第34話 弱者が強者に勝てる道理はない
~カーネリアン砦~
ミナスとヴィクター、二人は向かい合い、静寂が続く。
二人の会話が終わって、数十秒は経っただろう。
二人とも動かない―――
リアはそんな二人の行く末を見守る。
ミナスは自分からは動かない。
自分に敵意を持っていてくれている相手がいれば、先ずはそれが自分を殺し得るか確認する。
だから、動かない―――、先制攻撃は受けたいと思っていたからだ。
対するヴィクター、ミナスをよーく、観察する。
少しの動作でも見て、より多くの情報を得る。
それが自分の行っている研究にも繋がると考えているからだ。
両者は両者なりの理由で動かない。
周りの帝国軍も冒険者たちもその様子を見守るだけ。
手は出さない―――
「ふむ、そろそろか―――」
ヴィクターが右をゆっくりと上げる。
自分の目線の辺りまで水平に持ってきて、何かしらのアクションをしようとする。
「弾けろッ!!」
その言葉を言い放った瞬間、ミナスの腕が弾け飛んだ。
さっきと同じだ。
まるで魔法―――
いや、魔法でもこんな不自然な現象は発生しない。
ただ、言葉を放つだけで、周りに干渉できない。
「ミナスっ!?」
リアがミナスへ声を掛ける。
「腕が取れちゃった―――」
「ねぇ、それだけなの?」
ミナスはヴィクターにそう聞いた。
全く、痛がる素振りも恐怖の顔を見せない。
「フッ、変わった男だ―――」
「そんなに壊されたいならお望み通り壊してやろう。」
そう云って、今度はミナスの両足が弾け飛んだ。
「今度は足が!?」
「ミナス様!!」
グランとシータがミナスに声を掛ける。
二人ともミナスを案じている。
「あ~、こんなもん?」
ミナスは地べたを這いつくばり、呑気な言葉をつぶやいた。
慌てふためいているのは周りの人間だけ―――
当の本人は全く、意に介していないようだ。
「やはり思った通り、不死身の肉体を持っているようだな。」
「初めて出会ったぞ―――」
「そうなの?ボクも君みたいな人は初めて出会ったよ―――」
「奇遇だね―――」
ジュクジュク、ジュクジュク、ジュクジュク・・・。
ミナスの弾け飛んだ腕と足が再生を始める。
「どこまで壊せば貴様は死ぬんだろうな?」
「非常に興味がある―――」
「うん、ボクもそれは興味がある―――」
「やれるならやってみてよ―――」
ミナスは挑発めいたことを云っているが、それは本心からの言葉。
ヴィクターはそんなミナスの要望に応えるべく、次々にミナスの身体を壊し続ける。
それも自分は一歩も動くことなく―――
コレがギフト保有者・・・。
帝国はこんな戦力をあとどれくらい抱えている?
リアは緊張から生唾を飲み込む。
「これで終わりかい?」
グチャグチャの液体になったミナスの声が聴こえる。
既に口、いや声帯も破壊したのに何故か言葉が聴こえる。
さっきとは打って変わって低い声だ。
それがまた不気味さを加速させる。
しかし、ヴィクターも顔色一つ変えない。
ミナスが怪物であることを承知の上でここに降り立ったのだから。
「やっぱり、君じゃあ―――」
「ボクは殺せないようだ―――」
「がっかりだよ。」
ミナスは再び、元の身体に戻る。
「では、どうする?」
「この俺を殺すか?」
「うん―――」
「そうすることに決めたよ。」
今度はミナスの番だ。
「能力値降下!」
ミナスの必殺の魔法が発動する。
ここだ―――
ヴィクターはこの瞬間をある意味で待っていた。
敵を一撃で葬る魔法―――
その理屈をここに来るまでずっと考えていた。
だが、まだ答えにはたどり着けていない。
だからもっと見たいと―――、観察したいと思った。
自らの命を囮にして。
ヴィクターは思いっきり、後ろへ飛び退いた。
射程距離はどれほどか?影響範囲は?連発は可能か?誰にも有効?
知らないことはまだまだたくさんある―――
ミナス、もっとさらけ出せ―――!!
この俺の好奇心を満たしてくれッ!!
「へえ、逃げるんだ―――」
「あれだけの大口を叩いて。」
「コレが人間の戦い方だからな。」
「でも、逃げても無駄さ―――」
「死はどこにいたって君に這いよる。」
ヴィクターはその戦闘センスから自分に迫る危険を感じ取る。
「ミナス!!」
「サファイアの街でのことは忘れたの!力は制御して!!」
「ッ―――!?」
「リア!?」
リアの叱咤にビクッとなる。
そっか―――、周りの人は巻き込めないんだね。
ちょっと、面倒だけど、今のボクならできるよ。
ミナスはヴィクター一人に対象を絞る。
ヴィクターはずっと逃げ続けている。
追尾されている、この死の魔法に・・・。
少しでも動くのを止めれば、足元から食い千切られると認識したから動き続けなければいけない。
「チッ―――」
「厄介なことになった―――」




