078 クサンティペの最後
そしてパラケルスさんがクサンティペを抑えつつ、3番めの議題に入る。
「監督者は無意味な発言を控えてください。
さて本日3番目の議案になります。
それは監督者を罷免し、その役職自体を消滅させる事です」
その議案にクサンティペが目を剥く。
「・・・なん・・・ですって?」
「これに関して意見がある方はいますか?」
即座にクサンティペが声を張り上げる。
「大有りよ!監督者をなくすなんてとんでもない!
市民の民意を代弁する者がいなくなってどうするの?」
その声に対して、レオンが嘲笑するように答える。
「はっ!市民の民意を代表するだって?あきれるね?」
「レオンハルト評議員は発言を求めてから意見を述べてください」
「では評議長、意見を述べます」
「どうぞ、レオンハルト評議員」
「監督者がこの7年やってきた事で、メディシナーの利益になった事は何もありません。
そう、一つもありません、一つもです!
このような役職は不要、
そして医療活動を何もしなかった現監督者は罷免されて当然と考えます」
「・・このっ!小僧が!」
「監督者は不穏な発言をやめてください。
それでは票決に移ります。
この案に賛成する方は挙手してください」
またもや全員の手が上がり、クサンティペが叫びを上げる。
「一体、どういう事!」
「満場一致により、本日現時点で監督者は罷免され、監督者の役職は本評議会の終了後、消失します。
なお元監督者の本会議の見学は許可しますが、今後発言は許されません」
「そんな・・・馬鹿な!」
あっさりと監督者と言う役職を奪われ、あまつさえ、発言権すらなくされて、ワナワナと震えるクサンティペを無視して評議が続けられる。
「それでは本日最後の議題です。
これは元監督者の過去7年における資金横領、脅迫、権限逸脱行為による犯罪行為の認定と、その求刑に関する物です」
その議題にクサンティペが固まって声を絞り出す。
「なん・・・です・・って?」
「これに関して意見は?」
「議長!」
「レオニー評議員、どうぞ」
「今回、私はこの件に関して様々な証拠を集め、資料として評議員の皆様に御用意いたしました。
まずはざっと御覧ください」
配られた資料には、PTM抽選券の金貨の売上金を初めとして、クサンティペがいかに資金を横領し、職員たちを脅迫し、横暴な事をしていたかの証拠や証言が事細かくのっていた。
それはレオニーさんがこつこつと調べ上げ、ここ一ヶ月でハインリヒが集めた証拠と証人の数々だった。
それを読んだ評議員たちからうめき声があがる。
「これはひどい・・・」
「まさか、ここまでしていたとは・・・」
「何と言う横暴・・・」
評議員たちが動揺する中、レオニーさんがさらに話を進める。
「あまつさえ、この人物は次期メディシナー当主たる、そこにいるレオンハルト・メディシナーの暗殺さえ謀りました。
これは明らかな殺人未遂です。
この一連の行動に関して、もはや言い逃れは出来ません」
そのレオニーさんの告発に評議委員たちが驚くが、クサンティペは大声をあげて否定する。
「嘘よ!私がその小僧を暗殺しようとしたなんて!
証拠は?証拠はあるの?」
わめきたてるクサンティペに、レオンがやんわりと答える。
「証拠はないが、証人なら居るぜ?
評議長、証人の入場を求めます」
レオンの言葉に従い、パラケルスさんが証人の入場を許可する。
「証人の入場を認めます」
入場の許可と共に、ハインリヒが入ってくる。
ハインリヒの顔を見た瞬間に、クサンティペの顔色がサッと変わる。
そしてハインリヒは、クサンティペを糾弾し始める。
「私はそこの女に直接頼まれて、そちらにいるレオンハルト・メディシナーの暗殺を命じられました。
間違いありません」
「嘘よ!私はこんな奴は知らないわ!」
「いい加減にしな、俺もあんたが俺の妹をPTMで本当に救う気があったなら、ここまでする気はなかった。
しかし、あんたは俺を騙したんだ。
その報いだと思って観念しな」
そのハインリヒの言葉にクサンティペが金切り声を上げる。
「あんたにはちゃんとPTMの券を3枚もあげたじゃないの!
それで問題はないでしょ!」
「俺が約束したのはPTMを施術する事だ。
抽選券をもらう約束だった訳じゃねえ。
だいたい、券を貰ったって、抽選にはずれりゃそれまでじゃないか?」
「あんたごときが私に頼んでPTMを使わせてもらおうってのが、ずうずうしいのよ!」
「・・・という事です。評議長」
そのレオンの言葉にパラケルスさんがうなずく。
「承知しました」
「え?」
「クサンティペ監督者、あなたは先ほどこの男を知らないと言った。
しかし、その男にPTMの券をあげたと言うのはどういう事ですか?」
「くっ・・・それは・・・」
自らの発言で墓穴を掘ったクサンティペが返事に窮する。
「しかもPTMを施術する約束までしていたとはどういう事か?
もちろん、その事に関して答えていただけますね?」
当然の事ながらPTMの施術はここメディシナーでは一個人の気分で決められるような事ではない。
ましてや勝手に報酬代わりにそれを約束する事など論外だ。
そのような事をすれば、その事自体が重大な違反行為となる。
パラケルスが質問し、回答を待つが、クサンティペは答えられない。
「答えがないと言う事は、この証人の言っている事が事実として、当評議会は認めます」
そのパラケルスさんの言葉に、あわててクサンティペが抗議する。
「待ちなさい!
こんな正体不明な男の言う事を信じて、メディシナー当主の妻で、ボイド家に連なる私のいう事を信じられないと言うの?」
「証言は事実と整合性によって決まります。
身分で決まる物ではありません。
あなたはこの事に関して、筋の通った説明が出来るのですか?
それならば我々もあなたの話を信じましょう。
さあ、どうぞ話してください」
「そ、それは・・・」
パラケルスに促されて、クサンティペは何とか説明をしようとするが、事ここに至っては、混乱のあまり、ごまかす言葉も思いつかないようだ。
「どうやらこの件に関しての説明が出来ないようですね?
では当評議会はこの証人を認めます。
レオニー評議員、続きをどうぞ」
パラケルスさんに促されて、レオニーさんが発言を再開する。
「はい、以上の証拠と証人により、私は元監督者に死刑を求めます。
それも本日即日の刑です!」
これこそが俺たちが前日に相談して決定した事だった。
メディシナーを混乱に落としいれ、議会を好き勝手に専横し、あまつさえ次期当主たる者の暗殺まで画策した者にはこれ以外の選択肢はないと。
百叩きなど意味がないし、罰金も全く意味がない。
例え犯罪奴隷に落としたとしても、侯爵家から抗議が来て、うやむやにされかねない。
幽閉や島流しも当然、意味はない。
なまじ影響力が大きいだけに、最初から取る方法は限られていたのだ。
しかし、その言葉に当然の事ながらクサンティペが叫び声を上げる。
「この小娘がっ!一体何様のつもりなの!」
「元監督者は発言を控えてください。
あなたにはすでに発言権はありません。
これ以上発言すれば、議会場から退出していただきます。
警備員!」
最高議長たるパラケルスさんが警備員を呼ぶと、サッと屈強な警備員たちがクサンティペの後ろに数人立ち、身構える。
「くっ!」
これにより、さすがのクサンティペも発言を抑えるようになった。
「それでは本件の議決を行います。
まずは罪状の認定に関してです。
元監督者クサンティペ・メディシナーの、この罪状を認定しますか?」
またもや全員の手が上がり、満場一致で可決する。
「満場一致で認定されました。
続いてこの罪状に対しての求刑に関して意見はありますか?」
即座にレオニーさんが意見を述べる。
「さきほども述べた通り、私は本日即刻の死刑を求めます。
即時死刑にしなければ、この人物は今日にでもあちこちに働きかけ、自らの死刑を無効にしようとするでしょう。
そして時間が経てば経つほど死刑の執行は難しくなるでしょう。
また、勇気を振り絞り、名乗りを挙げてくれた証言者や被害者たちにも何をするかわかりません。
そのためにも本会議終了後、即刻の死刑を求めます。
そしてこの7年間に彼女がしてきた事は、そうなる事が当然の帰結と考えます」
レオニーさんの淡々とした弾劾に、クサンティペは青ざめてガタガタと震え始める。
今まではこのメディシナーでは曲がりなりにも全てが自分の思うがままになってきた。
しかし今回は流石にこのままでは自分の身が危ないと実感し始めたのだろう。
続いてレオン、エレノア、俺がレオニーさんに賛同する。
「私はさらに監督者の私的財産全没収の上で、即日死刑を求めます。
その不当に私腹を肥やした財産を取り上げ、彼女が理不尽な行為をした社会に対して還元すべきだと考えます」
「私もその案に賛成です。
他の事も当然ですが、メディシナー家次期当主を暗殺する計画など許せる物ではありません。
その一点だけでも死刑求刑は当然と判断します」
「私もです。
この人物に情状酌量の余地は全く存在しないと判断します」
一通り意見が出揃うと、パラケルスさんが全員に尋ねる。
「全財産没収、即日死刑以外の求刑はありませんか?」
パラケルスさんの質問に誰も答えない。
「では全財産没収の上、即日死刑を求刑として、賛同者は挙手を願います」
全員の手が上がった。
これでクサンティペの即日死刑は決まった。
「では元監督者クサンティペ・メディシナーは本日これより全財産没収の上、即刻死刑となります。
警備員は罪人を連行し死刑室に行くように、執行官には即刻死刑執行を命じます。
書記官は書類を直ちに作成し、死刑執行室に持っていくように。
死刑は書類が作成され、到着次第、直ちに行うように!
遅滞は許されません」
ここまで来ると、それまでは、あまりに突然の展開に呆然としていたクサンティペが、かなきり声を上げる。
「あんたたち!気でも狂ったの?
私の全財産を没収する?
ましてや私を死刑にするなんて本気なの?
私はボイド侯爵家の一族なのよ!
それを死刑にするなんて許されると思っているの!」
狂ったように叫ぶクサンティペを警備員たちが取り押さえ、連行する。
「やめなさい!離しなさい!
この下衆が!私の肌に触るな!
私を誰だと思っている!
貴様らのような下賎な連中が触れる事が出来るとでも思っているのか!
小娘!小僧!取り消せ!
こんな決定は無効だ!
あなた!プラトス!クリトン!今すぐ無効の判決を!
これは罠よ!誰かが私を陥れようとしているのよ!」
しかし、誰もそのクサンティペの叫びには答えない。
暴れるクサンティペを押さえつけながら部屋から連れだす警備員たち。
バタンと扉は閉められ、クサンティペは部屋の外へ連れ出された。
扉の外でもクサンティペは叫び、暴れた様子だが、その声も段々と遠くなっていき、やがて聞こえなくなった。
再び評議会室が静かになると、パラケルスさんが話し始める。
「さて、これで本日の案件は、全て終了しましたが、私より、緊急動議を提案します」
え?緊急動議?何だろう?
そんな話は聞いていない。
俺が不思議がっていると、パラケルスさんが厳かに話し始める。




