第20話 名状し難い吐き気を催す何か
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~商業都市エメラルド 市街地~
「そ・・・そんなアルバック様が・・・!?」
「撤退だ―――ッ!!」
「各員に次ぐ、直ちに撤退するのだッ!!」
アルバックが死んだことで、街を囲っていた巨大な樹木たちは跡形もなく崩れ、帝国兵たちは正門に待機していた兵士たちに事の経緯を伝えた。
予想外のアルバックの死に狼狽える帝国兵たち。
撤退までの決断までにそんなに時間は掛からなかった。
「ねぇ、リア・・・」
「アイツ等逃げていくけど、いいの?」
ミナスは早々に撤退していく帝国兵を指差しそう云った。
ミナスなら、この距離でも帝国兵の息の根を止められると―――
まるでそう言いたげな顔だ。
実際、ミナスにとってはそんなに難しいことじゃないんだろう。
「ダメよ!!」
「ミナス―――!!」
「戦意の喪失した相手に追い打ちを掛けるなんて非道―――、私は許さないッ!!」
敵が憎い帝国兵だとしても、王族の誇りまでは失わない。
リアの中でも線引きは存在する。
「でも、アイツ等リアの存在知っちゃってるから、多分また兵を引き連れてやって来ると思うよ―――」
「来るなら来なさいよ―――!!」
「返り討ちにしてやるんだからッ!!」
リアは闘争心むき出しの顔だ。
やれやれ、闘うのボクなんだけどなぁ・・・
ミナスは頭をポリポリと掻き、空を眺めた―――
この日、多くの民の命を救ったことは、王国の歴史にジュエル王国第三王女 リア-ジュエル-アルベスタの初の功績として刻まれることになる。
今回の戦闘を街の高台から観察していた眼があった。
黒装束の衣を纏う忍び―――、この地の領主インテグラルの配下シータ。
彼女は、突如現れた帝国兵達に対し、身を隠しながら動向を伺っていた。
「彼は一体・・・?」
シータのミナスに対する印象は名状し難い吐き気を催す何かだった。
見たこともない魔法を使用し、いとも簡単に敵を無力化。
この距離でも分かる、負の魔力に、異様な戦闘スタイル。
杖を翳して、少し魔力を放っただけでああも人が壊れる光景に疑問を持つ。
通常、魔法っていうのはどれだけ高密度、高濃度の魔力を創ることが出来るか、そして火、水、風や大地といった基礎の四属性から始まって、使用できるバリエーションがどれだけ豊富であるかによって、魔術師としての価値が決まる―――
と、シータは考えていた。
魔術にそこまで精通しているわけではない彼女であってもそこは、基本中の基本だと認識している。
それなのに、アレはなんだ?
使用している魔法の種類すら分からない。
属性なんてものあるのかすら判断がつかない。
そもそも本当に魔術師なのか?
杖を持っており、古びたローブに身を包んでいるから、リア様が雇った魔術師だと思っていたが、そうではないのか?
どうやら調べる必要がありそうだ―――
シータはそう考え、動き出した。
「孤児院のみんなもどうやら無事のようね―――」
孤児院にいた子どもたちはリア達の周りを囲む。
「本当にありがとう―――」
「君たちのおかげで子どもたちを守れた―――」
グランは穏やかな表情でリア達に礼を言った。
「いえ―――、帝国の非道な行いが見過ごせなかっただけです―――」
「グラン様~~怖かったよーー!!」
子ども達は泣きついた。
「おー、そうかそうか―――」
「でも悪い人たちはみんな追い払ったからもう大丈夫だぞ―――」
優しい父親のような顔だ。
こんな人もいるんだと、リアは嬉しくなった。
無償の精神でみんなを守れる、守ろうとする高潔な精神。
グランはそんな人格者なのだとハッキリ分かった。
「それで、これから君たちはどうする気だい?」
「えっーっとですね。」
「実は・・・」
リアが言いかけたその時、横からシータが現れる。
「リア様はこれからこの地の領主であられるインテグラル様の元へ伺う予定です。」
「シータさん!?」
リアは突然現れたシータに驚いた。
宿屋で別れたっきり、どこにいたのか知らないが、無事でよかったと安堵する。
「君は"くノ一"というヤツか・・・!」
グランは突然現れたシータにもそんなに動揺していない。
これがS級冒険者の慣れというものだろうか。
「そういえばさーー、領主に会ってどうするの?」
ミナスがシータにそう云った。
「何言ってんのさ!」
「ミナス!!」
「ラナー姉様に会えるんだよ!!」
「嬉しいに決まってるでしょ―――!!」
「いや、ボクはその"ラナー姉様"って人知らないし―――」
領主の元にリアの姉が隠れているということは聞いているが、姉と再会したところで事態が好転する訳ではないのかと言いたいらしい。
「"解放軍"を作るんです―――!」
「解放軍?」
リアとミナスは二人揃って首を傾げる。
「ええ、そうです。」
「今、この王国を脅かしている帝国軍へ対抗するための解放軍を旗揚げするのです。」
「そして、ラナー様とリア様がそこの上へ立ち、皆を先導するのです!!」
シータは淡々とそんなことを言い始めた。
「私とラナー姉様の二人で帝国に立ち向かう軍を作るってことね―――」
「できるかしら・・・」
リアは不安そうな顔で下を向いた。
そんなに簡単にいくかなー。
ミナスはどうにも臭いと感じていた。
初めから思っていたが、上手くいきすぎている節がある。
それにこのシータという女、ウソの匂いがする―――、ダウナーである彼はマイナスの事象への嗅覚が敏感である為、人がどれだけ上手くウソを付いていても自然と分かってしまう。
まぁ、分かった所で何かするかどうかはその時々に判断するわけだが―――、今回もその時が来るまで、"静観"をすることに決めた。
「詳しい話はアタシの主であられるインテグラル様より説明をしてもらおうと考えております。」
シータは軽く頭を下げ、そう云った。
「それでは、アタシに付いてきてください―――」
シータの後ろにリアとミナスは付いていこうとした。
その時、グランは手を伸ばす。
「待ってくれ―――」
グランが三人を呼び止めた。
「話は聞いていた。」
「もし、解放軍を作るのなら、我も手伝おう!!」
「二人には子ども達を救ってくれた恩もあるわけだしな―――」
「グランさん・・・!!」
「ぜひ、お願いします!!」
リアは快く受け入れた。
嬉しそうにグランの大きな手をギュッと握りしめ、握手を交わす。
こうして、四人はここからそう遠くないインテグラルの屋敷へと向かうのであった。
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