第35話 化物とは狩られる対象でしかない
~カーネリアン砦~
どこまでも死が付きまとって来る。
「ええい、いい加減、鬱陶しいわ!!」
ヴィクターは周りにいた冒険者の一人の襟を掴み、力任せに投げ飛ばした。
「えっ―――!?」
突然、投げ出されたその男は何が起こったのか理解が出来ない。
男はドロドロになって溶けていく。
ミナスの弱体化魔法が当たってしまったからだ。
「あちゃ~、別の人に当たっちゃったよ―――」
ミナスは悪びれることはしない。
「でも、仕方ないよね―――」
「悪いのはアイツだ。」
「ボクじゃない―――」
「もし当たっていたら、俺がアレに代わってドロドロに溶けていたということだな。」
「コワい、コワい―――」
不敵な笑みを浮かべるヴィクター。
負のエネルギーを一人分に調整しているから、負のオーラで貫通も出来ない。
実にやりにくいね―――
ミナスはそう思っていた。
「次はこちらからいくぞ―――!!」
ヴィクター-ソル-ハルバードは、帝国の貴族の家で生まれた。
幼少期から物に困ることはなかった。
欲しい物があっても親にねだれば、大概の物は自由に手に入ったからだ。
そんな彼が真に強く欲しいと願ったのは"知識"だ。
どれだけねだっても手に入らない。
知識は己の努力と研鑽でのみ手に入れることが出来る。
それが彼は堪らなく嬉しかった。
そして、次に彼が欲したのが"勝利"―――
『ヴィクターとは"勝利"を意味する言葉から取った―――、お前はハルバード家の嫡男として決して敗けることは許されない。』
それが父の言葉だった―――
俺はそれに従って、これまで勝利を収めてきた。
『勝利』とは素晴らしい―――
あの瞬間だけは何物にも代えがたい幸福の時。
全てのモノから存在を認められた気がする。
だからなぁ、ミナス―――、俺は敗けられないのだよ。
俺の直感が云っている―――、貴様は帝国にとって最大の脅威に成り得る。
だから、俺がここでその正体を暴かなきゃならない。
「まぁ、外したものはしょうがない、また使えばいい。」
「能力値降―――」
ミナスが再度、弱体化魔法が詠唱し、放とうとする。
その時、ヴィクターが猛烈なスピードで突っ込んできた。
そのまま、ミナスの顔面を蹴りつける。
「ッ―――!?」
ミナスにダメージこそないが、詠唱が中断される。
「やはり、魔法を使いさえしなければ、貴様はコワくない。」
「あの男、イカレている―――」
「あの人、自分の命が惜しくないの?」
リアとシータも驚きの表情を浮かべる。
即死系の魔法を使える者に何の躊躇いもなく突っ込み、強引に詠唱を中断させるなど思いもしなかったからだ。
それにこの男、純粋な戦闘も決して弱くない―――
「俺は科学部門で長年やってきたがなぁ―――」
「純粋な戦闘が苦手ってわけじゃあねェーンだッッ!!」
「テメェーみてェーなもやし野郎に敗ける訳がねェーンだよォォーー!!!」
ヴィクターの剣による猛攻撃が続く。
しかし、そんなことをしてもミナスには意味がない―――
ミナスに通常の攻撃は意味がない。
それはヴィクターも分かっている。
だから、コレはある種、実験に過ぎない。
この男の魔法は再生中でも使えるのか?
答えはNOだ―――
再生さえさせなければ、こちらはコワくない。
「これで仕上げだァーー!!」
「ギフテッド:灰塵感染!!」
ヴィクターは自らのギフトを解放させる。
コレがヴィクターの能力『灰塵感染』。
彼は好きなだけ自分の意のままに動くナノマシンを創り出し、自由自在に操作することができる。
周りの冒険者たちを肉片にしたり、ミナスの全身を壊したのもこのナノマシンの力―――
身体に無数のナノマシンを送り込み、内部から破壊した。
そして、今―――
彼はその力を全開に解放し、ミナスを分子レベルに分解することにした。
それが灰塵感染。
極めて危険な能力―――、帝国側も彼の扱いには困る程だという。
「塵も残してはいない―――」
「これでもお前は不死を保てるのか?」
「さぁ、どうだ―――??」
ヴィクターはそう口にする。
これでミナスが死ねばそれまで―――
しかし、ミナスはこれじゃあ死ねない。
「どうして、君はボクを殺してくれないんだ??」
ゾクッ―――!!
ヴィクターの背筋が凍る。
この俺が怖気づいた?
「ミナスゥーーー!!!」
ヴィクターはミナスの気配を頼りに振り返り、追撃を放とうとする。
しかし、既に遅い―――
「しょうがないからアイテムを吸収したよ。」
「即詠唱が可能になるアイテムを―――」
「空蝉!!」
バタン―――っ!!
彼はその場に倒れてしまう。
ピクリとも動かない。
またこれでボクは一歩、化物に近づいてしまった。
あぁ、これじゃあ、死ねない―――
死ねないのはとっても辛いんだ・・・。
ねぇ?リア・・・君はボクを救ってくれるかい?
ミナスはリアの方を向く。
しかし、リアは何も言わない。
しっかりとミナスの眼を見つめるだけ。
「コレが敵の大将・・・?」
グランが倒れたヴィクターに近づく。
「大変だ!!」
「みんな、これを見てくれ!!」
グランは慌てた表情だ。
リアとシータもその顔を見ると驚く。
「どういうこと・・・?」
死んだと思ったヴィクターは別人の顔になっている。
「まさか、やられる寸前に誰かと入れ替わっていた?」
ミナスの魔法を周りの冒険者に代わりに受けさせ、その間に逃亡したということか―――
「何という男だ―――」
皆はヴィクターという男に敵ながら恐れを抱く。
「これで帝国はミナス殿の存在を知ってしまった。」
「みんな、それを考えるのは後にしよ―――」
「まだ私達は敵に囲まれているんだから!!」
リアは帝国兵達を指差す。
ヴィクターが逃げても帝国の脅威は去ってない。
「ミナス―――、アイツ等をどうにかして。」
「おっけ~~。」
ミナスは周囲の帝国兵を一人残らず、殲滅する。
その圧倒的なマイナスの力で―――
リア、ボクね、少し考えたんだ。
君以外にも帝国の、いやこの世界のギフト保有者でボクを殺せる人間がいるんじゃないかって。
もしそんな奴がいたら、ボクは君を裏切って、君達を全員救済しよう。
仕方ないよね―――
だって、君は中々ボクを殺してくれないんだもん。
うん、コレは仕方ない。
ボクは悪くない。
~カーネリアン砦付近~
「いや~~、危なかった―――」
「あー、ありゃダメだな。」
「全員やられている。」
「しかし、あのミナスとかいうヤツ本当に恐ろしいな。」
「片腕がやられてしまった―――」
「こんな屈辱初めてだッ!!」
「次は絶対にヤツを俺の研究材料に加えてやるッ!!」
ヴィクターはミナスへの恨みを胸に抱いて、帝都へと戻る。




