393 イライジャ・ラーガンの襲撃
デフォードやシャルルたちがあちこちで噂をばらまいて、我々が白狼族の村で着々と防衛を固めていた頃、ラーガン伯爵領でも動きがあった。
部下から白狼族の村の話を聞いたラーガン伯爵の長男であるイライジャ・ラーガンが驚く。
「何?あの獣人どもの村が防備を固めている?」
「ええ、そのようです。
散り散りになっていた者たちが集まり、再び村として再興するつもりのようです。
しかも今度はどんな敵が襲って来ても問題ない。
来れば返り討ちで、相手は後悔して帰る事になるだろうと吹聴しているようです。
そして居酒屋で若様直属の部下を叩きのめして帰って行ったそうです。
しかも、そのう・・・」
「何だ?どうした?」
「そのう・・・実はどんな貴族の馬鹿息子が来ても返り討ちだと吹聴しているようです。
そして領内では、その馬鹿息子というのがイライジャ様の事だと噂されておりまして・・・」
途端にイライジャが大声を上げる。
「何だと?何故それを早く言わん!
ええい!しゃらくさい!
以前あれほど痛い目に合わせてやったのにそんな事を始めるとは・・・
そもそもそんな程度で我々を防げると思うとは片腹痛い。
しかもどんな相手でも返り討ちだと?
我らを舐めきっているな?
ええい!これで我等があの村を放っておけば、世間では我々が本当にあの村を恐れていると思うではないか!
では奴らの望み通り、もう一度行って蹴散らしてくれよう!
奴等は一体今どれ位いるのだ?」
「はい、散り散りになった者たちが戻って来たとはいえ、以前の半分もおりません。
おそらくは全部でも60人はいるかどうかといった所かと・・・
それと話によると、現在は復興を手伝っている旅の行商人のような連中がいるようですな」
その答えにイライジャはあきれ返る。
「何?たったそれだけでそんな大口を叩いているのか?
やはり獣人どもは馬鹿だな!
そもそも前回とて、あの異様に強い獣人一人と、途中で変な灰色の猫さえ出てこなければ奴らを全滅できたのだ!
それをまるで実力で我らを撃退したかのように勘違いしよって・・・」
「御意」
「しかもそのような復興をするとは、何か新しい財源でも出来たのか?」
不思議そうに尋ねるイライジャに副官が答える。
「はい、部下の話によりますと、彼の村の者は大金を手にして金貨を湯水のように使えると吹聴しているそうです。
実際に居酒屋でも金貨数枚を支払い、しかも釣りを求めなかったそうです」
「ふむ・・・流れの者を雇って復興をしている事と言い、居酒屋でそんな支払いをする事と言い、どうやら本当に何か大金を掴んだようだな?
ならば余計に都合が良い。
その大金、我等がもらうとしよう。
では奴らがつまらん事にその金を使いきらないうちに、急いで攻めなければな。
奴等は確かに少人数なのだな?」
「はっ!流れの者を数に入れても間違いなく人数は80人にも満たないかと・・・」
「うむ、その程度なら一捻りだ。
前回より手間も掛からないだろう。
あの獣人は死んだし、まさかまたあの変な灰色の猫が出て来ると言う事もないだろうからな!
大した数も用意も必要ないだろうから私の直属兵だけで十分だろう。
明日にでも出発するぞ。
全員に通達して用意しておけ」
「承知いたしました」
そしてその時、たまたまそばにいた妹のニーリャも同行を求める。
「お兄様、面白そうですわ!
私も連れて行ってくださいな」
「良かろう、ニーリャ、だがあの村は少々遠い。
途中で一泊、野営する事になるが、大丈夫なのか?」
「あら、その程度大丈夫ですわ!
私、一泊くらいでしたら馬車の中で寝るのも問題ありませんわよ?
でもその村で金貨を手に入れたら私にも分けてくださいましね?」
「やれやれ、目的はそれか?
まあ良い、それではついて来るが良い」
「ええ」
こうしてハーベイ村でも一応の防衛準備が出来上がった所へ、ラーガン伯爵領から敵が攻めてきた。
いや、攻めて来たと言うのは少々語弊がある。
相手としてはごく普通の狩りの延長のような物で、村を攻めるなどという感覚はなかっただろう。
そう、それは少々大規模な狩りの程度の感覚だ。
しかも目的地には金貨の山があるとの噂つきだ。
敵は騎馬数十騎を中心とした200人ほどで、指揮官は領主であるラーガン伯爵の息子のイライジャと娘のニーリャ、そして将軍のボブソンだった。
彼らはせいぜいの所、ちょっとしたピクニック気分だった。
事実ニーリャなどは、自分専用の外出用の馬車で見物がてらにやって来たほどだった。
そして噂には尾鰭がつき、兵士たちの間では、目的地に到着すれば、各自が金貨を取り放題らしいとまで噂が膨らんでいた。
しかし襲撃隊であるラーガン伯爵領のイライジャ部隊は、白狼族の村の様子を見て少々驚いていた。
思ったよりも防備が固めてあるからだ。
その集団の実質的な指揮官であるボブソン将軍が驚いた様子で話す。
「これは・・・!イライジャ様、あの村に柵が出来ておりますぞ?」
「ほう?確かに聞いた通り、以前とは違うな?
馬鹿獣人どもも、少しは頭が働いたのか?」
「それに空堀が掘られて、土塁も積まれております。
まだ正面だけですが、煉瓦で多少強化もしてあるようですな」
「ふん?獣人にしては賢いじゃないか?」
「ふふふ、お兄様?そんな物、蹴散らしてあげましょう」
「もちろんだ。
あんな物、村の中に入れば、むしろあいつらの逃げ場がなくなる。
やはり獣人は馬鹿だな。
おい!入口に兵を10人ばかり残しておけ!
奴らが外へ逃げられないようにな」
「さようですな。入口に橋があるようですが、ちょうど今は掛かっております。
これはまさに今が攻め時かと」
「その通りだ!
あんな跳ね橋を作っておきながら上げておかないとは、やはり獣人は馬鹿だ。
敵が入り放題ではないか?
どうやら物を作るだけ作っても、それを使えるだけの頭がないようだ。
さあ!馬鹿な獣人どもに対してこのまま突撃だ!」
「「「「 お~う! 」」」」
そう言ってイライジャたちは白狼族の村へ向かって馬で駆け出した。
村へ向かって来た襲撃隊を見て俺は指示をした。
「よし!予想通りだ!
いきなり村の中へ入ってくるぞ!
訓練の通り、誘導しろ!」
「おお~!」
俺たちは入口の跳ね橋も上げず、連中が勢いよく進軍してきても、何も抵抗をせずに村への進入を許した。
実際には西門と南門の跳ね橋は上げてあり、開いていたのは東門だけだったのだが、襲撃隊はそれには気付かず、特に不思議とも思わずに勢いよく進んでくる。
ニーリャも馬車を降りて自ら馬に乗り、兄たちを追いかける。
しかし村の中へ入って来た襲撃隊はそこで初めて驚いた。
「これは・・・!」
村の入口から入った部分は広い広場となっていた。
しかしその先にはズラリと太い木材を柱のように地中深く打ってあり、その間隔は一見広いようには見えるが、その隙間は馬や人では簡単に通りぬけられる物ではなかった。
もし無理に通り抜けようとすれば、相手にそこを攻撃されるのは目に見えている。
そしてそれは誘導路のようになっており、一定の方向へしか進めないようになっていたのだ。
しかもその木の杭の林の向こう側では、何やら獣人たちと、怪しげな灰色の衣装の連中がこちらを見ながらにやにやと笑ってる。
俺は村に進入して来たイライジャたちに話しかける。
「どうした!
お前たち?ここへ何をしに来たんだ?」
「ぬうっ?貴様、何奴?」
「俺はここの村の復興を手伝いに来た「雲の旅団」の1号と言う者だ!
よく覚えておけ!」
そして俺の横にいるゾンデルが、俺の預けた宝箱を開けて、そこに入っている金貨を見せて、わざとらしくその金貨をジャラジャラと手にとって見せる。
「はっはー!何しろ見ての通り、この村には溢れるほど金貨があるもんでね?
この人たちを復興の手助けと用心棒に雇ったのさ!」
そしてそう言うゾンデルの横には山のように宝箱が積まれていた。
もっともその中身が全て空だという事は、イライジャたちには知る由もなかった。
だがその宝箱の山を見たニーリャが興奮して前に出て兄に話しかける。
「お兄様!あれは!」
「おう、この村に金貨が山ほどあるという話はどうやら本当だったようだな?」
「早速アレをいただきましょう!」
「もちろんだ!」
そんな襲撃軍に俺が再び話しかける。
「はっはっは・・・どうした?
何をそんな所でこまねいているんだ?
臆病で無能なお前たちでは、迷路になっているこの村の中までは入ってこれないか?
まあもし、お前たちがここまで来れたら金貨の1枚位はめぐんでやってもいいぞ?」
その言葉にイライジャが猛り狂う。
「ぬうっ!無礼な!」
「お兄様!あんな奴ら蹴散らしましょう!」
「おう!ニーリャ!続け!」
「はいっ!」
そう言って騎馬のまま進んだイライジャとニーリャたちだったが、その誘導路は村の土塁の内側に沿って作られていて先が長そうだった。
しかし少々驚いたものの、襲撃者たちはさほどあわててはいなかった。
「構わぬ!このまま道なりに突き進め!
こいつらとて村の外へ出るにはここを通っているはずだ!
ならばこの先は村の内部へ通じているはず!
こいつらの数は少ない!
どうせ村の中へ入ってしまえば、こちらの物だ!
このまま進めば村の中へ入れるだろう!
そうすればあの金貨の山は取り放題だぞ!」
「おお~~~っ!!!」
そう言ってイライジャを先頭に金貨に目が眩んだ襲撃隊は誘導路に沿って進む。
しかし騎馬が進めども進めども村の中へは入れなかった!
その迷路のような道は一本道ではあったが、広い村の土塁に沿って外周を一周したかと思うと、空しく出発地点の少々内側へ戻って来ただけだった。
しかもいつの間にか、先頭の十騎ばかりを除き、後続の200人近くは全て途中で丸太によって、行き先を阻まれて分断されて立ち往生をしていたのだ!
「むむっ!小癪なマネを・・・」
一緒にいた将軍は相手の策に乗ってしまった事を理解したが、イライジャはそれを理解しなかった。
「ええ~い!かかれ!」
イライジャの命令により、先頭の10騎ほどは村の中まで飛び込んできたが、この程度の数では所詮白狼族の敵ではない。
村人たちは俺の指示で先を丸めた木の棒で騎馬に乗った兵士たちを突き落とす!
「げふっ!」
「ごはっ!」
「あがっ!」
瞬く間にイライジャたちは馬から落とされる。
しかし馬から落とされたイライジャはまだ強気だ!
「まだだ!たかが騎馬をやられただけだっ!」
そうわめくイライジャをあっさりと俺たちは捕縛する。
「あっ、そう?」
金貨に目がくらんでイライジャと一緒にいたニーリャも、疾風にあっさりと捕まり、縄で縛られる。
しかし、捕縛され明らかに捕虜となってもイライジャとニーリャは強気だった。
「貴様ら!こんな事をしてただで済むと思っているのか!」
「そうよ!私達を誰だと思っているの!」
この二人はまだ遊びの延長の感覚で、自分たちがどうにかなるなど、考えてもみないのだ!
この期に及んでもまだ不遜な態度を取るイライジャとニーリャの顔に、灰色装束で正体を隠している俺の平手打ちが容赦なくビシッ!バシッ!と音高く響く。
「うっ!」
「きゃあ!」
俺に平手打ちを喰らった二人は恨みがましい目でこちらを睨み、イライジャが激しく抗議をする。
「殴ったな!」
およ?そう来たか!
そういやこいつの声って、元祖ニュータイプな声に似ているなあ?
うん、じゃあ、それにはやはりこのセリフを返してあげよう。
「殴ってなぜ悪いか?
貴様はいい!そしてわめいていれば、気分も晴れるんだからな!」
そう言って俺はもう一回イライジャを殴る。
今度はグーだ!
「二度もぶった!父上にもぶたれた事ないのに!」
ああ、こいつ、いい返答を返してくれるなあ!
もちろん俺は御約束な言葉を返す。
「それが甘ったれなんだ!
殴られもせずに1人前になった奴がどこにいるものか?」
「覚えていろよ!父上に頼めば貴様らなんぞ・・・」
「そうよ!覚えてらっしゃい!」
あ、さすがにこれ以上はガ○ダムごっこをするのは無理か?
まあ、いいや。
俺は本来の会話を始める。
「お前たち!自分の今の状況をわかっていないようだな?
そんな事をほざいていられるのも今のうちだ。
おい、作戦通り、まずはこいつらを晒すぞ」
「はい、1号様」
怪しげな灰色のフードを被った俺たちは、俺から順番に1号、2号、3号と名乗っていた。
誰が村人に力を貸しているかわからなくするためだ。
事実、イライジャたちは何が何だかわからない様子だ。
そして村の住人も何人かは相手を混乱させるために同じ灰色装束を着せている。
どの道、外部からの協力を得ているのはばれるので、正体さえわからなければそれで良い。
俺は誘導路で立ち往生している残りの連中に指図をする。
「さあ、お前たち!あいつらの命が惜しければ馬を下りて、武器防具を捨てろ!」
そう言いながら俺はイライジャとニーリャの喉元に剣を突きつける。
伯爵の息子と娘を捕らえられて、指揮官まで捕虜となっていては嫌も応もない。
襲撃隊はその場で武器防具を捨てて、投降する。
しかしながら入口広場近辺にいた一部の者は逃げ去ったようだ。
それ以外の襲撃隊は尽く捕まり、明らかに雑魚だとわかる者は、身包みを剥がされて村から追い出された。
そしてあらかじめ作ってあった個別の部屋へ分けられた10人ほどの捕虜たちは俺たちの尋問を受ける事となる。
特にイライジャとニーリャには村人たちが激高した!
牢屋へ連れていく途中で、村人たちがイライジャたちに罵声を浴びせる。
「1号様!こんな奴ら!とっとと突き殺してしまいましょう!」
「そうだ!そうだ!」
「仲間の恨みを晴らしてやる!」
「とっとと首を切ってしまえ!」
「張り付けて火焙りにしてやれ!」
「いや、五体バラバラにしてラーガン伯爵に送りつけてやれ!」
「ひっ」
「そんな!」
村人たちの容赦ない言葉にイライジャとニーリャが青ざめる。
ようやく自分たちの置かれている立場を理解したようだ。
だがここで俺が一応止めに入る。
「まあ、待て、君達の言い分はわかるし、それももっともだ。
しかし今こいつらを殺しても多少溜飲が下がるだけで、仲間が戻って来るわけじゃない。
だけどこいつらにはまだ利用価値があるんだ。
私の言う通りにすれば仲間が数人は戻って来る可能性は高い。
だからこいつらの始末は私に任せてくれ!
いずれ殺すのは別に構わないが、ともかく今はダメだ!」
その俺の説明に村人たちは驚いて反応する。
「え?仲間が帰って来るんですか?」
「へえ?そいつぁ楽しみだ!」
「1号様にお任せします!」
俺たちの会話を聞いてイライジャたちは震え上がる。
「ま、待て!本当に我らを殺す気か?」
「さあな?それをこれから決めようって言うのさ」
こうなれば彼らの命は、まさに風前の灯だった。




