今回は貴族の夫婦が2200万で競り落とした。
おそらく精霊の瞳を持つミッツなら都合よく群生させることは出来るだろうが、このことを知っているのは一部の人だけなのでバレることは避けたいし、よほど困った時じゃないと実行はしないだろう。
ミッツはうっかり口を滑らせかけたサイに圧をかけて、この話題を終わらせた。
話をオークションに戻し、なんとなく思い描いていたオークションとほぼ同じでなんとなく納得したミッツは、ふと思ったことを聞いてみる。
「俺らみたいな一介の冒険者でもオークションって出来るん?」
「出来るぞ?今までは貴族向けの嗜好品が多かったが…、目録を見たまえ」
第一部で出たもののページまで捲り、次のページからパラパラと捲ってみる。しばらく薬草や食べ物が中心となっているようだ。適当なページで切り上げて冊子を閉じた。
「専門的な職業に必要とされる植物や実用性のある植物は主に第二部で出るのさ。もちろん第一部でも出たし、貴族向けの植物がこれからも出るとは思うがね。私もここから挙手して参戦予定だよ」
「あ、せやった。薬師さんやもんね」
「どのようなものを狙っていくんですか?やはり薬草や毒草?」
「そうだね。あとは…この火炎大キノコやバチバチクルミは研究で使いたいから少し手を出そうかな」
「あーあの美味しいクルミ」
「食べたことある?このクルミは麻痺を治す薬に使われるんだよ」
「へー」
「まあ欲を出すなら…特級薬草の粉末があれば良いんだが、この『記載秘』が特級薬草だったりしないかな!なんてな!」
「あー」
「せやねー」
乾いた返事を冒険者二人がしたところで壇上からカンカンと鐘の音が鳴った。
客席が静まったところで第二部の開始をダリオットが告げた。
「お待たせしました、第二部の開始でございます。まずは火炎大キノコ!冷えた体を温めるという薬効を持つ、薬師の皆様に人気のキノコです!5つでお値段5万から!」
「8万!」
「10万だ!」
「13万!」
「17万よ!」
「20万だ」
「25万!」
「25万出ました!他には……はい締切です、58番25万で落札おめでとうございます!」
6人程で競り合い、58番のフィジョールが無事に競り落とせて安堵からか表情を緩める。
「ふー」
「お姉さん、落札おめでとさん」
「ありがとう、だがまだ油断は出来ない…というか今回はやけに薬師関係者が多いな…」
「そうなん?植物なら多いのは当たり前ちゃうの?」
「いや、いつもなら火炎大キノコぐらい18万までで競り落とす自信がある。それに顔を知っている王都の薬師がこの席から何人か見られるんだ」
「なるほど…なんかあるんかなぁ」
「うーむ、まあ良い。予算の限りを尽くすさ。幸い稼ぎのある方なんでね」
25万ぐらいなら端金であると言い切ったフィジョールは次の競売に向けて目録のページを捲っている。
月に500万ユーラは軽く稼ぐ国王公認筆頭薬師のことを知っているサイは納得したが、よく知らないミッツはお金持ちなんやなぁと思うことにした。
その後も薬師たちの競り合いは続き、いくつかは競り落とせなかったと悔しそうにしていた。
冒険者たちが競り合うような植物もあり、ミッツは参加しなかったがサイはいくつかを競り落としていた。
そんな中、あまり目録に目を通していなかったミッツが食い付いたものもあった。
「お次は初登場です!アルテミリア国のエルフの住む山で発見された未発見の刺々しい植物!バンブーに囲まれたていたことから何か関係あるものかもしれません!」
「エ゜ッ」
「ミッツ、どうした?どこから声出した?」
「見たことはないものの危険はないということで出品の許可が下りました。シャグラス王国ではバンブー自体もあまり見慣れないですし、標準価格がありませんので5つで1万から!」
「未発見ならコレクターとしても気になるな、2万だ」
「あれの価値知らんやつに負けるのは納得いかへん、5万や!」
「ミッツ?あれ何か知ってるのか?」
「ちょい黙って!あっ値上がりしよった、15万!」
「ちっ!まあ何か分からんものにこれ以上深追いするわけにもいかんな、まだ競り落とすものはあるし…」
「他ありませんか?…では101番15万、落札おめでとうございます!」
「っしゃおらぁタケノコは俺のもんや!」
「ミッツ?どうした?何あれ?」
何か刺々したものを競り落とせて非常に満足したミッツは、目録を改めてじっくりと読み、『記載秘』のページまで読んでからちょっとだけ舌打ちした。
「チッ…米はあらへんかったか…タケノコご飯は出来へんか」
「ああ…お前ずっと探してるんだったな」
「コメ?」
「お姉さん聞いたことある?えーと、孤国連邦のトキョ国の米、ライス、ごはん、おにぎり、稲」
「うーむ、すまない。吟遊詩人のライスターなら知っているぞ。この前王都シャグラードの噴水にいた」
「みんなライスターのこと知っとるやん…」
オークションは着々と続き、あとは『記載秘』の2つを残して終わりというところで何故か10分の休憩に入り、何があるんだと客席はざわついた。普段の高級オークションは二部制なのだ。
そんな中、二人はオークションスタッフに呼び出された。フィジョールには適当に訳を話してスタッフに着いていくと、支配人がメインホールの脇にある小さな応接室で待っていた。
「どうしました?」
「何かあったん?枯れた?」
「いえ、オークション側として意地でも危害を加えませんよ。お願いがございまして」
支配人が、顔をキリッと引き締めて一介の冒険者に頼み込んできた。
「普段、出品者のお名前は出さないようにしてはいるのですが、よりインパクトを求めるために…お二方の名などを壇上でご紹介させて頂きたいのです。こんな素晴らしいもの、過去にも滅多にありませんので」
「ほう?」
一理あると考えたサイだったが、少し考えて答える。
「俺の名は出しても構わない。だがミッツはダメだ」
「と、言いますと?」
「渡り人が来たということはもう王都まで届いた事実ではあるし、ミッツの名を知る者も増えてはいる。しかし全ての者、特に貴族にはまだ知られていないはず。もしここで名と渡り人であることを知らせ、その容姿と名を一致して覚えるよくない貴族がいるとすれば…」
「…なるほど、我々ベリベールオークションハウス一同としましても、お客様の危険を生み出すわけにはいきませんな。大変失礼なことを…」
「いや、いい。だがインパクトを求めるのは…良いな。よし、『渡り人の見つけたもの』というのは使う方向で行こう」
「ありがとうございます!」
「俺の意見は!?」
ミッツがなんとなく釈然としない横で支配人と話をつけたサイは、ミッツと共に客席へと戻って行った。