第29話 醒めない悪夢
私には二人の血の繋がった姉がいる。
一人は頭が良く、魔法が得意な第二王女のラナー御姉様。
もう一人は誰にでも平等に優しく、率先してみんなの先頭に立つ第一王女のセディナ御姉様。
二人とも私の自慢の御姉様。
小さい頃から二人の背中を見て、育ってきた。
私が転んで泣いている時もラナー御姉様は手を差し出し、私を立ち上げ、慰めてくれた。
あの思い出は偽りだったの?
そんなのイヤだ―――
ラナー御姉様との思い出はたくさんある。
魔法の出来ない私に一生懸命付き添ってくれたこともあった。
そんな人が、国を裏切り、帝国に寝返っていた?
信じられない―――
ねぇ・・・ラナー御姉様・・・ウソですよね?
ウソって言ってください・・・。
~カーネリアン砦~
「ラナー御姉様―――」
「何故、国を裏切るような真似を?」
「私が貴方と過ごした時間は偽りだったのですか!?」
「リア・・・甘えた考えは捨てて、現実を見なさい。」
「帝国の軍事力は既に世界一です。」
「この国の諸侯たちが完全に手を取り合ったとしても帝国には滅ぼされるだけでしょう。」
「私にはそれが分かったから、裏切り貴方達を売ったのです。」
「力が及ばないから国を裏切り、敵国に従属する―――」
「ラナー御姉様はそれが本当に正しい選択だとお考えなのですか?」
「ええ、そうです。」
「私は私の選択を正しいと考えています。」
「貴方は自分が理解できない、理解したくないから正しくない選択だと言いたいのでしょう。」
「ですが、それは未熟、それは幼いというのです。」
「少なくとも私がこの国を裏切らずとも遅かれ早かれ、王都は侵略され同じような結果になっていました。」
「それが分かっていたからこそ、私は私の人生を守る為に今回の選択をしたのです。」
「私は国の代表としてこの世に生を受けました。」
「私達は誰よりも民を守る為、国を愛する義務があると考えてます。」
「それなのに―――、どうして!?」
「国の代表?義務?」
「それです―――」
「私がいつも感じていた不快感はそれです。」
「皆が生まれる家を選べないように私だって選べなかった。」
「私だって望んで王族として生まれたかったわけではありません。」
「そうやって、代表だの義務だの私を縛り付ける言葉がほんっとうに心の底からうんざりしていました。」
「何故ってこちらから聞きたいくらいです―――」
「何故、貴方達、無能の為に私の心身が削られなければならない?」
「そうやって弱者が私のような強者に縋りつくのがほとほと嫌だったのですよ!!」
「私は私の人生を"楽"に幸せに生きれればそれでいい。」
「そのためには強者の側に付くのが一番なんですよ!!」
ラナー御姉様は今までに見たことのない顔をしていた。
気づかなかった。
この人は本当にそう思っていたんだ。
偽りの仮面を着けて、普段の生活を送っていた。
今までの大切な思い出が偽りだったなんて・・・。
「リア・・・貴方も私と共に帝国に寝返りませんか?」
「不出来な妹とはいえ、死ぬよりはマシでしょう?」
「貴方が私と共に行かないのであれば、貴方を待つ運命はこの場で死ぬか、捕虜として捕まり処刑台に送られるかどちらかだけです。」
フフっ・・・貴方が私に付いてくれば、帝国の大臣や評議会に貢物として差し出せる。
あの連中、幼女が好きなロリコンが多いし、とても喜ばれるでしょうね。
ラナーはそんなことを考えていた。
「リア王女殿下!!」
「そんな甘言に惑わされてはいけませんっ!!」
「こちらは大丈夫です!!」
「我が抑えて見せましょう!!」
グランがリアに向かって叫ぶ。
暴れ回る冒険者たちを必死に押さえつけている。
「グランさん・・・安心して―――」
「私はラナー御姉様も言葉につられたりはしないッ!!」
「正直、ショックです。」
「貴方との思い出が全部、偽りだったなんて―――」
「ですが、私はこの国の為、貴方を赦さないッ!!」
「もう貴方のことを御姉様などとは言わないッ!!」
「ほう、私と闘うつもりですか?」
「魔法もロクに使えない貴方が?」
「それともお仲間に助けてって泣きつくのですか?」
「貴方と共にいたあのみすぼらしい魔導士の姿も見えませんが―――」
「きっとこの騒動で貴方を見捨てて逃げたのでしょう。」
ミナスのことだ―――
ミナスは逃げたんじゃない。
アイツがこんなことで逃げる訳がない。
「ミナスは逃げてなんかない!!」
「では、どこに行ったと?」
「この状況で姿を現さないのなら逃げたと思っても仕方ないのでは?」
「っ・・・・!?」
リアは言い返せない。
でもミナスは必ず現れる。
信じているから。
だから、早く来なさいよ!!
ミナスっ―――!!!
リアは心の底からミナスの名前を叫んだ。
「リア―――」
「大分、騒がしいことになっているみたいだね。」
その叫びが通じたのかミナスの声が聴こえる。
「ミナスっ!?」
リアはつい嬉しい声が漏れてしまう。
「お前は・・・!?」
黒い液体が集まり、ミナスの身体を形成する。
「話は聞かせてもらったよ―――」
「リア、待たせたみたいだね。」
ミナスがリアに向けてそう云った。
「もう、どこに行ってたのよ!!」
「ちょっと色々あったのさ。」
「親しい仲でも云いたくないことの一つや二つはあるもんだろ?」
「誰がアンタと親しいって?」
「言いたくないなら言わなくていいわよ。」
「アンタとはそういう仲でしょ。」
「えぇ、ボクは君と仲良くなりたいけどなァ~~~」
「まぁ、いいや―――、それはおいおいだね。」
「で、アレは君のお姉さんだけど、どうすればいい?」
「いや―――、どうしたい?」
ミナスはリアに尋ねた。
心の中ではまだ少し迷っている。
「アイツを消して―――」
「貴方ならそれができるでしょう?」
リアがラナーを指差す。
「おっけー!」
ミナスは快諾する。
もし、これが悪夢なら醒めて欲しい。
でも、きっとこれは醒めることのない現実。
「貴方達、何を言っているか分かっているの?」
「貴方達を囲んでいるのは帝国の軍人達―――」
「貴方達に万に一つの可能性もないのよ?」
「それに私だってそう簡単に―――」
「う~~~ん、さっきからごちゃごちゃうるさいな。」
「少し黙ってくれない?」
「能力値降下!」
ミナスは手を突き出すと少しの詠唱でそれを放つ。
「っ―――!?」
マイナスの魔法が喋っている途中のラナーを包み込む。
「な、なにこれは・・・!?」
「ボクは平等主義者だから貴方も救うよ―――」
「貴方、楽になりたいんだよね?」
「その望みを叶えてあげるんだ―――」
「感謝してね♪」
ミナスはそう言い残す。
「いやだ・・・・私は生きて楽になりたかった―――」
「こんなのは私の望んだリアルじゃない!!」
「死にたくないッ!!」
「ラナー、そう思って死ぬのは貴方だけじゃない―――!!」
「この国の人だってみんなそうだった!!」
「貴方が先にそれを踏みにじってしまったんだッ!!」
「だから、私は貴方を救えない―――!!」
「イヤアアアァァーーーー!!!」
ラナーは叫びと共に消滅した。
願わくば、貴方が楽に死なんことを。




