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獣使いたちの冒険者記録  作者: 砂霧嵐
異文化の違い
100/172

100 冒険者拒否指定制度

川で涼んでいたバンバドの隣へ座ったサイはストレージポーチから簡易釣りセットを2つ取り出し、バンバドにも渡した。

おそらく、思考がまとまるまでに時間がかかると判断したのだ。


「サイさん、ミッツくん何を考えてるんですかね?」

「チキュウにはない儀式で相容れない風習だったんだ。あちらでは魔力の概念が等しく無い、つまり神々の元に送り返す必要がないんだ。だから…その、おそらく赤ん坊を捨てに来た(・・・・・・・・・)と思ってるんじゃないかな」

「えっ、そうか、そういう見方にもなるのか…」


サイ、念のために簡易契約でシルフを呼び出して二人の様子を見させる。

申し訳ないと思いながら会話も少し聞くことにし、あくまで魚釣りに集中しているかのような態度をとった。



「きゅん…」

「…モモチ、ごめんなぁ。なんとなく俺の気持ち分かるみたいやし、不安になってしもたんやなぁ」

「きゃん」

「モモチは、せやな。親って概念あらへんのかな?神狼王様が親ってことになるんやろか?」

「くぅん?」

「まあ分からんよな、まだまだ赤ちゃんやし。なんとなく内容は理解してるんやろうけど」


ミッツはモモチを抱えて顔をモモチのお腹に埋める。


この2ヶ月ですくすくふくふくと成長したプチフェンリルは、日々健康的なご飯と充分な睡眠、毎日のブラッシングによってふっかふかのもっちもちになっている。ミッツだけでなくサイや他の人たちも魅了するその毛並みと柔らかい脂肪はミチェリアのアイドルの座を欲しいままにしていた。


モモチ同伴でミッツがカフェに現れる日のことを、常連の間では『モモちゃん日』と呼ばれていて常に望まれていることをミッツはまだ知らない。


「分からんくてええから話さしてな」

「きゃん?」

「俺なぁ、嫌なことは色々あるけど、親に捨てられることが何よりあかんねん」

「くーん」

「ん?平和な国やった?ああ戦争はないんやけど、どんな国でもあかんとこは必ずあるさかいなぁ」


モモチが一生懸命理解しようとしている間にもミッツの独り言は続けられる。

さりげなくモモチの言いたいことが自分に伝わって理解もしていることに、ミッツは気付いていない。


「『神送り』は赤ちゃん捨てに来た、ゆうことか?」

「ちゃうな。間違え(まちごう)て魔力を神さんのとこに忘れてきてしもたから、神さんに返す言うてた」

「でも赤ちゃんはここに生きとる、自分らの手ぇで返すわけでもなし、別に人でなしの行動やあれへん」

「親も周りも好きでこないなことしてる感じやあれへんし」

「それに、魔力があらへんとここでは生きられへんもん…」


「そやかて、なぁ」


静かに考えをまとめたミッツはサイたちの所へ戻り、口数も少なく下山を始めた。

ミッツは赤ん坊を一度振り返ると、苦々しく顔をしかめながらサイたちの後を追った。




「バンバド!さっき旦那帰ってきたぞ!怪我してっけど無事だ!」

「奥さんも目ぇ覚ました!行ってやれ!」


カガモ村へ戻った一行がそう聞かされ、赤ん坊を引き取りに行った家へ向かうと、家から女の泣き声と嗚咽が聞こえていた。


「ごめん!ごめんねあんた!あの子、私が魔力与えてやれなかった!」

「いい、いいんだ!お前を誰も責めたりせん!与えられるもんでもない!もうすぐ生みそうなお前に精をつけさせてやろうと狩りに出たわしが悪かった!薄情な父親だと空神アーパウラ様に怒られちまったんだ!」

「あんたに顔だけでも見せてやりたかったのに!ううっ!」

「もう一度、もう一度頑張ろうな、今度はわしも傍におるから!」


家にバンバドと一緒に入ると、泣いていた女性と顔半分に真新しい布を巻き付けた男性がこちらを向いた。


「バンバド!すまねえ、わしがおらんかったから冒険者呼んでくれたんだな!」

「構わない、お前さんも生きてて良かった。赤ん坊のことは…残念だったが仕方ない」

「そうだな…また頑張るさ」

「おう」


「冒険者、代行ありがとうな。カガモ村の祀り神である空神アーパウラ様に誓ってこの恩は忘れねぇ」

「私もアーパウラ様に誓って忘れません…」

「星に誓って受け入れよう」


最上級の感謝のやりとりだがミッツはよく分からなかったので、サイの後ろで静かに待っている。


「依頼費は後日必ず届ける、すまないが少し待って貰えると助かる…」

「村もこんな状態ですし…」

「あ?知らないのか?」


不思議そうに言うサイを全員見つめた。


「『神送り』の代行依頼は基本的に全額無料だぞ」

「え?」

「そうなん?」

「ああ、生むのは命がけなんだから、誰も好き好んで赤ん坊を神々の元へ送るわけではないだろ。冒険者に依頼する場合は特に依頼者へ金銭は要求されない。道中かかった交通費や整備費は国が負担するんだ。代行しない場合は特に何もないけどな」

「そ、そうなのか」

「だが仮にも神々に関わることだから、割と上位のパーティでしかクエスト受注が出来ない。だから特殊クエスト扱いなんだよ」

「へえ…」


カガモ村の復興を願って少しばかりの金銭をバンバドに持たせ、サイたちは村を後にした。

帰り道、ミッツの希望でミチェリアまで徒歩の帰還となった。しばらく八脚大馬(スレイプニル)には乗りたくない。


「ミッツ、『神送り』の代行なんて年に3回ぐらいしか起きないんだが念のため伝えとくな」

「…うん」

「赤ん坊に魔力がないと分かったら、出来るだけ『自然の豊かな場所』に儀式をしに来るんだ。今回は山奥で定位置があったけど、川でも海でも構わない。自然であれば良い。何故か分かるか?」

「…分からん…」

「相当落ち込んでるなこれ…。自然は神々の領域とされているからだ。神々に返すのなら神々の領域に、そういうわけで『神送り』は自然のある場所で行われる。自然が多いということは、動物や魔物もいる。だから複数人で儀式に向かうことになるんだ」

「…へー」

「せめて神々に近しい場所から返すという心から出来た風習なんだ」


気まずい空気のまま、二人はミチェリアへ着いた。

その足で冒険者ギルドへクエスト達成の報告に行く。


「あ!サイさんミッツさん、お帰りなさい!『神送り』どうでした?」

「ただいま。滞りなく終わったぞ」

「あれ、ミッツさん元気ないですね」

「あー、うん」


「ナビリスちゃん。確か冒険者にあったよな、なんかNG案件あったら指定しとけば断れるみたいな」

「え?あー、冒険者拒否指定制度のことですか?」

「それそれ。俺な、それ利用したい」

「はあ、何か苦手なことありました?一応説明しますね」


冒険者拒否指定制度とは、文字通り冒険者が何らかの理由で出来ない依頼を指定する制度のことだ。

例えば、ぬめぬめした生き物が大嫌いな冒険者であれば『ぬめりのある生物への接触に関わる全ての依頼』を拒否することが出来る。

基本的に冒険者は何でもやるので、この制度を利用する者は実はそんなにいない。


「というわけです。後で変更は出来ますよ。ではこの水晶に向かって、名前と拒否したいことを言って下さい」

「じゃあ…、冒険者ミッツは『神送り』に関する依頼を全て拒否する」


カウンター下から出された黄色の水晶は一回強く光って、元の状態へ戻った。


「ええ?いいんですか?国からの覚えもよくなるのに!」

「ミッツ、やっぱりこの風習は受け入れられないか?」

「うーん…、やっぱなぁ。どうしても捨てとるって思ってまう。けどここにはここの文化があるのは分かる。ローマに入ってはローマに従えって言うし」

「ろーま」

「地球にあった地名な。別に受け入れんでも生きてはいけるやろうし、拒否出来るんやったらそうするわ」

「そうですか…、はい。登録出来ましたので、もしミッツさんに指名が入っても正式にお断り出来ますので!」

「おおきに」


その後、目新しい依頼がないと分かってからライラックへ戻ったミッツにサイはやんわりと聞いた。


「ミッツ、答えられる範囲でいいんだがお前が『神送り』を嫌がるのは、チキュウの考えなのか?それとも…個人的なものか?」

「ん?んーー…、まあサイならええか。これからもパーティ組んで貰うんやったらそれぐらい話しても」


「もちろん地球、というか故郷の倫理観がそうってのもあるけどな。俺の個人的な考えが大きいかなぁ」

「ほう」

「ちょっと長なるけど、聞く?」

「ああ、頼んだ」


次回、ミッツの過去話

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