第6話
家から近いと言っても、少し離れている花凛の家に着き、俺はようやく足手まといな自転車から解放され、一息つけていた。
乗ると楽なものに足を引っ張られるとは朝には思ってもいなかった…。
学校に置いてきても良かったが、自転車がないと明日困るし、また学校に取りに行くのは怠すぎる。
鍵を開け花凛は、玄関の戸を引いた。
「ただいま〜」
それに続くように俺も中に入る。
「お邪魔しまーす」
久しぶりに遊びに来たが昔と変わらない。
そう、昔から玄関に置いてある小さいカエルの置物が慧を出迎えた。
「…………。今日お袋さんは?」
「え?ああ、確か用事があるから、夜遅くなるんだって、?」
「そう…。久々だから挨拶でもって思ったんだけどなぁ〜」
「今日、パパも遅くなるみたいだから少し寂しかったの?」
「そ、そうか。それならよかった…。」
親無しだと、変な気まずさが出てくる。
くるんじゃなかった。と、もしかしたら…。と、言う期待が入り混じる。
そんな、もしかしたら何て事は起きないと、自分に言い聞かせ、慧は脱いだ靴を整えて花凛の後ろを歩き二階にある花凛の部屋に入った。
花凛の部屋もあまり変わっていなかった。
ベッド、テーブル、本棚と…、一つ変わったとすれば、部屋が片付いている事だった。
俺はいつもの位置、ベットとテーブルの間に座り鞄から筆記用具と今日出た課題をテーブルに並べた。
それに続くように花凛も増えた課題を机に盛る。
「こんなにあるのか〜」
その量を見たら帰りたくなるほどだった。
「ねぇ〜、慧…」
そんな、泣きそうな声と顔をされても困る。
「えっと〜、なになに?」
俺はホチキスで止められたプリント類を一つずつ目を通す。
「まずは数学のプリント1.2.3.…7枚と、国語が5枚、英語が8枚、地理が4枚、後は、化学が6枚と、作文用紙3枚…。
結構あるな」
ため息を吐きながら、束にしたプリントをペラペラめくる。
そこで俺はある事に気づいた。
「これさ、授業でやったプリントじゃね?」
「………え?」
「え?じゃなくて、」
俺は鞄のに入っているファイルを取り出して開いて見せる。そこには最近やったであろう一文一句同じ内容のプリントが挟まっていた。
「この調子だと他のも…」
案の定他のプリントも全く同じだった。
「あのさー。見覚えあるなーとか思わなかったの?」
「…………。いや〜。わからなかったかなぁ〜」
「じゃあ俺、要らなくね?プリント持ってんでしょ」
「………………。」
花凛は慧からスーッと目を逸らした。
ここは厳しく行こう。
「持ってるなら安心した。じゃあ俺、帰るわぁ〜」
少し演技臭く自分の課題が入っていない鞄を肩にかけ立ち上がる。
「あぁぁぁ〜〜、行かないでぇ〜〜。
プリント多分全部ないし、あったとしても白紙だよぉぉ〜」
慧の腰に泣きつき慧の帰宅を阻止する。
そんな花凛の目には涙すら浮かび上がっていた。
「わかった。わかったから一回離せ。」
「いーや〜。そう言って絶対帰るもん。
手伝ってくれるまで絶対話さないぃ〜」
さっきよりも締め付けが強くなっている。
しかも鼻水が……。
「だ、か、ら、わかった。わかったから!手伝うから!離れないと座れないだろ!」
鼻水が付かないよう花凛の頭を外側に押す。
「ほんど?」
「ああ、本当だよ」
締め付けがだんだん緩くなる。
「ほんどに本当?」
「ほ、ん、と!」
これで鼻水を回避でき…。
「ありがと〜慧〜」
花凛はそう言い慧のズボンに顔を擦りつけた。
声にならない悲鳴をあげたのは言うまでもない。