第53話 星の巡る地⑤
~星霊都市アーカルム近郊 モノス平原~
戦場に絶望の雨が降り注ぐ。
そこに立っているのはミナスとレインのみ。
「うっ・・・うぅ・・・・・・。」
苦しそうな声を上げるシータ。
シータもまたこの雨にやられてしまった。
「・・・・・貴方は他の方とは違うみたいですね。」
「敵も味方も関係ないとはヒドイ人だね―――」
解放軍だけでなく、逃げ遅れた帝国兵までもこの黒い雨の餌食となり倒れている。
「兵士の替えなんていくらでもいます。」
「必要なのは『勝つ』ということ―――」
レインは冷静にそう答える。
「フ~ン、勝つ・・・ね。ボクはまだ倒れていない、この状況でも勝ったって言えるのかな?」
「この戦いの勝利とは貴方達から都市を奪還させない事。」
「貴方達は兵士の大半を失った―――、もはや再起不能なレベルまでに。」
「これで貴方達は都市を取り返すことは出来なくなった。」
「だから、帝国の勝利です。」
「なるほど―――」
「じゃあ、ここから都市を取り返す可能性があれば、まだ君達の勝ちではないってことだね。」
ミナスは目を光らせ、レインに笑みをこぼす。
まるで挑発するかのように。
そう口にした。
「・・・・貴方にそんなことができるんですか?」
「うん、勿論―――」
「そうですか―――」
「であれば、このままにしておくわけにはいけませんね。」
絶望の雨が降る中、平然としているミナスを見て、只者ではないと確信している。
そんな彼が自分一人でも都市の奪還は可能だと言ってる。
これを見過ごす程、レインは消極的ではない。
「うぅ・・・ミナス・・・様―――」
シータにはまだ少し意識がある。
今から治療すれば、回復するかもしれない。
この子は何故かいつもボクの世話を良くしてくれる。
そんな子がいなくなるのは不便だ―――
昔、次元の狭間で拾った回復アイテムがいくつかあったな。
それを使おう。
ミナスは収納のスキルから回復アイテムを取り出し、シータに振りまいた。
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不死鳥の涙
神話級のアイテム。
不死鳥が「死」ではなく「別れ」を嘆いたときにのみ零れる涙。
燃え尽きる時の涙ではないため、極めて希少。
効果:対象者の生命力を最大限まで引き上げ、体力・魔力共に全快させる。一日までなら死亡からの完全蘇生も可能。(ただし、一人につき、一生に一度のみ)
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「・・・・不思議なアイテムを使うのですね―――」
「昔、拾った物さ―――」
「そうですか・・・。」
そう云ったレインはミナスに斬り掛かる。
既に騎馬から降り、その足で間合いを詰めるが、常人を遥かに超えるスピードを持つ。
斬ッ―――!!!!
斬った直後、すぐに気付いた。その違和感に。
まるで水を斬ったかのように手ごたえがない。
「能力値降下!」
不気味な笑みを浮かべるミナスの魔法。
これを受けてはマズいとレインの直感が教えてくれた。
咄嗟に後ろへ引くレイン。
ミナスの能力値降下はミナスの直線状に存在していた者/物全てをドロドロに溶かした。
「私の絶望に似た何かを感じます―――」
「貴方もこの世界に絶望した人―――、そうなのですね?」
「ちょっと違うよ―――」
「絶望も希望も元々のボクにはあった・・・と思う。」
「でも何も感じなくなった・・・ついこの間まで。」
「やっと、少し希望を見つけたんだ―――、この世界も捨てたものじゃないかもしれないってね。」
ミナスはリアを思い浮かべる。
死ねない身体の自分を殺せる彼女が今、唯一の希望。
そうだ―――
リアが待っている。
この戦いに勝利することを期待して、待っている。
「・・・・ボクにも負けられない理由があったよ。」
両者は見つめ合う。
希望―――
そんなものがあるのか?
きっと、目の前にいる彼は数多の絶望を味わってきた人。
私の絶望の雨は多くの絶望を味わってきた者には効果が薄い。
この雨の中、平然と立っている彼は少なくとも私と同等以上の絶望を味わってきたことになる。
レインはかつての自分を思い返す。
いつも脳裏に浮かぶのは街中で空腹で倒れている自分。
皆が見て見ぬフリをする日常。
そんな時、同じくらいの身なりのいい子どもが倒れている私の元へやってきて、こう云ったんだ。
「ねぇ、お母さん、この子何で倒れてるの?」
私を指差して、そう云った。
その手には齧り欠けの菓子パンが握られていた。
その子の両親がその子の元へやって来てこう云った。
「コラ!こんな汚らしい子に関わっちゃダメです!!」
「こっちに行きましょう―――」
「・・・・・・。」
なんて、世界は残酷なんだ。
神様は不平等なんだ。
私のような"持たざる者"が空腹で苦しむ一方で、あのような無垢な子は空腹の地獄も知らない。
私とあの子で一体何が違う?
生まれた家が違うだけではないのか?
それなのに私だけがこんな絶望を味わうなんて―――
あっていいハズがない。
レインはその当時のことを思い出していた。




