第30話 何かを変える為に必要なのは自らの手を汚す覚悟
~カーネリアン砦~
私は今日、実の姉を殺してしまった―――
「私が姉を・・・殺してしまった―――」
「リア―――」
「殺したのは君じゃない、ボクだ。」
「君の手はまだ汚れちゃいない―――」
違うよ、ミナス、同じなんだよ。
実際に手に掛けたのは貴方かもしれない―――
でも、それを指示したのは紛れもなく私。
だから、同罪なんだよ。
「さぁて、君のお姉さんは死んだし、これからどうする?」
ミナスは何事も無かったかのようにリアに聞いた。
ミナスにとって生物の命を消し去るというのはあまりにも日常的で、それ自体に感傷的になることはない。
「私達は今、帝国軍に囲まれている―――」
「ラナー御姉様の死に気付いて、一斉に攻撃を仕掛けてくるかもしれない。」
「その前に何か手を打たないと―――」
「幸い、ここに集まった人達に掛かった操りの術は姉様が死んだことで解けたみたい。」
リアが冷静にそう云った。
大切な身内が死んでもそのことを気に掛けている暇はない。
今が何よりも大切―――
今、救える命が何よりも優先するべき。
それが分かっているから前を向いて行動に移す。
「皆さん、仲間同士での闘いを止めてください!!」
「既に貴方達を操る術は解除されてますッ!!」
リアが大きな声で叫ぶ。
しかし、2000人にも及ぶ人たち全員の耳には届かない。
「基本戦技:咆哮!!」
「お前ら闘いを止めろオオォォォォーーー!!!」
グランの耳には届いていた。
グランは思いっきり空気を吸い込み、腹いっぱいに声を上げた。
リアの言葉を冒険者たち全員の耳に届けた。
「止まった・・・?」
ミナスはいつも眠たそうにしている眼を見開く。
グラン、とても大きな声だなーー。
ビックリしちゃうよ。
このグランの一声で、状況は大きく変わる。
インテグラルはラナー王女殿下の死で焦っていた。
「クっ・・・。」
「まさか・・・あの魔術師によって、ラナー王女殿下がやられてしまうなんて・・・。」
インテグラルもまた帝国に寝返り、その利益を独占しようとした一人だった。
「インテグラル様、いかがなさいましょうか―――」
「と、とにかく、ここを離れるぞ―――」
「お前達は私に付いてこいッ!!」
インテグラルはここが帝国と解放軍の戦場になることが分かっていた為、巻き込まれないように離れることを決める。
しかし、そんなインテグラルを彼女は逃さなかった。
「ぐああぁぁーーー!!」
撤退しようとしたその時、インテグラルの配下が声を上げる。
「何事だっ!!」
インテグラルが振り向くとそこには血塗れのシータがいた。
「お、お前か・・・!?」
「一体、今の今までどこにいたのだ!?」
「貴方は逃がさない―――」
インテグラルはそのシータの言葉で彼女が既に裏切ったのだと悟る。
「貴様、裏切るのか!?」
「一体、いままで誰のおかげで生きて来れたと思っているんだ!」
「恩着せがましい―――」
「当時、私の父親は自分の地位を脅かす存在だった。」
「貴方はそんな父さんを恐れ、母さん共々事故に見せかけて殺した。」
「そして、一人になった私を引き取り、自分の兵隊として育てた。」
「何も知らなかった私は貴方がとても優しい人に見えた―――」
「でも、それは大きな間違いだった。」
「そんなのはデタラメだ!!」
「どこに証拠があるって言うんだ!!」
「証拠ならある―――」
「ある日、殺しのターゲットだった男がその時の実行犯で、色々証拠が出てきた。」
「貴方のこともしっかり書かれていたわ。」
「ぐぅ・・・。」
「そんなのハッタリだ、でまかせだ、言いがかりだ!」
「私は認めんっ!!認めんぞォ!!」
「私は密かに貴方の命を狙える時を伺った。」
「そこにあの魔導士がやってきた。」
「あの力が味方に回れば、帝国にすら対抗できる。」
「貴方が帝国に寝返ったように私はあの魔導士に寝返ることにしたッ!!」
「こォんのアバズレがァァーーー!!!」
インテグラルは腰に付けていた銃を取り出し、シータに向ける。
シータはその行動を読んでいたように先にクナイを投げ、インテグラルの手に当てた。
「痛あああぁぁーーいい!!」
インテグラルの手にクナイが刺さり、銃を落してしまう。
プルプルと反対の手で出血した方を抑える。
とても痛い。
あまりの痛さに額から汗がダラダラ流れる。
「どう?」
「これで少しは他人の痛みが知れた?」
ゆっくりとシータがインテグラルに近づく。
その眼はあまりにも冷酷で残酷。
インテグラルを許す気などサラサラない。
「わ、悪かった―――」
「許してくれ!!」
「お前の両親を殺したこと謝るからァ!!!」
「もう遅い―――」
「貴方がいくら謝った所で私の両親が帰ってくることはない。」
「貴方にはただ一人の人間だとしても、私にとってはとても大切な人だった。」
「だからここで貴方が私に命を奪われようともそれは仕方のない事。」
「い、いいのか?」
「ラナー王女が死んだ今、私だけだぞ!!」
「あの帝国兵を止めることが出来るのは!?」
「ここで私を殺したとて、お前らだってただじゃすまない。」
「たくさんの血が流れることになるんだ!!」
「本当にいいのかァ!?それで―――!!」
「お前だって、結局は自分の都合しか考えてない女じゃないか!!」
「私を非難する筋合いなんぞ、ありゃしない!!」
「黙れ、外道が―――」
「帝国の軍人を止めることが出来るのは貴方だけじゃない。」
「あの魔導士―――」
「ミナス・・・彼ならやってくれる。」
「彼がこの帝国の侵略から王国を救ってくれる救世主と私は確信した!!」
シータはミナスの方を見る。
"君の望みを・・・ボクに教えてくれるかい?"
あの時、ミナスは私にそう尋ねた。
"私の望み・・・あのクソ野郎を殺すこと・・・。"
"あのインテグラルの野郎を殺すことっ!!"
ミナスは優しく頷いてくれた。
私を理解してくれた。
だから、ラナー王女とインテグラルが本性を出すその時まで身を潜めて監視し続けたんだ。
「だから私は貴方を心置きなく殺せる―――」
「覚悟して頂戴!!」
「く、来るな!!」
「私に近づくなァァーーー!!」
シータはインテグラルの喉を切り裂き、腹を切り裂いた。
その刃に復讐心を込めて―――、彼の命を奪い去った。




