第16話 ちょっとイラっとした自分に驚いている
今年のGWは今のところは休めそう。
少し休みたい、仕事という戦場で闘い過ぎてる。
多分そのうち倒れるんじゃないかと思う。
眼を閉じるといつも頭の中に蘇る。
幼き頃の記憶―――
薄暗い闇夜に炎で明るく照らされる我が故郷の村。
"お兄ちゃん!!助けてッッ!!"
泣きじゃくり、助けを求める妹のエミリ。
そして、次の瞬間には背後からアンデッドが剣を振り下ろし、妹の命を奪う。
これは"呪い"だ―――
妹を守ることができなかった我に対する呪い。
かつて、我の村を大量の生きる屍 アンデッドの軍勢が襲った。
奴らは感情も持たず、我の故郷に火を放ち、村人の命を奪っていった。
我と妹は必死に逃げた―――
両親が作ってくれた僅かな隙を活かし、全速力で村から脱出しようとした。
我は妹の手を強く握りしめ、後ろを振り返ることなく、走り続けた。
た、助けてっ・・・!!
ヒィィィーーーッ!!
周りから聞き覚えのある声がする。
隣の家の夫婦にその家の娘―――、一緒に遊んだこともある。
グ、グラン―――ッ!!
急に見晴らし台が落ちてきて―――、あ、足が動かせないんだ!!
アレは、友人のケビン―――
うつ伏せになって倒れている。
どうやら、見晴らし台が崩れた時に足に材木が落ちて動けなくなったようだ。
助けてやりたい―――
助けてやりたいが―――、我には、守るべき妹がいるッ!!
我は振り返ることなく、走り続けた―――
我は友人を見捨てた―――、最低の男だ。
グ・・・グランゥっ―――!!
ケビンは我のことを恨んでいたであろう―――
震えるその弱々しい声が何故か、ずっと耳の奥にこびり付いている。
もうすぐ村の入り口だ―――
「もうすぐだ―――」
「もうすぐ、村から出られるぞッ!!」
涙は燃える炎の熱で蒸発していた。
「俺達は助かったんだ―――!!」
「エミリっ!!」
希望はすぐそこだと、我は振り返った―――
妹と生きているという喜びを分かち合う為に。
しかし、現実は残酷だった。
背後からアンデッドが迫っていた。
「エミリぃぃーーーッ!!」
ズサッ!!
鈍い肉が斬れる音が我の耳に入る―――
薄暗い闇夜を赤い血飛沫が舞い上がる―――
「お兄ちゃん!!助けてッッ!!」
エミリはそう云った。
そう云って―――、死んでいった。
我は守れなかった・・・・
守れなかったんだ―――
我はそのアンデッドを力いっぱい殴り―――、そのまま村から脱出し、走った。
走り続けた―――
そして、暫く泣き・・・・どことも知れない世界をさ迷い。
嘆いた―――、村を、妹を守れなかった自分に。
それから、我は強くなるため命懸けで修行をした。
"誰かを守る為"、己を鍛え続け、S級冒険者となり"剣王"と呼ばれるまでに至った。
~商業都市エメラルド 市街地~
「俺はよォォォ~~~とても残念に思ってんだぜェ~~~」
「そんだけの力を持ちながら、何も出来ねェ奴らを守る為に自分を犠牲にするテメェに対してよォ!!」
アルバックはグランに近寄り、その長い舌を見せつけるように迫った。
「我はあの日、全てを守ると誓った―――」
「我は貴様のような者になど決して屈したりはしないッ!!」
グランは堂々とそう言い切る。
覚悟を持った眼だ。
「あぁ~~~そうかよ!!」
「その根性いつまでもつかな~~~??」
アルバックは棘の鞭を力いっぱいグランのその屈強な身体に打ち付ける―――
「ッー――!?」
グランの衣服はボロボロに破れ、その肉体が露になる。
「へへへへェ―――!!」
「これよ、これ・・・」
「この何もできねぇヤツをこうやって虐める時、それが"最高"に楽しんだよなァ~~~!!」
アルバックはその愉悦から口から涎をボタボタと垂らした。
何も問題ではないッ!!
グランはそう思った―――
自分が妹を守れなかったあの時の後悔に比べたら今のこの痛みなど大したことはない。
他の冒険者たちがいる。
我がコイツの攻撃を耐えている間に街の人々を帝国兵や植物から守ってくれているハズだ。
だから、我は耐えるだけでいい―――
それで、皆が助かるなら、我はいくらでも耐えて見せようッ!!
グランはそう決めた。
グランは誰かの為に自分を犠牲にできる男だった。
「ヒャハハハハッーーー!!」
「クッ・・・!!」
必死に痛みを耐えるグラン。
耐えてはいるが、それは激痛だった。
ボロボロになりながらもまだその両足で立ち、鋭い眼光をアルバックに向けている。
「グラン~~~」
「テメェは自分が時間を稼いでいる間に他の冒険者たちが植物を何とかすると想ってるんだろうけど、なぁそれは甘ェよォォ~~~!!」
「何ッ!?」
グランは歯を強く噛み締め、応える。
「俺の緑の支配者で作った植物は特別製でな~~~」
「人を喰えば喰う程成長するんだよォォ~~」
「10人喰えばC級、20人喰えばB級、30人喰えばA級の冒険者程度の戦闘力を持つ。」
「幸いなことにこの街は人がたくさんだァ~~~」
「食事には困らねぇだろ―――?」
「おたくらがどれだけ強いか知れねェが、A級冒険者が何十人もいるようには見えねぇ」
「対してこっちは100を超える種蒔いてんだよォ~~~!!」
「全滅すんのも時間の問題だろうなァ!!ええっ!?」
下衆な声で笑い続けるアルバック―――
「クッ・・・この外道がァ!!」
「さぁ―――、テメェと遊ぶのもこれで最後だァ!!」
「永遠の眠りに就いちまえよォォ!!!」
アルバックは目にも止まらぬスピードでグランに棘の鞭を打ち続けた。
ク・・・ソ・・・このままではッ・・・・!!
グランは死を覚悟した
我はまた守れないのか・・・!!
そして、悔やんだ。
自分の弱さを―――
我の命はどうなってもいい―――、それでもこの街の人たちの命は助けてほしい・・・
そして、願った―――、願わくば自分を犠牲にしてでも誰かの助けになることを。
あぁ・・・運命は何て残酷なのか・・・
その願いは叶う―――
でも、それを叶えるのは決して神様なんかじゃない―――
その願いを叶えるのは人間―――、それも飛びっきり弱い"最弱"の『弱者男性』。
「グランさんーーーッ!!」
一枚の空飛ぶ絨毯から二人は飛び降りた。
「き・・・君たちは・・・!?」
グランは驚いた表情を浮かべる―――
「誰だァ~~~テメェ等は!!」
ボロボロのローブに身を包んだみすぼらしい二人組。
流浪の旅人?
アルバックは少し警戒した。
空飛ぶ絨毯など聞いたこともないアイテムを持っていたことで只者ではないと確信する。
「いやーーー、ボクって、怒りとか悲しみとか嬉しさ?っていうのがいつからか感じなくなっちゃったんだけど、何でだろう?」
「ちょっと、驚いてる―――」
「はぁ?」
アルバックは睨みつける。その意味の分からないことを言いだした愚か者を。
「死なないように―――、自分が愉しむ為に誰かを苦しめようとただ痛めつけている人間に対して、ちょっとイラっとした自分に驚いている。うん―――」
男はローブのフードを手に掛け、顔を露にした。
最弱のダウナー ミナスがこの街を救う―――
ただ、淡々と冷酷にそして、残酷に―――
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