113 ベリベール高級オークション:植物
翌日、つまり高級オークション当日。
ミチェリアの服屋で買ってきた良い服を着たサイとミッツは、ラフレ夫人と私兵数人と共にベリベールオークションハウスへと向かった。
ちなみにモモチは契約獣であるため、大人しくしていればオークションハウスへの入場は大丈夫らしい。なのでモモチにもしっかりとオシャレな首飾りをつけてあげ、しっかりと抱えて入場した。
ハウスの中は、高級オークション専用の大きなメインホールを中心にして、会議室、保管室、貴族専用の飲食店、貴族以外も入れる飲食店、その他様々な店舗の入った施設となっているらしい。
ミッツは正式な格式高いオークションを地球で見たことはもちろんないが、色んなテナントの入った映画館みたいなもんかな?と思っている。
メインホールへの入口で、ミッツは番号札と目録冊子を受け取った。番号札は胸元など、見えるところにつけるように言われたのでひとまず胸につけた。
よく分からないままミッツは101番の札を持ってサイたちに着いて行く。ちなみにサイは99番、ラフレ夫人は129番だった。どうやらランダムに振られているらしい。
高級オークションが行われるメインホールへ辿り着くと、ラフレ夫人と私兵は貴族席へ、サイとミッツは非貴族席へと向かった。
一応身分が証明されれば入れるとはいえ、線引きはされている。非貴族席はホールの後方部分で、商人や冒険者が主に座っている。なのでミッツはサイと共にホールの後方へとやってきた。席は自由である。
適当な席を確保したサイは目録に目を通し始め、ミッツはこの世界に来て初めての格式高い公共施設をキョロキョロ見渡している。
あまりにキョロキョロしているのが気になったのか、隣の席にいた短髪の麗しい男装のような女性が話しかけてきた。
「ん?君はオークション初めてなのかい?」
「え?あ、はい。視線鬱陶しかったです?すんません」
「俺は何度かありますがね、こいつは初めてです」
「そうかそうか!では軽く説明してあげよう!」
オークションは大体がミッツが思っているようなものであったが、いくつか魔法のある世界特有のルールがあるようだ。
オークションが始まってお目当てのものがあると、挙手をして値段を告げる。そうするとオークションの進行役が挙手した者の番号を魔法で把握し、その繰り返しで競り落とすことになるらしい。
出品者にはタダでということで渡された目録には魔法で絵姿が写し出される。ミッツのスマホの鑑定カメラとはまた違う、特殊な魔法が使われているようだ。おかげで名前を聞いたことのない植物でも見た目で判断出来る。
「と、まあこんな感じかな。あとは見ていれば分かる。ああ、自己紹介を忘れていた。私はフィジョール・マキシ、『天遣い』で国王公認筆頭薬師だよ。この席にいることから分かるように、貴族でもないから気軽に接してくれたまえ」
「どうもご丁寧に。俺はサイ・セルディーゾ、『獣使い』のゴッド級冒険者でこいつの保護者のような者。今回出品もしています」
「俺はミツル・マツシマ。ミッツて呼んでや。えーと『獣使い』のビショップ級で俺も出品しとるよ。あと渡り人や」
「ゴッド級に渡り人!?…いや、失礼。渡り人ならオークションを知らなくても不思議ではないな」
「まあそんなわけで、よろしゅうフィジョールさん」
「気軽に呼びたまえよ」
「えーじゃあお姉様」
「お姉様!?別に良いがなんで!?」
「なんとなく。あ、でもやっぱり気軽さを込めてお姉さんで」
初見からヅカの空気を感じていたミッツはもうお姉さん、もしくはお姉様としか呼ぶつもりはなかった。
フィジョール自身もよく男装の麗人と呼ばれているため、すごく混乱するわけでもなくすぐ受け入れた。
「それにしても、今回は『記載秘』が2つもあるのはどうしたことかな…」
「『記載秘』?」
「ああ、大体の品はこの目録に載っているだろう?」
フィジョールに言われたミッツはパラパラとページを捲る。
真紫のいかにも毒々しい大きな花や斑点模様がたっぷりと軸にまであるキノコなど、見ただけで実物が想像出来る。
「最終ページとその前を見たまえ。この目録順にオークションは進められるのだが最後の2ページは何の絵も載っていないだろう?」
「ほんまや、真っ黒や」
「こういう場合、よほど高額が想定されるか、よほど素晴らしくて先に載せて見せるともったいない貴重なものとなっている。こういうものを『記載秘』と呼ぶんだ」
「へー」
「それが2つもだぞ!?かなりすごいものがあるに違いない…!わくわくするな!」
「そっすね」
「そうですね」
その2つが隣席で軽く返事をする冒険者たちによる出品だということをフィジョールは少し後に知ることとなる。
「お待たせ致しました、紳士淑女、商人に冒険者の皆様!只今より高級オークション、植物部門を開始致します!」
上品な拍手が前方から、普通の拍手が後方から沸き起こる。
その拍手を受け、進行役の男は満足げに頷き、片手をあげて拍手を止めた。
「司会進行はこの私、ダリオットが行います。どうぞよろしくお願い申し上げます。さて、皆様のお手元に目録と番号札はございますか?」
特に不足がないことを確認すると、ダリオットはそのまま進行をする。
「堅苦しい挨拶、前口上はこのくらいにして、早速オークションを行いましょう!まずは…辺境町サルサッラ付近で見つかった真珠ユリからでございます!」
こうして珍しい植物、果物、薬草などの植物オークションが本格的に始まった。
「フリルローズ30万!他ありませんか?」
「くっ、35万!」
「35万が出たか、仕方ない…これは諦めよう」
「…締切です、67番35万で落札おめでとうございます!」
「ほっ…」
「しびれクルミの苗18万!他はありませんね?…締切です、117番18万で落札おめでとうございます!」
「よし!これで新しい薬を…!」
「お次はぶちぶちキノコ!」
「あ、さっき目録で見たキノコや」
「斑点が軸にまで及んでいるのはそれだけ旨みが凝縮している証拠!赤色に散りばめられた黒の斑点が珍味キノコの証拠!5つで40万からです!」
「45万!」「55万!」「させるか!80万だ!」
「えっ、このキノコ…人気なん…?」
「ああ、ぶちぶちキノコはあまりに旨いから大体が貴族に買い取られていく珍味だぞ」
「ええー…松茸みたいなもんなんかな…」
「お次は仔猫の彩り花!色とりどりの花は一見すると普通のチューリップですが、風が吹いて花が揺れると不思議なことに仔猫のような可愛らしい声が花から聞こえる、少し珍しいものでございます!球根10個で50万から!」
「きゃあ!ずっと探してたのよ!お父様、買って買って!競り落としてぇ!」
「うむ、60万だ!」
「小娘になんて渡すものですか!80万よ!」
「ぬっ、90万だ!」
「95万!」
「100万だ!」
「108万よ!」
「ぐ、110万!」
「120万!」
「…ぐっ…!」
「129番120万!40番、どうされますか?」
「お父様頑張って!」
「…ぬぬ、すまない、お母様に頼まれていた先ほどのサファイアカスミソウで予算が…」
「そ、そんな!」
「…締切です!129番120万で落札おめでとうございます!」
129番のラフレ夫人と40番の貴族の細かい競り合いを眺めたりしている内に、あっという間に1時間が経ち、休憩時間が設けられた。