第23話 お使いなんて耳触りのいい言葉はいらない、お前を利用しているって言えよ
~商業都市エメラルドより南の山間部~
商業都市エメラルドから南の少し離れた少し高い所に位置する場所。
道は細く、両脇は切り立った岩や崖。
樹木の間からは下界が霞んで見える。
風がヒュウヒュウと鳴り、馬の蹄音や鎧の擦れる音が反響する。
「中々、遠いな―――」
リアは額に冷たい汗を垂らす。
疲れた表情で、息も少し荒い。
既に何時間も歩いている無理もない。
持ってきた水筒の水は空っぽ。
「皆さん、あと少しです。」
「この峠を越えれば、開けた場所に出ます。」
「そこに目的の砦があります!!」
先頭を行ってるのは忍者のシータ。
索敵能力に優れた彼女が先行して、危険がないか知らせてくれている。
「だってさ!ミナス!!しっかり付いて来てる?」
リアは後ろを振り返り、ミナスが付いて来ているか確認する。
「付いて来てるよぉ~~~~!!」
抜けた声のミナス。
そんな彼はグランの背中におぶさっている。
「ちょっとミナス!!グランさんに迷惑かけてんじゃないの!!」
ミナスは自分の足で歩かず、グランに背負ってもらっている。
そんなミナスに怒りというか呆れた感じでリアが云った。
「リア様、我のことなら問題ない!!。」
「ミナス殿は軽いんで―――」
そう云ったグラン、本当にミナスを軽そうに持っている。
ミナスは痩せ細っている。
体重で云ったら60kgくらいか。
それに対して、グランは屈強な冒険者。
ミナス一人くらい背負っての登山も余裕でこなせる。
「だってさぁ~~~~~!!」
「ボクは死ぬほど足が遅い―――」
「普通に歩いたんじゃ、みんなの足手まといだ。」
「だから力持ちのグランに運んでもらう―――」
「とても理にかなっているだろぉ~~~~??」
「ま、まぁ・・・それはそうだけど・・・。」
リアは納得させられてしまう。
そんなことをやっている内に砦に到着する。
「わぁ―――、思ったより大きい!!」
リアが感動しているのか、思わず声を漏らす。
古びてはいるが、どこも壊れてはいない。
少し整備すればそのまま砦として使えそうだ。
「ここならエメラルドと王都トパーズのちょうど中間あたり―――」
「物資の中継地点として役に立ちそうだ。」
リアがそう云って嬉しそうだ。
敵に攻めずらい山間地というのも大きい。
「でもここまで歩くの大変じゃない~~~?」
まぁ、確かにここまでの歩きはそれなりに坂道も多く大変だった。
「何かいい方法でもあるっていうの?」
「うん!ボクならこの辺りからこの辺りの岸壁を削り取れると思うんだ。」
「そして、この辺りに堅牢な門なんか立てれば大幅なショートカットができるんじゃないかな~~~!!」
ミナスは地図を指差しながらそう云った。
確かにそんなことが出来れば、エメラルドから王都トパーズまでの距離はグッと縮まる。
「アンタさ、弱体化の魔法だけじゃなくて、破壊系の魔法も使えるの?」
リアはミナスに尋ねる。
「ううん?ボクはダウナー、弱らせることしかできない。」
「だから岩々を弱らせるんだ―――」
「削りやすいくらいにねェ―――」
「スライムくらいまで柔らかくした後にグランに削って貰えば完成さ。」
ミナスは得意げに話す。
確かにそれなら・・・。
「分かったわ―――」
「その作業はミナスに任せる!!」
ミナスも前向きに協力してくれるみたいだ。
いつもならだるそうに静観するかと思ったが・・・。
何か目的があるのかしら?
リアはそんな思いも少し巡らせるが、ミナスを仲間として信じることにした。
砦を前に彼らがやり取りをしていると、騒がしくしていたのか巨大な影がやってくる。
この砦を住処にしている魔物だ。
巨大な怪鳥だ。
「鳥の怪物・・・・!?」
「どうやらこの辺りを縄張りにしているみたいだ―――」
「ボク達がうるさくし過ぎたんだろうね。」
「シータさん!グランさん!!」
「お願いできますか?」
全長10メートルは超える巨大な怪鳥を前にグランとシータの二人は武器を構える。
「クォォォォ・・・ガァァァッ!」
低い唸りと高い悲鳴が同時に響き、まるで二匹の獣が重なるような鳴き声。
「まぁまぁ、落ち着きなよ」
「能力値降下!」
怪鳥が一瞬にして、ドロドロの黒い液体へと変形する。
これから激しい戦闘になるかと思いきや、ミナスの不気味な笑みとその言葉によって、一瞬の静寂が支配した。
今、何が起こった・・・?
「ッ―――!?」
シータは大きく眼を見開く。
全長10メートル以上の怪鳥をミナスは一瞬で消えてしまったのだ。
ドロドロの黒い液体・・・。
そうだ、あの帝国軍人もドロドロに溶けて、黒い液体になっていた。
コレがこの男の力・・・?
即死級の魔法を使えるということ?
ゴクリっ・・・!
シータは生唾を飲み込む。
彼は想像以上に危険だ・・・。
インテグラル様にご報告しなければ・・・。
ミナスの力を見たシータはそう考えるのであった。