第2話 運命的な出会いをした奴隷少女に殺してくれと頼んでみた結果
どうもゆにです。
休みの日に限って夜更かしをしてしまって、結局次の日の仕事で辛いことになる現象に名前を付けたい。
ということでミナスと少女の出会いの2話です。
読者のみんなが楽しんでくれたら嬉しいです。
~クラリティ街道~
ボクは最後に殺したドラゴンが作り出した次元の裂け目からやってきた。ボクが降り立ったのは、草木が生い茂った見晴らしのいい、街道だった。
人工的に作られた石畳がずっと向こうまで続いているところを見るに、この辺りに人は住んでおり、それなりの文明は存在していることを証明している。
「今は、アルメンセス暦何年くらいなんだろ?1万年くらいか、それとも2万年くらい?」
「ボクが時空の狭間に行った時が確か...4000年くらいだから、多分それくらいかな~とは思うけど...」
そんなことを考えながら歩いていると、遠くから石畳の上を通ってくる荷馬車がいくつもやってきた。
(確か、昔もこんなやって馬に荷物を運ばせてたな~)
などと、その様子を懐かしく思って眺めていると、荷馬車の列がボクの前でいきなり停止した。
(ん?御者が大慌てに何か言ってるな...)
ボクは耳を澄ませて聞いてみた。
「螟ァ螟峨〒縺呻シ∝燕縺ョ螟ァ蝨ー縺瑚?縺」縺ヲ縺セ縺呻シ?シ」
うん、何言ってるか分からん。あれかな?数千、数万年ぶりのアルメンセスの世界で、ついに言葉まで変わってしまったのか
「しょうがないな...」
ボクはそう呟き、収納のスキルから【全言語の指輪】を取り出した。この【全言語の指輪】は指にはめると、どんな言語でも自分の知っている言語へと変換してくれるという超超超ーーーレアなアイテムなのだ。何故そんなレアなアイテムを持っているのかというと、時空の狭間でドロップしたモノです。はい。
あそこの敵はLv.1000以上がゴロゴロ存在する恐ろしいところだが、ドロップアイテムはとんでもなくいい。世界級、神話級、時空級...さらに高ランクのアイテムがゴロゴロ手に入る。【全言語の指輪】もそのドロップアイテムの一つだ。
勿論そのまま、指にはめて使用してもいいが、それだとボクが致命傷レベルの攻撃を受けて溶けてしまった時に無くしてしまう可能性がある。そこで、ボクはロクでもないスキルを使用することにした。
自分は、レベル退化の呪いに掛けられてから、殺されるレベルのダメージを受けた時や普通に生活している時でもレベルが下がっていき、ついにLv.-9999という大変不名誉なレベルに到達してしまった。不老不死の呪いが無ければ、一瞬で死ねる能力値なのに、歯がゆいばかりだ。
それでも、何故かある一定のレベルまで下降した時にスキルを習得したのだ。まぁどれもロクでもないモノばかりだったが...
その中の一つのスキルを使用する。《吸収》のスキルだ。
コイツは、触れたモノのスキルを一つ自分の物として吸収するというスキルだ。
本当にロクでもない...
こんなスキル使ったら、奪われた側は堪ったもんじゃない。それにボク自身が強くなってしまう。それでは自分の死からまた遠ざかることになってしまう恐れが出てくる。だから、このスキルを使う時はそれしかないなっていうどうしようもない時にしか使わないことにしている。
それしかないなって時が今なのだ。
ボクは《吸収》のスキルを使用し、【全言語の指輪】を体内に取り込んだ。
『ミナス:《全言語》を習得しました。』
スキル習得を知らせる声がボクの頭に聞こえた。
これで、あの人たちの言葉が分かるはずだ。
再びボクは耳を立てて、目の前の御者の人たちの言葉を聞いてみた。
「お頭ッ!!大変ですぜ!!」
「目の前にいる男の後ろッ!!見てください!!」
「大地が腐ってますぜ!!」
御者たちは慌てて、中にいた親方や仲間達へ報告していた。
「ん?」
ボクはこの時初めて、自分の力が駄々洩れしていたことに気が付いた。先ほどまで、自分の歩いてきたところの大地が枯れていることに...
緑の草木は枯れ、地面はぐちゃぐちゃに腐っている。
「この世界の地面や木々は時空の狭間よりも圧倒的に弱いのか...」
ボクは自我を持つ生命体の死は救いだが、植物などの自然環境の死は救いではないと考えている。
「コレはやっちゃったな~!!」
自分の力のコントロールは大変に難しいのだ。
時空の狭間にいた時はそんなこと全く考えなくともやっていけたが...
この世界の大地を枯れさせるのは自分としても本望ではない。
「しょうがないか...」
そう言って、ボクは再び収納のスキルを使い、【制御の指輪】を取り出し、吸収した。【制御の指輪】は文字通り、自分の力の制御を完璧にするというアイテムだ。
ミナスの自身のダウナー能力の制御はとても難しいのだ。先ほども言ったように自分のスキルを増やしすぎるのは気が進まないが、コレも仕方ないと諦める。
『ミナス:《完全制御》を習得しました。』
そうやって、落ち込んでいるミナスの前に、馬車から武器を持って男たちが降りてきた。その数、10~20人程度、物騒なことになる予感しかしない。
「オイ!兄ちゃん!テメェ何者だァ?」
お頭と思われる男が一歩前に出て、ボクに尋ねてきた。
「何者って...ボクはミナス!ただの死にたがりさ!」
「あっ、そうだ!もしかして君たちはボクのことを殺してくれるのかい?」
ミナスはもしかしたら、自分が数千年以上、この世界を離れている間に人類の力は進化しているかもしれないと欠片ほどの期待を胸にしたのだ。
「何言ってやがんだ!?コイツは!」
「イカレちまってんのか!!ハハハハハッ!!」
目の前の男たちは一斉に笑い出す。
「う~んどうやら期待はずれそうだね...」
全く強そうに見えない。この人たちは到底ボクのことを殺してくれるとは思えない。
「なら、ボクは君たちを救うことにするよ...」
そう呟いた。
「何言ってんだコイツぁ?」
「能力値降下!」
ボクはダウン魔法を発動させていた。自分のマイナスステータスを相手にも負わせる魔法だ。自分のLvは-9999、そのマイナス値は人智を遥かに超える。常人どころか、この全時空に耐えれるモノが存在するのかすら怪しいとミナスは考えていた。
すると、目の前にいた男たちは次々と液体へと溶けていった。男たちだけでなく、馬やその積み荷も次々と風化して溶けていったのである。
「な、何をしオボボボォォォ!!!」
男が言い切る前に先に身体が溶け出す。
「何って...救ってあげてるんじゃないか!」
「君たちを生きる苦しみから解放してあげてるのさ...!!」
とボクが答えてあげたのに、既に男たちは誰一人生きていなかった。
「さぁ~って良いことしたし、この街道を行けば、人がいるのかな~?」
「もっと多くの人を苦しみから救ってあげなきゃだしな~!!」
ミナスは自分を殺してくれる者を探す一方で、人々に救いを与えることも考えていた。
その場から移動しようとしたミナスは少し、不思議に感じたことがあった。
それは...
男たちの乗ってきた荷馬車が何故か一つだけ、溶けていなかったのだ。
「おっかし~なぁ~!!確かに全部の荷馬車を対象にしたのに~!!」
ミナスは残った荷馬車の中身を確認しようと、荷馬車の中に乗り込んだ。
すると、そこには手枷と首輪をはめられたピンクのショートヘアの奴隷の少女が一人存在した。この行商人たちは奴隷も扱っていたのだとミナスは確信した。
少女は怯えた様子で全身を震わせていた。
「君はもしかして奴隷かな?」
「君はボクを殺してくれるかい」
ミナスがそう言った瞬間、奴隷の少女は、隠し持った果物ナイフでミナスを斬りつけた。
不意打ちだったため、ミナスは全く抵抗することなく、左腕に深い傷ができた。そこからダラダラと血が流れる。
「ッーーーー!!!」
「傷が治らない...???」
ミナスは感動した。いや、狂喜乱舞した。言葉に出来ない嬉しさで胸が高鳴っていた。
「な、何を固まってるのよッ!!アンタ!!」
奴隷の少女は震える唇で必死に強気を演出する。
「やったーーー!!!!やったやったやったやったやったやったやったやったやった!!!嬉しいんだ!!ついに出会えた!!!君のような存在にッ!!!」
「見てみろよ!この腕の傷をッ!!治ってないだろッ!!血がダラダラさ!!久しぶりに止まらない自分の血を見たよ!!」
ミナスはたった今斬られた箇所を彼女に見せつけ、迫った。普通の者だったらこの反応に気持ち悪いと思ってしまうだろうが、ミナスはそんな配慮一切考えていなかった。人間と接するのだって、ずいぶんと久しぶりなのだ。
「ちょっと、近いってば!!」
興奮するミナスに離れさせるように押しのける。
「なんてすばらしい日なんだ!今日は!!!」
「ボクがこの世界の支配者だったら、今日という日は祝日にするね!!」
「ねぇ?アンタそんなに私に感謝しているなら、この手枷と首輪外してくれるかしら!!」
彼女は、既に全身の震えが止まっており、ミナスが自分に危害を加えないと勝手に思っていたのだ。
「ん?ああ、まぁちょっと話をするには邪魔だな!!」
ミナスはそう言って、彼女の手枷と首輪を風化させた。どうやら、何故か彼女には直接触れても能力値ダウンの魔法が通用しないらしい。
どんなに魔力抵抗が高いモノでも直接触れて、能力値が下がらなかった者は今までいなかったのに、何故かこの少女にミナスの能力値低下は効かないらしい。
ミナスが一番嬉しかったのは、彼女が傷つけた箇所が自分の不老不死の呪いですぐに治癒しなかったことだ。つまり、彼女ならば自分を殺せる可能性が高いのだ。
どんなに身体を切り裂いても、焼いても、溶かしても、凍らせても、痺れさせても、すぐさま治り、絶対に死ななかった。それどころか、周りにこのダウナーのスキルが勝手に発動して、勝手に殺していったくらいだ。
よし、改めて彼女に自分を殺してくれるようにお願いしてみよう。ミナスは思ってからの行動が早かった。何せ、彼女のような存在を何千、何万年と探し続けてきたのだから。
いざ、彼女を目の前にすると、緊張してきた。こんなに緊張したのは、かつて呪いを掛けられる前にした好きだった子への告白以来だ。
よーし、言うぞ言うぞ...!!
ボクは鼻から大きく息を吸った。
「頼む!ボクを殺してくれ!!」
「えっ、イヤだけど」
「えっ、」
とんでもなく速い彼女の回答に思わず頭が真っ白になる。
「頼む!ボクを殺してくれ!!」
ボクは諦めきれずに、もう一度頼んでいた。
「何回言ってもダメ!アンタを殺すなんてイヤ!!」
先ほどのは聞き間違いでもなんでもなかった。再びハッキリと拒絶された。
ミナスはショックから口が案開きになり、思考停止してしまった。
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