386 デフォードの報告書 1
俺はマジェストンでデフォードから送られてきた報告書を読んだ。
それによると、ミルキィたちの村を襲ったのは、アドレイユ王国のラーガン伯爵領の軍だったようだ。
俺はそこまで読んだ時点でかなり驚いた。
あれ?アドレイユ王国って、確かスチューの国だったよな?
そこの軍隊がミルキィの村を襲ったって事か?
しかし報告書を読み進めるとそういう訳でもないようだ。
アドレイユ王国はアムダール帝国の北東に位置する王国で、スチューの父親である現在の王は温厚で非常に良い王のようで、国自体も問題ない。
しかしその西端にあるラーガン伯爵領の領主であるラーガン伯爵は少々問題があるようだ。
暴君とまでは行かないが、かなり酷い政治をしているようだ。
アドレイユ王はそれも承知しているようだが、あまり地方政治に口を出す訳にも行かず、静観するに留まっているらしい。
何か事があればすぐさまに対応する姿勢は見せているが、伯爵の方でもそこまで馬鹿な事をしないので、手も出せないようだ。
そしてそこの領主の息子である、イライジャ・ラーガンという者が軍を率いて白狼族の村を襲ったようだ。
正確には軍ですらなく、そのラーガン伯爵の息子であるイライジャが気まぐれで300人ほどの私兵を出して白狼族の村を襲ったというのが正解らしい。
もちろんこれは許されない行為なのだが、親である伯爵は特にそれを咎めもせず、もちろん中央への報告などもしていない。
辺境での出来事な上に、個人の気まぐれで起こった事なので、周囲にも知られていない。
だからアドレイユ国王はミルキィの村が襲われた事など全く知らないのだ!
もし、知られていれば、何らかの処置をした可能性は高いようだ。
そしてミルキィの村は7割近くの村人が拉致と行方不明、もしくは死亡したようだが、3割ほどの村人が戻って、復興しているという。
ただし、またいつ誰に襲われるかもわからない。
しかも村の人々は何の対策も立てていないという。
このままでは極めて危険だという報告だ。
夏休みにロナバールに帰って来た俺は、デフォードを呼び出して実際に聞いてみた。
「すると、復興はしつつあるが、またいつ襲われるかもわからないという事だね?」
「ああ、そうだ。ありゃ明日にでも襲われても不思議はないな。
そして今度襲われたら、おそらく全滅するだろう。
何しろ何も考えてないんだからな」
「わかった」
報告書を読んで話を聞いた俺は、ある決意をしてミルキィ母子を呼んだ。
「ミルキィ、ミルファ、君達の村へ行こうと思う」
「え?」
「あの村へですか?」
「ああ、実はデフォードに調査を頼んでいたんだが、どうやら多少は復興しているようだ。
しかしまたいつ襲われるかもわからない。
しかもそれに対して何の対策も立てていないようだ。
そこで様子を見に行ってみたいんだ」
これが俺が夏休みの間に先に片付けておきたい案件だった。
店の方も大事だが、ミルキィの故郷が明日にでも襲われる可能性があるのでは放っておけない。
様子を見に行って、もし俺の力で何か出来る事があるならば、可能な限りしておきたいと思ったのだ。
そんな俺の言葉にミルキィ母子はうなずいて礼を言う。
「わかりました」
「わざわざありがとうございます」
「な~に、君達の故郷ならば、僕にとっても他人事じゃないからね。
ところで何か手土産でも持って行きたいんだが、何がいいかな?」
その俺の質問に二人は考え込む。
「そうですね・・・やはり食べ物でしょうか?」
「そうね・・・それとお酒辺りが喜ぶんじゃないかしら?
何しろ飲兵衛が多い割にあそこはお酒が少ないから」
「なるほど、それでどういった食べ物が良いのかな?」
「それはもう何でもですが・・・麦や小麦粉などが喜ばれると思います」
「え?そんなんでいいの?」
麦や小麦粉など、その辺でいくらでも売っている。
もちろん特に珍しい物でもない。
そんな普通の物で良いのだろうか?と俺が驚くとミルファが説明をする。
「ええ、日持ちもしますし、うちの村辺りでは小麦粉も結構な贅沢品なんですよ」
「それじゃ塩とか砂糖とかも、持って行った方が良いかな?」
「ああ、それはとても喜びますね!
特に砂糖や香辛料などは、うちの村ではかなりの贅沢品です」
「じゃあ、酒なんかも高級品よりも安いワインとかをたくさん持って行った方が喜ばれるかな?」
「ええ、その通りです。
高級酒なんて飲んだ事がないですから、その金額で安いワインを樽で持って行った方がよほど喜びますね」
「なるほどね、ではそうするか」
そういえば、前世で俺の父親が生きていた時に、誕生日に高級ブランデーを買ってやったら、「これはこれでありがたいが、俺は同じ金額なら、それで安い日本酒を5本買ってもらった方がありがたいやな」と言っていた・・・そんなもんか?
俺は二人に言われた通り、麦や小麦粉、塩、砂糖、香辛料などを100袋ほど詰めるとリンドバーグに載せた。
それと最近サクラ魔法食堂で売り出したパン専用の調合粉だ。
これは小麦粉に重曹や食塩、砂糖などを混合して作った物で、おいしいパンがふんわりと焼けると評判だ。
酒もそこそこな値段のワインとビールを樽ごと、各10樽ほど買って載せた。
ついでにオレンジジュースや葡萄ジュースも5樽ほど持っていく事にした。
「こんな所かな?」
「ええ、十分です」
「ありがとうございます。
みんな大喜びしますよ」
「な~に、せっかく二人の故郷へ行くんだ。
何か手土産がないと寂しいからね」
準備が出来ると俺はデフォードを誘う。
「デフォード、今回は君もついて来てくれ。
おそらく君にもあっちで頼む事があると思う」
「あいよ、大将。
何でも好きに使ってくんな」
「フレイジオとポリーナはどうする?」
他の連中と違って、この二人は俺の部下でも奴隷でもない。
単なる友人だ。
夏休みなので一緒にロナバールへ帰っては来たが、同行を強制する訳にもいかない。
俺は二人に意向を聞いてみた。
「そうだね?僕も一緒に行こうかな?」
「私もミルキィさんの故郷が見てみたいです」
「しかし、今回は場合によっては色々と面倒な事に巻き込まれるかも知れない。
それでも大丈夫かい?
いや、僕の予想ではかなりその確率が高い。
何しろ場合によっては、わざわざこっちから騒動を起こすつもりで行くからね」
「騒動?」
「ああ、場合によってはその伯爵とやらに、ちょいと手荒な挨拶をするつもりさ」
俺がそう言うとシャルルは笑って答える。
「ああ、大丈夫さ、むしろ何かあれば手伝いたいよ」
「私も何かお手伝いできる事があればしたいです」
「わかった。
では皆で向かおう」
こうして俺たちはミルキィたちの村へと向かった。
今回の人員は俺以外に、エレノア、シルビア、アンジュ、フレイジオ、ポリーナ、ペロン、豪雷、疾風、そしてミルキィとミルファだ。
ちなみにエトワールさんは一人でマジェストンに残っている。
夏休みの間に出来るだけ迷宮でレベルを上げておきたいというので、残ったのだ。
そしてエレノアが内弟子の全員にオリオン級ジャベックを二体ずつあげる事にしたので、そのジャベックを二体連れて迷宮で訓練をするそうだ。
ちなみにアンジュも正式に内弟子になったという事で、エレノアからジャベックを二体もらっている。
リンドバーグで村の近くに着陸した俺たちは外へ出た。
すぐそばには村が見える。
しかし村と他の場所との間には、明確な柵や堀等の境などはなく、何となくこの辺から村?という感じの集落だった。
「これがミルキィたちの村か・・・」
「ええ、私達は狼人族の村と言っております」
「他の場所から来た人たちは白狼族の村と言ってますね」
それでも村に近づくと、村人の狼獣人たちが、用心深く俺たちを呼び止める。
何しろ俺たちは大型飛行艇で空を飛んでやってきたのだ。
しかもこの村は一回襲撃された事もある。
用心するのも無理はない。
というか当然だろう。
「止まれ!お前たちは何者だ!」
村人らしい数人の獣人に誰何されて俺が答える。
「我々はこの村の関係者だ!
この村の復興を手伝いたくてやってきた」
「何だと?一体どういう事だ?」
相手は俺たちをいぶかしがって怪しむ。
まあ、当然だよな?
ここでミルキィとミルファが進み出る。
「皆さん、お久しぶりです」
「元気にしていたかしら?」
その二人の姿に村人たちが驚く。
「ミルキィお嬢さん!」
「ミルファ様!」
「御無事だったのですか?」
「ええ、こちらの御主人様のおかげでね」
「今この村を治めているのは誰かしら?」
ミルファの質問に一人の獣人が前に出る。
「私です」
「まあ、ゾンデル?あなた無事だったのね?」
「ゾンデルさんがいるのなら一安心だわ!」
「はい、ゾルンガ様には及びませんが」
その男性を見て、ミルキィとミルファは一安心しているようだ。
「その人は?」
「はい、父の従兄弟で父に劣らない勇者です」
「そうか」
俺が鑑定してみると、レベルは145だ。
なるほど、組合の基準で言えば白銀等級に近い。
しかも白狼族は平人よりも力や俊敏性は上なので、単純に格闘関係に限れば実際には白銀以上の実力だろう。
村人の数は60人ほどだった。
俺たちは歓迎されて、その日は宴会となった。
ちょうどその日に狩って来た猪が豪快に丸焼きにされて、俺たちが持ってきたワインやジュースも惜しみなく開けられて、みんなで飲んだ。
小麦粉やパン調合粉も大歓迎で、早速あちこちの家でパンが焼かれて宴会に供された。
そのふんわりとしておいしいパンに村人たちは大喜びだ!
「これはうまい!」
「ええ、こんなやわらかくておいしいパンは初めてだわ!」
「しかも酒も飲み放題とはありがたいな!」
「いや~それにしてもミルファ様とお嬢様が無事で良かった!」
「ああ、これでこの村も安泰だ!」
しかしその村人の言葉にミルキィとミルファは予想外な返事をする。
「あら、私達はここに帰って来た訳じゃありませんよ?」
「ええ、その通りです」
「え?」
「私達はこの村の事は諦めていたのですが、こちらの御主人様が心配だと言うので様子を見に来てくださったのです」
その二人の話を聞いてゾンデルが俺に礼を述べる。
「そうだったのですか・・・お客人、ありがたい」
「いえ、私も心配だったものですから・・・
何しろミルキィにしてもミルファにしても、今では私の家族です。
その二人の故郷が心配になりましたからね」
俺の説明にゾンデルがうなずきながら答える。
「それは本当にありがたい事です。
ましてやこんな大層な土産物までいただいて、感謝しております」
「いいえ、大した事はありません。
しかし正直な所、この村の様子はどうなのですか?
私もそれが心配なのですが・・・」
「な~に、御覧の通り、あちこちに逃げた連中も戻って来て、人数も整ってきました。
これからまた昔のように勢いを取り戻しますよ」
「え?何か良い対策でもあるのですか?」
「対策?」
「ええ、例えばまた襲われた時の対策ですよ?」
「そんなもんはありやせんや!
まあ、一応不意打ちをされないように見張りは立ってますがね」
「え?では襲われたらどうするのですか?」
「そん時はもちろん、全力で戦うまでです」
「全力ですか?」
「ええ、そうです。
あん時だって、不意打ちさえされなければ、こんな事になってませんや」
ここでミルファが話しに加わってくる。
「でも、全力と言ったって、以前よりも数は少ないのでしょう?
また襲われたら危ないのではないかしら?」
「いえいえ、今度は返り討ちにしてみせますよ!」
「どうやって?」
「そりゃもちろん全力ですよ!」
「・・・それ以外の方法は?」
「え?そんなもんはありませんよ?
それとも力を抜けって言うんですかい?」
「・・・・」
どうも白狼族というのは、村を守る方法は、全力で戦う以外の方法がないようだ。
う~ん・・・
ある程度予想はしていたが、これは困った!
これではこの村の行く末が心配だ!
どうしよう?




