第7話 ある平凡な冒険者の一生
どうもゆにです。
魂の6話に続いて、6話の倒れていた男視点で書いてみました。
読者の皆さんが楽しんでくれたら、幸いです。
~サファイアの街~
オレの名前はリュート、20歳の冒険者だ。このジュエル王国の片田舎で生まれ、15歳の時にこのサファイアの街に冒険者になる為やってきた。
両親には、冒険者なんて危険な職業付くんじゃないとか言われて猛反対されたけど、それを強引に押し切って今に至る。
冒険者というのは、ギルドに登録してなれる職業というか、何でも屋みたいなもんだ。ガキの頃から憧れていた冒険者ってヤツは、モンスター狩って、大量の金を稼いで、悠々自適の生活ができる男のロマンが詰まった、そんな職業だと勝手に思い描いていたよ。
実際は、そんなヤツは一握りの存在であるわけで...。
みんな最初は薬草採取だったり、街のどぶ攫いみたいなことしかできない。命の危険があるから、戦闘訓練とかスキルや魔法の習得だったり、その辺りをある程度しないと上の冒険者ランクになることすらできない。
昔は、新人だろうが何だろうが、危険な戦地やダンジョンに行かされていたみたいだが、最近の国の方針で命を大事にしよう~みたいな感じらしい。
勿論、冒険者ランクが上がれば、それだけ難易度の高いクエストだって受けることができる。
冒険者ランクは、Fランクからスタートする。基本的には、定期的に行われる昇級試験に合格すると、冒険者ランクが上がる。例外もあるらしいが...。
しかし、オレも冒険者となって、早5年...未だに冒険者ランクはDランクだ。
才能のある奴は、1年でCランクとか行けたりするんだが、如何せんオレにはそこまでの才能はなかったらしい。色々しんどい思いもしてきたが、その結果はDランク冒険者どまりだ。
オレも最初は例に漏れず、薬草採取だとか、街の清掃活動みたいなことしかしていなかったが、冒険者ランクがEランクになってからは、徐々に街の外のモンスターを狩るって仕事も受けるようになっていた。
最近のオレの仕事はスライムだとか、ゴブリンだとか、ウルフだとかそんな下級モンスターの討伐クエストが主だ。
小さいながらもパーティも組んでいる。オレは前衛で剣を振るっている。昔から剣を使って、モンスターとか狩りたかったんだよね。そういう意味では夢が叶ったとも言える。
この街に来てから5年が経ち、オレにも心に決めた相手ができた。来年の春には結婚式を挙げる予定だ。そして、彼女のお腹には新しい命が...
これからも、もっともっと稼がないと家族3人で暮らすには心もとない。だから今はバリバリ稼いで、この街に家族3人で暮らす為の家を建てる。それが今のオレの目標だ。
そんな計画を立てていた矢先のことだった。
ある日、突然この街に変な機械仕掛けの兵器が襲ってきた。
それも一つや二つではない。
ざっと見た感じ、10を超えていた。
その兵器たちは、容赦なく街の家々を壊していった。
アレが、噂の帝国軍だってのは、街の皆もすぐに勘づいていた。
そして、街の中心までやってくると、その兵器から複数の男たちが飛び降りてきた。
その内の一人は、右手が剣と一体化している見るからにヤバそうな男だ。周りの軍服たちを見るにあの男がこの集団のリーダーなのだろう。
部下たちからは、ボルボロス少尉などと呼ばれていた。
ボルボロスは、街中の冒険者たちに向けて、闘いを誘っていた。いや、もし闘いに応じなければ、もっと街中を滅茶苦茶にするとか言い出したんだ。
そりゃ、オレ達は闘うしかなくなるじゃないか...。
アイツはイカれた野郎だぜ...。
次々と、街の冒険者たちが奴に挑んだ。
しかし、アイツは大口を叩くだけあって、本当に強い。街の腕自慢の冒険者たちが次々とやられていく。何人も何人も奴に殺された。
勿論、オレも挑んださ。
でも、全く歯が立たず、腹を斬られ、その場に倒れてしまった。
このままでは、本当にこの街は帝国軍に支配されてしまう...そんな時だった。みすぼらしいローブを羽織った二人組がやって来た。一人は、冴えない感じの男でもう一人は、子供?少女?顔はフードで隠れてよく見えないが、成人男性でないことは確かだ。
男は、キレてるボルボロスの攻撃を避ける素振りすら見せず、まともに喰らった。いや、剣を肩からまともに喰らっているのに、何故か倒れることなく、その場に立ったまま...。
明らかに異質...。
男の肩から大量の血飛沫が宙に舞っているのに、男の表情には一切の曇りが無い。
満面の笑み―――何か自分にとってラッキーなことが在ったかのようなそんな雰囲気すら感じる。
オレはその表情を見た時、ゾッとしたよ。
アレは本当に人間なのかと、男が何やら呪文のようなモノをボソッと唱えると、それまで荒々しく動いていたボルボロスがピタッと動きを止めたのだ。
ボルボロスの全身が痙攣している。そして、よく見ると、足元からスライムみたいにドロドロと溶けていたのだ。
その数秒後、ボルボロスの悲鳴の共にヤツの身体は消えてなくなったよ。
オレは、地面に倒れながら、その様子をただ見ていることしかできなかった。
男は、他の軍人たちも同じようにして消し去った。
その一部始終を見ていたオレは安堵してしまった。この街から帝国軍の脅威がなくなったんだと。
男に感謝すらした。本当は今すぐにでも駆け寄って、感謝の言葉を伝えたい。しかし、ボルボロスに腹を斬られた為、今は動けない。
だから、オレの側にいたオレの彼女にその役目を頼んだんだ。
彼女は喜んで、男の元へと感謝の言葉を伝えてくれていた。彼女だけではない街中の者が彼を英雄のように持て囃していた。
そんな男と彼女達のやり取りを見ていて、オレは自分の中で大きな過ちに気付いた。
それはボルボロスを殺した男の表情だ。
あの男は、さっきと同じ笑みを浮かべているのだ。ボルボロスを殺すときと同じ笑みだ。
オレ以外に気付いてる者はいない。
まずい...このままでは彼女が危ない。しかし、オレは声を出すよりも先に男の不気味な笑い声が街中に響く。
"さぁ今こそ救いの時間だッ!!アーハハハハッ!!!"
ボルボロスの時と同じだ。オレの...いや、オレ達の身体はドロドロに溶け始めている。
止めろよ...!!彼女の命だけは助けてくれッ!!!
彼女のお腹にはオレの、オレ達の赤ちゃんの命もいるんだぞッ!!
オレは必死に声を出そうとした。しかし、既に喉も溶け始めて声も出ない。
「アッ...ア"ア"ッ...」
こんな一生で終わるなんてイヤだ...!!
頼むッ!!オレの、オレ達の未来を奪わないでくれェェーーー!!!
必死に願った。しかし、そんな思いなど一ミリも男には届くことない。いや、仮に届いていたとしてもオレ達の"死"は既に決定しているのだろうな。
オレはアイツを...あの男を決して許さない!!
その顔、その名前をオレは決して忘れないぞ!!
"ミナスッ!!"
そう思ったのが、リュートの最期だった。
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