第5話 またこうしてミナスは人を救う
どうもゆにです。
この物語は、会社のトイレでふと死にたいと思った瞬間に閃いた作品です。
読者の皆さんが面白いと思ってくれたら嬉しいです。
~サファイアの街 周辺~
「ねぇミナス!早くしなさいッ!!」
リアは足早に前を進み、ミナスに早く来いと呼びかける。ミナスはゼェゼェと息を切らしながら、何とかリアに付いて行った。
「アンタ...ホントに体力ないんだね!!」
「私、大して早く歩いてるつもりないんだけど...!!」
呆れた様子でミナスに話しかける。
「ハァハァ...ボクの体力値は途方もなくマイナスだからね...!」
「できればもっとゆっくり歩いてくれると助かる...!」
「こんなので、帝国に復讐なんてできるのかしら...!」
とは、言っても現状リアに頼る当てなどミナス以外にないわけで、溜息をつきながら、ミナスの歩調に合わせてあげることにした。
今すぐに死んでもおかしくない能力値をしているLv.-9999のダウナー:ミナス―――この男の力は未だに未知数。本当に見たこともないような兵器やスキルを使用する帝国軍と渡り合えるのか正直な所、不安しかなかった。
二人はこの数日間、街道に沿って歩いた。リアはこの先にある街を知っている。だから、この道を選んでいるのだ。
この数日間で、ミナスのリアによって付けられた傷は、すっかり治っていた。どうやら、リアによって、付けられた傷は、呪いを掛けられる前と同様に、ミナスにダメージが残るようだ。痛覚遮断のスキルを持つミナスにとって、何千年振りかの痛み―――それをミナスはじっくりと味わっていた。
「もうすぐで、サファイアの街に着くわ!!」
「サファイアの街?」
ミナスは数万年ぶりにこの世界に戻った。当然サファイアの街などという名前の街など知る由もない。
「ええ...ジュエル王国の領土内にある街で、結構大きな活気のある街―――あそこなら、冒険者たちの力を借りることだってできるハズ...!」
「強い冒険者をスカウトできれば、帝国に対抗する為の力となるかもしれないしね!!」
しかし、そんなリアの希望などすぐに打ち砕かれてしまうのだった。
サファイアの街の周辺まで来ると、リアはすぐにヤバいことを悟る。王都で見た、あの魔導兵器たちが何体もいるのだ。
動いてはいないが、アレがあるってことは、確実に帝国の軍人たちがいるということ。まさか、観光目的であの街にいるなんて考えられない。
帝国兵たちがいるってことは、侵略しに来ているということに他ならない。
リアは奥歯を強く噛みしめ、怒りで震えていた。
「リア...アレはなんだい?あの街特有の乗り物か何かかい?」
呑気な声でミナスはリアに尋ねた。
「ミナス...行くわよ!!」
「おっ、オイちょっと!待ってくれよ!!」
リアはミナスの腕を引っ張り、サファイアの街へと急いだ。まだ、街の中に火の手はあがっていない。王都の時とは違い、まだ助けられるかもしれない。リアはそれを願いながら、サファイアの街へと向かって行った。
~サファイアの街~
「オイオイオイ!!!」
「この街には俺より強い奴はいねぇのかよォ!!」
サファイアの街に一人、暴れている男がいた。男は黒い肌をして、黒い稲妻のタトゥーを顔に入れている軍人だ。その周りには彼の部下と思われる者達が数十人取り囲んでおり、街の冒険者たちを逃がさないように配置されていた。
暴れている男は、右腕がメタリックな剣と同化しており、次々と街の冒険者たちを虐殺していた。
「"スリル"だ!!」
「俺は強い奴と闘う時のあのヒリヒリした"スリル"...!アレを感じている時だけが"生"を感じるんだよッ!!」
「テメェらは見渡せば雑魚雑魚雑魚雑魚雑魚雑魚雑魚雑魚雑魚雑魚!!!」
「雑魚ばっかじゃねーか!!少しは骨のある奴はいねェのか!!」
男は右手の剣をブンブンと振り回し暴れていた。
「ボルボロス少尉!!大変でございますッ!!」
部下の一人が暴れているボルボロスに近寄る。
「何だよ!!人がせっかくスリルを求めてる最中によォ!!」
「ハァハァ...街に一組の男女がやってきたんですが...!!」
ボルボロスの部下は息を切らしながら、走ってきたようだ。
「あぁ?街に一組の男女だァ?何だよそりゃ!?」
「わざわざそんな下らねェ報告してんじゃねェ!!」
ボルボロスはイラつきを隠せない様子で部下に怒鳴った。
「いっ、いえ...それだけではなく...ソイツらが我々の乗ってきた魔導騎兵を全て破壊してきたんですッ!!」
ボルボロスは部下の血の気が引いた様子からすぐにウソではないと直感した。
「オイ...その命知らずは今どこにいるんだ...?」
静かなトーンでボルボロスは尋ねた。
「ハッ...ハイ!今、帝国兵が複数で取り囲んでいますッ!!」
「よーし!ソイツのところへ案内しなッ!!」
ボルボロスがそう命令すると、同時に街の門の方から、二人の男女がやってきた。
「いや~その必要はないよ~!!」
「君がこの帝国兵たちの親玉かな??」
ボルボロスの前へとやってきたのは、ミナスとリアだった。
「テメェか!?魔導騎兵を全て破壊したってのは!?」
ボルボロスは右手の剣をミナスへと向ける。
「えっ、ああ、あの変な乗り物のこと?いや~ビックリしたよ!!」
「昔はあんな物なかったからさ~!!文明の進化っていうの?やっぱり人間は偉大だね~!!」
「まっ、偉大な発明ボクの前では無駄だけどね...!」
ミナスは不敵な笑みを浮かべ、ボルボロスに答えた。
「貴様はどっちだ?」
「強いのか弱いのか?」
「この俺に"スリル"を与えてくれんのかよッ!!」
ボルボロスは直感していたこの男の危険性を...。
自然と笑みが浮かぶ。この男は初めて闘うタイプの人間だと...。
「貴様は俺に"生"を実感させてくれよォォォ!!!」
ボルボロスはすぐさまミナスへと斬りかかっていた。
興奮しているボルボロスとは裏腹にミナスの心はすっかり冷え切っていた。
「スリル?生?そんなモノ感じてどうなる...?」
「君は所詮生きたがり...!死にたがりのボクとは相容れない様だね!!」
ボルボロスの剣がミナスの肩からバッサリと切り裂く。
「やったか!?」
ボルボロスは切り裂いたミナスの身体を見る。綺麗に肩から左上半身が切断されたかに見えた...。
しかし、ボルボロスは目を疑った。まるで時間が巻き戻っているかのように切り裂かれたハズのミナスの身体が元へと戻り出しているのだ。
「なん...だと?」
「君程度じゃボクを殺すには百億万年早いよ!」
「能力値降下!」
ミナスが能力低下のスキルを発動させると同時にブクブクとボルボロスの足元はアイスのように溶けていった。
「な...なんだよ...これ!?」
突然の自分の身に起こる異常事態―――帝国の少尉ボルボロスと言えども、動揺が隠せない。
「どうだい?今君は死に向かってるんだよ...」
「"スリル"は感じてるかい?"生"は感じてるかい?」
ミナスの顔は笑っていた。突然、ボルボロスの身体がアイスのように溶けだしたことによって、周りにいたボルボロスの部下たちはその場から動けないでいた。
「ふっ、ふざけるなッ!!」
「感じるわけがないだろッ!!」
「これじゃ...一方的に"死"を待つだけではないかッ!!」
ボルボロスは息を荒げながら、ミナスへと叫ぶ。
「そうだ...!君は"死"に向かう!最高の旅さ!」
「最高の死への旅路だッ!!」
ミナスの顔は満面の笑みで手を振っていた。まるで、家族を...友人を...送り出す瞬間のように...。
「ヤメロ...!ヤメロ...!その笑顔をヤメロ...!!」
「俺はまだ死にたくない!!死にたくナァァイイイイ!!!!」
ボルボロスの叫びは虚しく響くだけだった。その場には骨すら残っていなかった。
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