プロローグ
俺の悪いところはすぐに有頂天になるところだ。
そんなことは学生の頃から自覚していた――つもりだった。
村上秀悟と書かれた最後の給与明細。
中途半端な会社に勤続三年では退職金は微々たるものだった。
それなりに頑張って就活して入ったわけだけど、営業成績が上がり始めて調子に乗っていたのが良くなかった。
いつの間にか先輩方の反感を買うようになり、最後は人員削減のターゲットにされてしまった。
いや、もういい……どうにもならないんだ。
三流私大の心理学部出にしてはよく頑張った。
そんなこんなで、負け犬気分を味わった俺は大学院に入り直して臨床心理士の資格を取ろうと思い立ったわけである。人生の軌道修正をかけて。
まあ、手に職つけようにもゼロからやり始めるには時間とコストがかかるし、心理学の授業はわりと面白かったから。
そんなある晩、看護師をしている姉から電話があった。
「あんたさあ、ボランティアに興味ない?」
「……ボランティア? えっ、何の?」
それは唐突な話題だった。
「看護学校の同期が勤めてるクリニックで、手伝いを募集してるんだってさ」
「手伝いだって? 何だかずいぶん曖昧だな」
言外に押しつけがましいニュアンスを感じた。
「ニート満喫してるぐらいなら、世間に奉仕しなさいよ。それに臨床心理士になるつもりなら、心療内科に出入りするのは勉強になるんじゃない?」
「うーん、わかった。それじゃあ、クリニックの名前と連絡先おしえてよ」
この一本の電話から、俺はメンタルクリニックという名のカオスに足を踏み入れることになった。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
人生経験を元にした架空のストーリーです。