第60話 星の巡る地⑫
~星霊都市アーカルム~
純粋な"死"への欲求をその身体から溢れさせるミナス。
異常者―――
ここにいる帝国の兵士達は皆がそのように感じた。
レイン将軍を除いて―――
相手に呑まれてしまえば、一気に戦況はひっくり返る。
強い者が勝つ?
そうじゃない。
勝った者が強い―――
そして、勝者が自らの正義を正当化し、頂点に君臨することが許される。
それが勝者の特権。
つまり、敗者の言葉は届くことがない。
己の地位を守る為には勝ち続けることでしか成し得ない。
カチっ・・・。
その手に握り締める黒剣を目の前に軽く掲げ、しっかりとミナスを見定める。
レインが動いた。
帝国兵は息を飲む―――
人の常識を超えた者同士の戦い。
それを静かに見守るだけしか出来ない。
「・・・・貴方を排除します。」
味わいたい、君の力を―――!!
レインの攻撃をその身で受け止めるミナス。
「絶望剣:絶界一閃!!」
光、音が消えた。
肉体と精神、その両方に無慈悲な絶望を与え、切り裂くレインの必殺の剣技。
その刃でミナスの身体を一刀両断する。
「・・・・う~~ん、これも全然ダメだね♪」
「ッ―――!!」
レインは帝国最強の将軍であり、この人類史上でも最強クラスの戦士。
この世界でレインに勝てる者を探す方が難しいだろう。
しかし、魔女の呪いは根深かった。
そんなレインでもミナスの生命には届かない。
「絶命―――」
ミナスは切り裂かれた身体の半身を使って、魔法を発動する。
レインは先ほどと同じように剣でその魔法を切り裂こうとする。
しかし、その魔法は斬れなかった。
「堕落が防げなかった時点で気付いたよ―――」
「君が斬ることが出来るのは能力値ダウンだけ・・・ボクは能力値ダウンだけじゃない―――」
「あらゆる状態異常も使うことが出来る・・・・勿論、即死系の魔法もね♪」
「・・・・え?」
レインはその時、初めて自分の死を悟る。
今この瞬間、自分の生命が消え去るのだと認識する。
大きく眼を見開き、その手に持っていた剣が手を離れる。
ナイア・・・私のナイア・・・が・・・!!
レインは昔の自分を思い出す。
初めて帝国の軍人になりたいと云った時の事を。
◆◆◆
~レインの過去~
彼女は天涯孤独の身で帝国の貧民街でその日暮らしの生活を送っていた。
貧富の差が広がるこの国でその日食べる物も、住むところも困るようなそんな環境。
飢えて苦しみ、病で倒れる者も少なくない貧民街。
「少佐ァ・・・こんな所、来るのやめましょうぜ!!」
「最近はなぁ・・・実験材料集めるのだって金が掛かって大変なんだ―――」
「だが、この貧民街なら少ない資金でその材料が手に入る!」
「ここに暮らすやつだって、それを望む・・・目の前で少し金を見せつければ、喜んで付いて来る!!」
「Win-Winじゃねェーか。」
貧民街に現れたのはヴィクター。
彼らは帝国にとって、利益をもたらす人造兵士を創ろうとしていた。
ここに来たのはその人体実験の対象となる子どもを見つけに来ていた。
特に面倒ごとにならない親のいない戦争孤児が狙い目だと考えている。
「何かいい人材いますかね~~?」
「黙って、探せ!」
「子どもならあちこちいますが、何かパッとしないっていうか―――」
ヴィクターともう一人が使えそうな子どもを探す。
そんな折、二人の元に来たのが黒髪の少女―――
ボサボサの髪に薄汚れた衣服。
何週間も身体を洗っていないであろう匂いもヒドイ。
そんな少女がヴィクターのズボンに手を掛ける。
「おまっ!少佐にキタネェー手で触んなっ!!」
もう一人の軍人が怒鳴る。
「貴様、何の用だ?」
ギロッとした目でヴィクターが睨みつける。
この時、ヴィクターは回答次第では少女を殺そうとも考えていた。
「おじさん達・・・私を連れて行って―――」
「ア"ァ"―――!?」
ボサボサの髪の毛の間から少女の眼が視えた。
ギョロとした眼でこちらを見ている。
品定めされているかのようだ。
「何故、俺に声を掛けた?」
「おじさんは他の人と匂いが違う―――」
「匂い・・・?」
「何を言ってんだ、このガキは・・・!!」
匂い・・・薬品か?それとも血の匂いか?
こんな学もねェだろうガキがそんなことに気付くのか。
クククっ・・・おもしれエェー。
コイツはいい拾い物をしたかもしれねェーぞ。
「いいだろう―――、お前に決めた!!」
「付いてこい。」
少女はコクリと頷く。
「名前、何て言うんだ?」
「・・・・レイン・・。」
「そうか、これからよろしくな―――、レイン!」
「お前を帝国の精鋭にしてやる!!」
「い、いいんですか?」
「お前は感じねェーのか!」
「このガキ、かなりできるぞ―――」
「ま、まぁ、少佐がそう云うなら・・・。」
こうして、レインは帝国の改造手術を受け、人造の魔導戦士となる道を歩む。
◆◆◆
そうだ―――
私は帝国の将軍レインだ!!
まだあの人に恩を返していない!!
ヴィクター博士に!!
こんな所で死ねないんだ―――!!
レインは必死に意識を保とうとする。
しかし、死は彼女を包み込む。
痛みはない―――、でもスゥーっと意識がなくなる。
そんな感覚だ。
だが、その時、不思議なことが起こった。
死に行く彼女に声が聴こえた。
"貴方にお願いがあります。"
レインには確かにその声が聴こえていた。




