第31話 帝国はマイナスという災厄を知る
~カーネリアン砦~
ラナーとインテグラルの両名が死亡したが、帝国兵に囲まれているという状況は変わらない。
「ミナス様―――」
「いかがいたしましょうか?」
シータがミナスに耳打ちをする。
「シータさん・・・貴方は私達の味方・・・って思っていいの?」
リアがシータに尋ねる。
シータは元々、インテグラルの配下。
「あの人は私の手で殺しました。」
「インテグラル・・・あの人は私の仇です。」
「いつかこうしたいと思ってました。」
「リア様―――、安心してください。」
「ミナス様と出会い、私は前に進むことが出来ました。」
「私の命は貴方達の為に使うことを誓います!!」
私とミナス・・・?
何故、ミナスも?
リアは不思議に思ったが、それを言及することはなかった。
「敵の勢力は約1000人ほど・・・」
「人数ではこちらが倍以上いますが、装備が全然違います。」
「彼らの装備は最新のモノばかり―――」
「それに銃や大筒のような銃火器を持っており、中にはギフト保有者もいると思われます。」
「ギフト保有者・・・?」
聞き覚えの無い言葉にリアが尋ねる。
「はい、魔法やスキルの上位互換と思ってくださればよいと思います。」
「魔法やスキルは修練により簡単なものなら誰でも身に付けることができますが、ギフトは違います。」
「ギフトはその名の通り、贈り物・・・天賦の才能を持つ者に神より与えられる特別な能力のことです。」
「その性能は魔法やスキルの比ではありません。」
「でもこっちにはミナスがいるよ!」
「貴方ならそのギフトってのも何とかなるんじゃない?」
リアはミナスの方を向いた。
「ギフト??」
「ん~~~ボクは知らないな~~。」
「まぁ、関係ないよ―――」
「全部、ボクが救済してあげるよ。」
ミナスは口を開け、不敵な笑みを浮かべる。
この男はギフトなど恐れちゃいない。
確かにミナス様ならあるいは・・・?
シータはミナスの脅威を知る数少ない人物の一人。
あの時、彼は私に約束してくれた。
望みを叶えてあげると―――
弱者の味方になれるのは弱者である自分だけだと。
初めてだった―――、そんなことを云われたのは。
シータは嬉しかった。
初めて自分のことを救うと云ってくれる人が現れたことに対して。
どうしようもない地獄の中で生きてきたから。
彼は帝国という・・・いや、この世界の理不尽に立ち向かっている。
彼に付き従えば、私の苦しみは消える・・・そんな気がする。
だからこそ、彼に協力することを誓った。
◆帝国陣営
「王国の解放軍を包囲いたしましたが、この後はいかがなさいましょうか?」
「ヴィクター少佐!!」
敬礼のポーズを取る帝国兵の向かう先に木製の椅子に腰を下ろし、珈琲を一服する白衣の男。
ヴィクター-ソル-ハルバード。
それがこの男の名前。階級は少佐。
白衣を着ているが、その下には軍服を着ている。
彼は軍人でありながら、科学分野にも精通していることから科学部門の長でもある。
「あ~~、まだ総攻撃しかけてなかったの?」
「ハッ!件の王国の姫からまだ指示はきておりませんので―――」
「我々は攻撃を開始しておりません。」
ポリポリ・・・ヴィクターは後ろの首筋をその指で掻きだす。
とてもつまらなさそうだ。
「姫?姫って王国のでしょ―――」
「もういいんじゃない?一緒に殺しちゃえば―――」
「はぁ・・・しかし、それでは上層部から指示されたことを無視することになりますが―――」
「だって、そのお姫様から合図がないんでしょ?」
「じゃあ、王国側に気付かれてやられちゃったんじゃない?」
「それに戦闘に巻き込まれて死んじゃったことにした方が楽じゃない?」
「そのお姫様が生きてようが死んでようが誰も困らないって―――」
「い、いえ・・・しかし、それでは・・・。」
「何?俺の命令が聞けないっての?」
ヴィクターがその一般兵をギョロッと睨む。
「ここを任されたのはこの俺だよ―――」
「分かる?それってつまり、ここで一番偉いのは俺ってことになるの!」
「君はその俺の命令が聞けないって云うの?」
ヴィクターは彼の胸倉を掴み、声を荒げる訳ではないが、確実に凄みのある声で話す。
とても高圧的だ―――
「しょ、承知しました―――」
「全軍に攻撃命令を出します。」
兵士はその命令を各部に伝え回る。
もうじき、王国の解放軍へ総攻撃が始まる。
ヴィクターは残りの珈琲を啜りながら考える。
何故、この俺がこんなつまらない仕事に駆り出されなければならんのだ―――
どこかに面白い、サンプルはいないのか?
ヴィクターは小型の双眼鏡を覗き、高所から解放軍の陣営を眺める。
ちょうど、そこにはラナー王女と思われる人物が写った。
アレは確か、件の王国の姫―――
なんだ・・・まだ生きていたじゃないか。
もたもたしていると貴様の命もマズいぞ―――
ヴィクターは神にでもなったかのような立ち位置からついニヤリと笑みを浮かべてしまう。
しかし、彼のそんなニヤケ面も一瞬で凍ることになる。
次の瞬間、ラナー王女がドロドロとした黒い液体に変わったのだ。
ドサっ―――!!
椅子が倒れる位の勢いで立ち上がった。
「なんだアレは・・・?」
スキル?
それとも魔法?
あんなスキルや魔法は見たこともない―――
その何かを使ったと思われる魔導士がいる。
フードを深々と被っていて、顔は良く見えない。
しかし、ラナー王女を殺ったのはヤツで間違いないだろう。
みすぼらしい格好の魔導士―――
ヴィクターはミナスへ興味を持ってしまった。




