101 まつしま みつる
最初から最後まで完全フィクションです。
ミッツがユラ大陸に落ちてきた頃より16年前の冬のある日、大阪府内のとある場所に一人の男の子が産まれた。
両親は田舎から駆け落ちをしてきた若者で、幸せいっぱいで光溢れるような子に育って欲しかったことから男の子を『ヒカル』と名付け、大切に育てた。
ヒカルが1歳になるまでは。
一時のノリと若さ故の行動力で駆け落ちした夫婦は、1年ですっかり磨りきれた関係になってしまった。最初の頃は上手くいっているように見えたのだが、慣れない生活とヒカルを育てることが重圧となり、わずか1年で冷めてしまったのだ。
泣きわめくヒカルをうるさいからとタオルにくるみベランダへ一晩中放置したり、仕事でむしゃくしゃすることがあった時には夫婦で喧嘩して投げたものが寝ていたヒカルに当たったり。
そうこうしていると、傍観を決めていた近所の住民がやっと児童相談所へ連絡をし、ヒカルは救出された。両親はどうなったのか、ヒカルも今では分からない。
ヒカル4歳の春のことであった。
少し遠く離れた児童養護施設へ預けられて無事になったかと思ったが、ヒカルの不幸はまだ少し続いた。
施設の代表は一見人当たりの優しい子供好きであるとされていたが、本当は子供のことはどうでも良いと思っている大人だった。
基本的に施設スタッフは最低限で、代表の身内や息のかかった者である。子供たちには最低限の衣食住だけをさせる。浮いた金を横領する。端的に言わなくてもクソ野郎だ。
義務教育である小学校と中学校に通う子供たちが助けを求められる立場にあったが、代表が「もし先生や保護者に話が伝わればここにいる子供がどうなってもいいんだな?」と釘を刺していたため、ただ耐えることしか出来なかった。
それでもヒカルにとっては、暴力はたまにしか振るわれずご飯も出る、着るものはかなりの古着だがある、室内で寝られる、とあって底辺の生活でなくなったことはまだ良かった。
だからといって良いわけがなく、おかしいことは流石に気付いていた子供たちは皆で協力し、お互いを『兄弟姉妹』として助け合いながらなんとか暮らしていた。
料理の出来そうな子供は中学校で習ってきた料理を、裁縫を習ってきた小学生が破れた服を繕い、学校で開かれたチャリティーバザーで格安の雑貨を手に入れた子が施設の子供たちにこっそり配ったり、最低限しかしてくれない大人に隠れてなんとか改善しようとしていた。
行き先の決まりそうな子がいる時はその子だけ別の建物に移動させられ、身なりを整えられ、再度脅しをかけられて行くため、やはりここでも事態は発覚しなかった。
ヒカルは周りと同じく行動していたが、子供たちの中でもちょっとだけ頭の回転が早かった。
ヒカルが小学校へ進学し、授業で色々と習う内にある物を独学で作ろうと決心をする。
これは施設の大人に気付かれるわけにはいかず、どこから情報が洩れるか分からないため子供たちにも秘密にしなくてはならない。
そのためには理科、算数、その他知識をしっかりつけなくてはならない。気がした。ヒカルはとても頑張って、小学三年生になる頃には中学生の範囲まで基礎を独学で習得していた。
手先が器用だったので、刺繍や料理もここの段階で主婦レベルにまで上達することが出来た。
そうして知識と技術を自分なりに身につけたヒカルは一人で黙々と材料を集め、組み立て、更に1年をかけて行動を起こし、証拠となるものを封筒に入れて、道端にわざと残した。残された封筒を見た通行人は善意である場所に届けることにした。
交番である。
交番に届けられた封筒には『これをひろった方はおまわりさんへとどけてください。中にれんらく先分かります』と子供の字で書かれてあり、微笑ましく通行人と警察官が中身を見て、一瞬息を止めた。
中にはピンぼけしてはいるが写真が複数枚入っており、明らかに子供たちに暴力を振るう大人や質素な食事の風景が写っていたのだ。
裏面には何枚かに分かれて『いつ撮ったものか』『ここはどこの児童養護施設か』『自分たちはずっとこんな調子』等が書かれており、最後の写真裏には『おどされてて大人に相だんできない。しんちょうにうごいてほしいです。』と記されていた。名前は書かれていないが明らかに子供の字だった。
まさかあの人当たりの良い代表が…と思わなくもなかったが万が一のことを考えた警察官は上司に連絡を入れ、交番に写真が届けられてから10日後に強制捜査が入り、代表と施設スタッフは全員捕まった。
それから子供たちは、しっかりした施設に分かれて引き取られることになった。お互いに連絡先も交換して別れを告げ、離ればなれになった後も集まったりと関係は非常に良好である。
立役者のヒカルは施設を移動した直後に、封筒が届けられた交番勤務の警察官の知り合いが声をかけて無事に養子となることが出来た。
そして、名前を少しだけ変えて新たな人生を歩み出したのが、光少年だった。
「というわけで、それが松島家なんよ。そして俺の兄弟姉妹は施設の同期と松島家の兄姉な」
「マツシマ家が生家ではなかったのか…というか結構な人生送ってるじゃないか」
「まあ、せやな」
「だが良かったな、良さそうな家族が養子にしてくれて。一人だけ違うっていうのは大丈夫だったのか?」
「ああ、それがな、松島家は全員血の繋がりないねん。親は再婚同士で親父は養子、おかんは普通の家族の娘、親父方の爺ちゃんは行方不明、おかん方の婆ちゃんは未発掘の遺跡に長期冒険中、姉ちゃん養子、兄ちゃん養子、俺養子、柴犬は保護犬、猫は野良猫」
「また複雑な…ちょっと待て、お婆さん一体何者…?」
「まあまあ。色々あんねん。そんな感じやから、俺子供捨てたり暴力振るったりが一番嫌いやねん」
「なるほど、分かった。この手の話はなるべく避けるようにしよう」
サイの納得も得られたので、この話はここで一度終わった。
「ところで、何を作ってコーバン?に持って行ったんだ?そもそもコーバンとは?」
「えっ。えーと警察、うーん、自警団分かる?」
「それはまあなんとなく」
「市民を守って犯罪者捕まえたりする、国公認の…えーと、組織みたいなやつやな」
「へえ、騎士団と兵団を合わせたようなものか?」
「うーーーん…まあそんな感じ…、交番は警備兵みたいな役目の警察官が常駐しとってな。町中の至るところにあるんや」
説明が難しかったので、大体そんな感じにしておいた。
「で、何を作ったんだ?」
「ああ、カメラや」
「カメラ…、ってあれか?ミッツのスマホの鑑定するやつ!」
「そうそう。あれは元々カメラっていう機械があってな、スマホにはその機能が備わっとるんや。それを自分で作ったんや」
「…作れるのか!?あの空間魔法が!?」
「手作りやとあんな鮮明には写らんけど、ぼんやりした風景画やったらここでも作れるんちゃうかな?あと空間魔法ちゃうし」
ミッツの過去話から話を切り替え、カメラについての会話になって話は終わった。
後日、子供でも作れるカメラの原理をサイに説明し、商業ギルドへ試作品を持っていくことによってまた騒がしくなるのは別の話である。
お正月明けに投稿する話じゃないね!
あと、児童養護施設とか手作りカメラとか、実際のところは本当に何も知らないです。
カメラに至っては、小学生の作るような手作りカメラではせいぜいピンぼけの風景ぐらいしか撮れませんので