第57話 星の巡る地⑨
~星霊都市アーカルム~
何ということだ―――!?
我が帝国の精鋭たちがただ一人の魔導士などにここまでやられるなど。
悪い夢か―――?
齢50を超える歴戦の帝国兵がそのミナスという男の所業を見て、恐怖を感じていた。
こちらの攻撃の一切が通用しておらず、ただ一方的にやられる。
数では圧倒的に勝っているとは言え、これでは時間の問題だ。
我々がこの悪魔に全滅させられる―――
「急いでレイン様を呼べエエェーーーー!!!」
思わず、そんな大声を上げてしまう。
その言葉を受け、若い兵士たちが一斉に動き出し、レインの元へと走る。
その心には悔しさしかない。
おおよそ戦術もクソもない、こんな正面からただやられるだけという事態など想定していない。
「やっと呼ぶ気になった?」
「でももう遅いかもよ~~~?」
「君達は全員安らかに殺してあげるから―――」
「ほざけエエェーーー!!」
「解放軍の山猿風情がアアアァーーーーっ!!」
そのベテラン兵士は白銀の剣を抜き、ミナスへ斬り掛かる。
ズバっ―――!!
勢いよく切れはする―――
しかし、全く手ごたえはない。
人を斬ったというよりもまるで水を斬っているようだ。
「う~~~ん、0点♪」
ミナスは右手を翳し、フッと笑みを浮かべる。
「ぐええええええエエェェーーーっ!!!」
また一つ命の灯火が消えた。
「あ~~あ、もういいや―――、君達・・・。ダメ、ダメ・・・全然ダメ・・・。期待外れもいいところ。」
「君達の中からボクを殺せるヤツがいるかもとかほんのちょびっとでも期待したボクがバカだった―――」
「な、なんだとォォ~~~~!!」
帝国兵が激昂する。
「ん?否定するってこと?じゃあ、そこのキミ―――、いいよ。掛かって来なよ?」
「君の攻撃を受けてやるから―――」
ミナスは激高した兵士の方を向いてそう云った。
その眼は一切笑っていない。
本当に絶望している眼だ。
深淵より深く暗く黒いその瞳に気圧される。
誰も反撃など出来ない。
これだけの数―――万の兵士がいると云うのにだ。
ただ一人の魔術師を殺すこともできない。
「なんだ、所詮キミも口だけか―――」
「ボクはねぇ、口だけのヤツが本当に嫌いなんだ―――」
「自分がどれだけ凄いか、語るだけ語って、行動しないヤツ、上から目線で命令だけして自分から動かないヤツ、そしてキミみたいな他人を簡単に否定するけど、否定したことに対して責任を持たないヤツ。」
「ぐぅ~、云わせておけば―――」
「だから、まとめて殺すね♪」
「能力値降下!」
ミナスを中心に黒い渦が出来上がる。
触れたモノ全てを黒い液体に変える、弱体化の魔法。
「ウソだろ・・・!?」
「た、たすけ・・・!?」
「いやだ・・・死にたくない!!」
渦はドンドン大きく、広がる。
周りの木々や家々も容易く飲み込み、溶かす。
死体すら残らないそんな術に帝国兵は脱兎のごとく逃げる。
「ククク・・・フハハハハハーーーっ!!!」
「ハハハハハハハハッーーーーー、いいよね~~~君達は簡単に死ねて―――っ!!」
「ボクはねぇ~~・・・ボクは・・・、、死にたくても死ねないんだよォォーーー!!!」
「~~~っだから君達が本当に羨ましいっっ!!」
ミナスは大きく口を開けて、笑う。しかし、その眼はどこか悲しい。
「ば、化け物・・・!?」
「いや、ヤツは悪魔そのものだっ!!」
やられゆく帝国兵が口々にそう云う。
それだけミナスという男が恐怖をバラまいたのだった。
ミナスはただ鬱憤を晴らすように弱体化の魔法を発動する。
自分が死ねないことに対するフラストレーションを発散するようにだ。
ひとしきり、帝国兵を亡き者にすると魔法を解除した。
どれくらい殺ったのか確認する為だ。
この時、ミナスが殺した帝国兵の数は約1万人。
既にこの都市全体の帝国兵の1/3を殺害していた。
突如やって来た災厄 ミナス―――、後に帝国兵からそう畏れられることになる。
「そんなに殺してほしいなら私が殺してあげましょうか?」
しかし、そんな彼の前に今、現れるは―――
「遅かったね―――、君達の数はだいぶ減ったみたいだけど、大丈夫そ?」
「先ほども申した通り、ただの兵士の代わりなどいくらでもいます。」
トンっ―――
上空よりゆっくりと着地する。
「やはり、貴方でしたか―――」
黒剣将軍レイン。
「レイン様ーーー!!」
「閣下―――!!」
「レイン様ーーー!!」
「レイン様が来れば、もう怖い者はない!!」
「ヤツがこの惨状の元凶です。」
周りの帝国兵がざわめく。
黒剣将軍レインはそれだけ彼らの心を掴んでいる。
その圧倒的な強さによって。
「会いたかったよ―――」
ミナスはそう云った。
「私は別に会いたくはありませんでした。」
レインはミナスにそう返した。




