063 エレノアの語るメディシナーの歴史 2
「ようやく平和になったメディシナーで、ガレノスと3人の弟子たちは、治療を続けましたが、戦争前にも増して押し寄せてくる患者たちを、とてもその全員を救う事などできませんでした。
ほどなくガレノスは過労で倒れ、そのまま帰らぬ人となりました。
もちろん、3人の弟子はガレノスが倒れる度にPTMで治しましたが、それすら追いつかないほどにガレノスの体は蝕まれていたのです。
そしてついにある日、あまりの過労のためにガレノスは亡くなりました。
弟子たちが気づいた時にはもう息がなかったのです。
いくらPTMでも死者は治せません。
3人の弟子たちは嘆き悲しみました」
ここまで聞いて俺は恐ろしい話だと思った。
人を治すための術を開発した人が、その術のために死ぬ・・・ありえない事だと思った。
「死の直前にガレノスは遺言を書いてありました。
その遺言状には自分が死んだ後の事が書かれていました。
決して自分のようにむちゃをして倒れないようにする事、
人々に公平に治療するための事を考える事・・・」
「公平に治療を?」
「はい、後の世に「ガレノス三高弟」と言われた、その3人の弟子たちは、魔法協会と連携して、医療統一規則を作りました。
ガレノスは後進のために診察の仕方の指針をしたためてあったのです」
「一番の基本はどんな魔法力がある術者でも1日3回より多くは、PTMは行わない事、もっとも大抵の魔道士はPTMを一日にせいぜい1回か2回しか使えませんでした。
3回以上出来る者は稀です。
そして1週間の間隔である事を繰り返して治療する事です。
まず1日目の一回目は競りで患者を決めること」
「競りで?」
「はい、これによってまず、金に糸目はつけないという連中が除けます。
そうしないと金持ちという人種は自分だけが特別だという錯覚から現実に立ち向かいません」
「ああ、なるほど」
「そしてこの競りによって「いくらでも金は出すから早くしてくれ」という人間を大方排除できます。
競りは金貨千枚から始まり、大抵は二千枚前後で落札されますが、場合によっては金貨1万枚を超える事もありました」
「そんなに!」
「はい、競りには資産家の見栄をくすぐる機能もあったのです。
つまり自分はこれほどの金額でPTMを競り落としたのだと自慢するための」
「なるほどね」
初鰹やマグロの初競りの御祝儀相場自慢みたいなものか?
「また、金貨一万枚を越えた頃から、競りで過去の最高額を凌いだ額をつけた場合は、特典として、無条件でもう一回、PTMを受ける権利と、医療協会の感謝賞状をつけたのも効果的だったようです」
「ははあ・・・」
なるほど、そうすれば金持ちたちは世間に自慢できるし、魔法協会は運営資金を調達できるから万々歳って事か?
「はい、そして2番目の患者は魔法協会で相談した結果、選ばれた者が治療される事になりました。
つまり権力者や為政者、業界の大立者などです。
これは必要な事でした。
こうした者たちは何とか自分の権力やコネを使って、枠の中に入ろうとする者です。
しかし最初からその枠があれば、そこに入ろうとするし、断る方も断りやすいので、必要悪といった所です」
「なるほど」
確かにそうだ。
そういった輩はきりがない。
どうしても自分を優先させようとするだろう。
さもないとゴロウザのように脅迫や脅しをかけてくる。
しかし最初からそういう枠を作って、他の権力者たちすらその枠に入っているのなら大方の人間はあきらめるだろう。
もちろん、それでもあきらめない人間はいるだろうが、かなり緩和はするはずだ。
「そして1日目の最後は抽選枠です」
「抽選?」
「はい、完全治療魔法を受ける権利のクジを銀貨1枚で買って、それに当たった者が治療を受けられます。
そのクジは「PTM抽選券」と言われています」
「それは確かに公平だと思うけど、そのクジは外れたらただの紙なんでしょ?」
「ええ、そうです」
「それでも1枚に銀貨1枚を払うんだ?」
「実は、最初は無料にしていたのですが、そうしないと一人で何枚もクジをもらおうとする人間が続出したのです」
「ああ、なるほど」
「銀貨1枚にしてもクジを大量に買う者がいたので、クジをもっと高くしようと言った者もいたぐらいでしたが、さすがにそれはしませんでした」
「なるほど」
それだと庶民が買えなくなっちゃって、治療が無理になるもんな。
確かに銀貨1枚位が、妥当な金額だろう。
「そして、2日目は治療代が金貨千枚、百枚、十枚の日です。
これで金持ちたちはある程度満足しますし、これと競りによって、運営費もかなり潤沢になります。
当然ながら金額が高いほど、待ち日数が少なくなります。
何しろそれでも予約が殺到した位ですから」
「うん」
「そして3日目は無料治療の日です」
「無料?」
「ええ、ガレノスの本来の目的は庶民万民の治療でしたから」
「ああ、そうか、でもそれじゃ・・・」
「はい、その通りです。無料の日には患者が殺到し、予約で一杯です。
あまりにも予約が多く、一番予約が多かった頃には、最後にかかる人間は十年以上先になったほどです」
「そんなに!」
「4日目は往診の日です。
メディシナーに来れない患者のために、往診します」
「往診もしたんだ?」
「ええ、重篤な患者は、メディシナーまで来れませんからね。
もっともさすがにそれほど遠い場所へは行けませんが・・・
これは1日目の競りから3日目の無料の日までの患者の中で、PTMの順番となった遠距離の者の所に行きました」
「なるほど、そういう事か」
それにしても、そんな遠距離の患者までPTMで治しに行くとは大変だ。
「そして5日目は講義の日です。
後進を育てなければいけませんからね」
「それは確かに」
「6日目は自由日です。
自分のための修行をしても良いし、治療をしても構いませんし、何をしても構いません。本人の自由です。
そして最後の7日目は安息日です。
この日はよほどの事がない限り、PTMを使って、患者を治す事はしません。
絶対に体を休めるように決められています」
「よほどの事って、どういう場合?」
「PTM術者自体、もしくはそれに準ずる高位魔法治療士が、何らかの理由で命が危なくなった場合です」
「ああ、なるほど」
そりゃ、それが使える人が死んじゃったら困るもんな。
それを優先して治すのは当然だ。
「この1週間の循環によってPTMは運営されているのです。
ちなみにメディシナー以外にPTMを公式に行っている場所は、帝都アムダルンと魔道都市マジェストンだけですが、どちらでも基本的にはこの方法を遵守しています」
「なるほどねぇ」
この話を聞いて俺は納得した。
確かにこの方法を遵守すれば、完璧とは言わないまでも、かなりPTMを受ける権利や順番の混乱は緩和されるだろう。
そして自分はますます馬鹿だったと痛感した。




