第3話 やっと死ねると思ったのに
どうもゆにです。
これからミナスとリアがともに帝国を打倒していきます。
読者の皆さんが楽しんでくれたら嬉しいです。
~クラリティ街道~
"やっと死ねると思ったのに"
僕を殺せる可能性のある奴隷の少女に殺してくれと頼んだら、あっさり断られてしまった。
ボクは18歳の時にひょんなことから、ある世界的に高名な魔女によって不老不死とレベル退化の呪いに掛けられた。
最初は不老不死になったなんて、ラッキーだと思ったさ。
でもそれは違った。
死ねないことは苦痛でしかない。
最初に死にたいと思ったのはいつだと思う?
一緒に馬鹿なことをし続けて、夢を語り合った親友が死んだ時...?
それとも、いつも自分のことを心配してくれた両親が死んだ時...?
それとも、生涯を共に寄り添った最愛の妻が死んだ時...?
正解はそれらを全て失ってから数か月経った後だ。
いなくなって初めて気が付く。その人達の大切さが...。亡くなって、ちょっとの間はその人が死んだっていう実感がないんだ。だけど、暫くするとイヤでも実感するんだ。
"もう自分の隣にその人はいないんだって"
その時、初めて大粒の涙が頬を流れる。親友が死んで、両親が死んで、最愛の妻が死んだ。その数か月後にボクは初めて死にたくなったんだ。
本当はボクもあの時に死ぬべきだったんだ。
でも死ねなかった。
それからこの呪いを解くため、自分に呪いを掛けた魔女を探す旅に出たんだ。しかし、その旅は想像を絶するほど辛く厳しいモノとなった。何てったって、自分の能力値は闘えば闘う程、下がっていくんだ。
それに噛みちぎられたり、斬られても死にはしないが、"痛み"は当然ある。死ぬほど痛いのに死ねない...これほどの苦痛があるだろうか...それも十回や二十回なんかじゃない。
ある時から、ボクは痛みを感じなくなった。何故かというと、ある一定の-Lvに到達したことで痛覚遮断を習得した。それまでは本当に苦痛だった死ぬほどの痛みが消えたんだ。あの時ほど、スキルに感謝した時はなかった。
世界を全て回った。それでも、魔女は見つからなかった。
仕方がないからボクは魔女を探すことを諦めて、死に場所を求めて時空の狭間に行ったんだ。あそこの魔物は伝説級がウジャウジャいると、世界を回っている最中にそういう噂を聞いたからだ。
それで時空の狭間だったら、ボクを殺せる存在がいるかもしれないと思って行った。でも結果として無駄足となった。
あぁ...本当に辛く苦しい人生だ...一刻も早く全てを終わりにして死んで楽になりたい。そして、天国で先に待っている親友、両親、妻に再会するんだ...。
「オイッ!お~い!起きろってばッ!!」
う~ん、ボクを呼ぶ声がする。何だか、頬を叩かれているような感覚がある...
どれくらい寝てたんだろうか、寝ぼけ眼をゴシゴシと擦って目を開けると、そこには、ボクの頼みをあっさりと断ったピンク髪の少女がいた。
「やっと起きたか!」
「あんなことでまさか気絶するとは思わなかったぞッ!」
少女はボクを心配してか木の陰まで運んで介抱してくれていた。
「君はボクを殺してはくれないんだろ...?」
とてもブルーな気分でこの子と向かい合わなければならないボクの気持ちも少しは考えてほしいモノだ。
「あのさ...だいたい何で初対面の私がアンタを殺さなきゃいけないのよ!!」
「いや、でも売られそうな君をボクは解放してあげたじゃないか!」
「まぁホントは殺すつもりだったけど...」
ボクはうっかりとそのことを呟いてしまった。その瞬間、少女の目の色が変わった。
「おい、ちょっと待て!アンタ、今何て言った!?」
「何って...君を殺すつもりだったっていたんだけど...?」
ボクは全く悪びれた様子もなく、そう少女に答えた。
「それ全然助けてないじゃんッ!!!」
「てか、むしろ殺す気とか...アンタ私を売ろうとした奴らより酷いことしようとしてんじゃん!!」
「えっ、何?私を助ける為に手枷とか外してくれたんじゃないの!?」
少女は、興奮した様子で畳みかけるように言葉を発する。
「いや、死ぬことは助けることと同義だろ?」
何を当たり前のことを言わせているのかと、ボクは少女に呆れたような笑みで微笑みかけた。
「同義なわけあるかァァ!!!」
少女は怒り心頭でブチキレてきた。少女の叫びで辺りにいた草食動物達はビビッて逃げて行ってしまった。
「アンタ!一体どういう価値観してんのよッ!!」
「人を殺すってことはね、そんな簡単なことじゃないのよッ!!」
「殺す方も殺される方も相当な"覚悟"が必要なの!!」
「アンタみたいにその辺でリンゴ買うみたいなそんな軽くはないのよッ!!」
「ハァハァ...」
少女は一しきり怒鳴り散らすと息を切らしてその場へとしゃがんだ。
この少女は、何でこんなに必死に論じているのだろうか、死ねばそんなことを諭す必要だってなくなるのに...
死にたくても死ねないミナスには少女の怒りの気持ちが一切分からなかった。
「まぁそんなに興奮することもないだろ...」
そんな少女を見兼ねて、少し落ち着いてもらうために、収納のスキルで亜空間からテーブルとお茶を取り出した。
現状ボクを殺せる可能性のある少女だ。変に機嫌を損ねるのもボクの死を遠ざけるだけだと考えたのだ。ここは多少なりともご機嫌取りをしよう。
「まぁこれでも飲んで一旦落ち着いてくれよ」
「はぁ?アンタ今どこからそれ出したのよ!?」
「ん?いや、普通にテーブルとお茶の入ったポットを取り出しただけだが...?」
「それ収納のスキルでしょ...!私初めて見たんだけど...?」
おかしなことを言う少女だなとボクは思った。しかし、よくよく考えたら時空の狭間にいた猛者たちは当然のように持っていたスキルだが、この世界の人たちにとっては珍しいモノなのかもしれない。
「もしかして、収納のスキルはこの世界だと珍しかったりすんの?」
「そりゃそうよ!!そんな便利なスキル一部の強者しか持ってないわよ!!」
少女は少し考えたような様子を見せ、行商人たちの死んだところを見返していた。
「ねぇもしかしてアンタめっちゃ強かったりするの?」
この女は一体何を言ってるんだ...?このボクが強い?そんな馬鹿なことがあるわけないだろ。
ボクの弱さはその辺の子供はおろか、アリにすら余裕で力負けするくらい弱いぞ。
「いやいやいや...ボクが強いわけないだろ...!!」
「自慢じゃないが、この世界で一番弱い存在だぞッ!!」
ボクは必死に右手を振り否定した。
「でもアンタ私を売ろうとした奴らをみんなあっさり殺しちゃったじゃない!!」
「それで弱いっておかしいわよ!!」
「そういう意味で強いとか弱いとかってのはよく分からんが、確かに相手を殺すことに関してはボクは自信あったりする。」
「ボクはあらゆる人間に死をもたらし、救済することにしているからな!!」
「生きていく苦しみから解放してあげてるんだッ!!みんながみんな死にたいときに死ねるとは限らないからね!!」
「あっ...そうなんだ...!」
少女は少し引きつった顔で反応する。
アレ?反応が悪いな...。まだ、彼女には少し難しい話だったかな?ミナスは自分がいい話をしたと思い、少し誇らしい気持ちになったが、あまり共感されなくて不思議に思った。
この時、少女は思った。
"この男、性格に難があるが、私の復讐の成就に利用できるかもしれない"
と、内心で思いを巡らせていた。
「ねぇアンタ、殺してあげよっか?」
「!?」
「お、オイ!それはホントか!!」
「ホントにボクを殺してくれるのか!!」
「ええ...ただし私の目的に協力してくれたらの話だけど...!!」
「分かった!!やるやる!!ボクは自分が死ぬためなら何でもするぞッ!!」
ミナスは即答だった。そりゃ最初は断られたのに条件付きで了承してくれたのだ。嬉しいに決まっている。
「実は私、帝国に復讐をしたいと思っているのよ!!」
「帝国??」
「そっ、帝国...ここからずっと、ずっと遠くの離れた国なんだけど、最近になって諸外国に侵略戦争を仕掛け始めてきたのよ!」
「私の祖国も...て言ってもこの国なんだけど、そこの王都も帝国によって焼き払われてしまったわ...!!」
「命カラガラ逃げた私も野盗捕まり、さっきの行商人たちに奴隷として売られそうになっていたってわけ!」
「私は、帝国の奴らが憎い!!だから私の目的は帝国の頭...皇帝の殺害!!」
「アンタがそれに協力して、達成した暁にはアンタのお願い通り私がアンタを殺してあげるわ!!」
それはミナスにとって滅茶苦茶ありがたい条件だった。だって、皇帝とは言え、一人の人間を殺すだけで、自分の悲願が叶えられるんだから安いに決まっている。
「何だそんなことお安い御用さッ!!」
「あっ、でも皇帝だけじゃなくて軍部の奴らも滅茶苦茶にやって欲しいのよ!!」
「たとえ命令したのが皇帝だとしても、奴らが実行したことには変わらないし...!!」
この少女、とんでもなくその帝国とやらに恨みがあるようだな。
「了解した。君が殺してほしいならそうするさ...!!ボクの悲願のためだもん!」
「それと...コレも頼みなんだけど...!」
「ん?まだ何かあるのか...!?」
「皇帝は私自らの手で殺したいの!アンタに殺されたんじゃ復讐もクソもないからね!」
「自分の手でって...君そんなに強そうには見えないけど...?」
「うっ...確かに今は強くないけど、アンタが私を強くすんのよッ!!」
「えっ、何それも条件に入ってんのか?」
「当たり前じゃない!アンタ死にたくないの!?」
「分かった分かった!任せてくれ!!ボクは死ぬためなら何でもするさ!!」
「ただ、約束は守ってくれよ!!ボクは死にたいんだからな!!」
「分かったわ...!私は誓うわ!ジュエル王国の姫としてね!」
「姫...?えっ、君って姫様だったの?」
「そうよ...悪いかしら?王都は帝国によって滅ぼされちゃったけどね!!」
なるほど、それで帝国に恨みがあるって訳か...?まぁその時に一緒に死ねたら彼女だって楽だったかもしれないのに...。あっ、でもそうするとボクも死ねないって事か、それは困るな。
「大体の事情は分かった!君に協力をしようじゃないか!」
「改めて自己紹介だ!ボクはミナス!!死にたがりのミナスだ!!」
「私はリア-ジュエル-アルベスタ」
「リアって呼んで頂戴!!」
「分かったよ!リア!」
「ん?まぁヨロシク、ミナス!!」
こうして、二人は固い握手を交わした。ミナスにとってみると握手など数万年振りの出来事だった。
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