380 魔菓子・・・その名はチョコレート!
マジェストンへ帰った俺はクーカオの実を使って、いくつかのチョコレートの試作品を作り出した。
そしてようやくある程度満足の行く物が出来上がった所で、その試作品のチョコレートとクーカオの実を持って、料理部の部室へ顔を出した。
そこにはちょうどマルセル料理部長がいたので、俺はクーカオの実を見せながら新しい菓子の話を始めた。
「マルセル、久しぶり!」
「あら、ホウジョウ様!お久しぶりです!」
「部長、実はカトー・インスローで、こんな物を見つけたのですが・・・」
「あら?クーカオの実ですね?
それをどうされるのですか?」
マルセル部長はクーカオの実を知っていたようで、驚いた様子で俺に話しかける。
「ええ、実はこれである新しい食べ物、それも画期的な菓子を作ろうと考えて持って帰って来たのです」
「え?クーカオの実でですか?
ホウジョウ様の御言葉とは言え、正直、それはとても苦くて食べられた物ではないと思うのですが・・・」
「ええ、その通りなのですが、試作品を作ってみました。
これをちょっと食べてみてください」
そう言いながら俺は家で作ってみたチョコレートを部長に見せる。
これは俺がここ数日試行錯誤して考えた、カトー・インスローで試作した物よりも、より洗練された作りのミルクチョコレートだ。
以前作った試作品にさらにコンチングやテンパリングもして、より一層の滑らかさを実現した!
もちろん味も数段上で、甘い物にうるさいエトワールさんやミルキィたち、うちの女子軍のお墨付きだ。
これなら十分商品化も可能だろう。
マルセルはその奇妙な茶色の板切れをしげしげと見つめていたが、それをパクリと食べてみる。
しばらくは無反応だったが、チョコレートが口の中で溶けてくると、食べたマルセルが愕然とする。
「こ、これは!」
チョコレートを食べたマルセルは、それを恍惚として味わっている。
そこへちょうど、フローラとミレイユがやって来る。
フローラは俺に機嫌よく話しかけて来る。
「あら?ホウジョウ様、御機嫌よう。
また何か新しい御菓子でも御作りになったのですか?」
その声でマルセルがハッ!と我に返る。
「フローラ様!ミレイユ様!これを!これを御口にしてみてください!」
「なんですか?これは?」
「見た事のない食べ物ですが・・・?」
いぶかしげな二人にマルセルが説明をする。
「ホウジョウ様が御作りになった全く新しい御菓子です!
とにかく何も言わず、これを口にしてみてください!」
「ホウジョウ様が・・・?」
そう言ってチョコレートを口にした生徒会長と副会長がたちまち騒ぎ出す!
「な、何ですの?この甘さ!ほろ苦さ!
そして口の中で滑らかに溶けて行く・・・
これは一体・・・?」
「ええ、この得も知れぬ陶酔感・・・
こんな経験は初めてですわ!」
驚く二人にマルセル料理部長が説明をする。
「これはクーカオの実で作った御菓子だそうです」
「クーカオの実?
何ですの?それは?」
どうやらフローラはクーカオの実を知らなかったようで、部長が説明をする。
「カトー・インスローやその周辺の島々に生えている木の実で、一応食べられますが、今まで誰も見向きもしなかった食べ物です。
それをホウジョウ様が見つけて、このような食べ物を御作りになったのです!」
「なんですって・・・!
カトー・インスローに?」
驚く生徒会長にマルセル部長が説明を続ける。
「はい、正直、私は驚いております!
いえ、それどころではありません!
実は私もカトー・インスローに行った時に、クーカオの実を見て食べているのです!
珍しい食材とは聞いていたものですから・・・
しかし実際に食べてみると、とても苦くて食べられた物ではありませんでした!
そしてこのような苦い物は、とても食材にならないと見向きもしなかったのですが・・・」
しかしそれを聞いてフローラ御嬢様はワナワナと震えて話しだす。
「何を言うのです!
あなたはまだマシですわ!
それを食材と知って、実際に口にしてみたのですから!
私などは去年カトー・インスローに行った時に、このような食材がある事にすら気がつきませんでしたわ!
全く、同じ場所で同じ物を見ていても、ここまで発想が違うとは・・・
ああ!天才と凡人では、かくもこれほどの差が出るのですか!
改めて身に染みてわかりましたわ!
やはり地に両手をついてでもホウジョウ様に我が部に入っていただいたのは正解でした!
これは我が部の・・・いいえ、料理の歴史に残る菓子になるでしょう!
その瞬間に立ち会えるとは!」
感動するフローラにミレイユとマルセルも激しく賛同する。
「ええ、ええ、おっしゃる通りですわ!
私もその瞬間に立ち会えてこのような幸運はございません!」
「私もです!」
おおう・・・そこまで感動するか?
まあ、確かにチョコレートは菓子の一大変革ではあるだろうが・・・
う~む・・・
「ま、まあ、とにかくこれをちょっと料理部で作ってみようかと思うのですが?」
「ええ、もちろんですわ!
それにしてもヘンリーとイロナはどうしてこんな素晴らしい物をホウジョウ様が御作りになったのに、私達に教えてくれなかったのかしら?
二人は一緒にカトー・インスローに行っていたのですから、これを知っていたのでしょう?」
「ああ、それは私が二人にまだ秘密にしておくようにと言っておいたのですよ。
まだカトー・インスローから帰って来た時点ではこれほどの物に仕上がってなかったので、ちゃんと仕上げてから報告したかったのです」
「まあ、そうだったのですか!
確かにこれはとても素晴らしい仕上がりで、芸術的なまでの品物ですわ!
是非、料理部で作ってみたいです!」
「ええ、是非私たちも御一緒に!」
ううむ・・・やはりチョコレートは女子のテンションが高くなるな?
直ちに料理部員全員が招集されて、チョコレートの講義を始める。
まずは試作品を全員に食べさせると部員たちは驚き、チョコに陶酔した!
チョコレートを絶賛し、自分たちもそれを作れるようになりたいと俺に熱望した!
そして俺が持ってきたクーカオの実を説明して、料理部員たちにチョコレートの作り方を教えると、料理部員たちは必死になってそれを覚えた。
クーカオの種の焙煎に始まり、粉砕、材料混合、コンチング、テンパリング、成型と俺は知っているチョコの知識の全てを教える。
それが出来上がるとジャベック冷蔵庫で冷やす。
一通りの作業を終えたフローラが疲れた様子ではあるが、嬉しそうに俺に尋ねる。
「ふう・・・これで冷やせば出来上がりですわね?」
「ええ、その通りです」
そして出来上がった物を食べ始めると、狂喜乱舞してみんながそれを貪り食った!
「おいしい!おいしいですわ!」
「こんな甘くておいしい物を自分で作れるなんて!」
「まさにホウジョウ様に師事して正解でしたわ!」
そう騒ぎながらそれこそチョコレートを飲み物のように食べる!
むむむ・・・やはりチョコレートに対する女子の反応は想像を超える物があるな?
その様子を心配した俺が全員に注意を促す。
「あの・・・皆さん?
味わっている所、申し訳ないのですが、あまりそれを食べない方が良いですよ?」
その俺の言葉にフローラたちは不思議そうに尋ねる。
「え?それはどうしてですの?」
「こんな素晴らしい物を食べずにはいられませんわ!」
「ええ、確かにおいしいのはわかるのですが、実はそれはほとんどが油と砂糖の塊なので、たくさん食べるとあっという間に太りますよ?
それに砂糖の取り過ぎは「糖尿病」という病気になるので、あまりたくさん食べてはいけません。
せいぜい一週間に板チョコ1枚程度に抑えておいてください」
俺の説明を聞いて料理部員たちが愕然とする。
「そ、そのような恐ろしい効果があるとは・・・」
「こんなにおいしいのにたくさん食べられないなんて残酷ですわ!」
「ええ、悲しいですわ」
「いや、気持ちはわかりますが、本当に食べるのは気をつけてください」
「わかりました」
どうやら皆渋々と納得はしてくれたようだ。
しかしまだかなりの未練がありそうなので、俺は釘を刺すつもりで少々大袈裟に説明をしてみた。
「ええ、私の国にもチョコレートはありましたが、魔の食べ物としても恐れられていましたからね」
「魔の・・・食べ物?」
「ええ、おいしいので食べずにはいられないのですが、それを食べ過ぎると太ったり、病気になって目が見えなくなってしまうので「魔の食べ物」と恐れられてもいたのです」
俺の説明にフローラが驚いて尋ねる。
「太る・・のですか?」
「ええ、それはもうブクブクに!
それこそブタのように太りますよ!」
俺が少々大袈裟に話すと、その場にいた全員がゴクリと唾を飲み込んで、フローラが呟く。
「魔の食べ物・・・まさしくその通りですわね?」
ミレイユもうなずいて答える。
「ええ、美しい薔薇に棘がある、おいしいチョコレートには毒があるという事ですわね?」
「そうですね、毒とまでは言いませんが、とにかく食べ過ぎると危険だという事は心に留めておいてください。
そしてこのチョコレートを誰かに食べさせる時には必ずその説明をしてください。
さもないと無制限に食べる人がいるでしょうから」
その俺の言葉にフローラたちがうなずいて答える。
「ええ、わかりましたわ」
「確かに私もホウジョウ様に忠告されなければ、あるだけ食べてましたわ」
「魔の食べ物・・・チョコレート・・・」
「魔菓子・・・チョコレート」
「そうですわ!まさにこれは魔の菓子です!」
「魔菓子チョコレート!」
「恐ろしい菓子ですわ!」
「ああ、でも私、あまりにもおいしくて、この魔菓子の魅力に負けてしまいそうですわ」
「しっかりなさって!この恐ろしい魅力に負けないよう頑張りましょう!」
「そうですわ!」
うん、何かチョコレートが凄く怪しい食べ物になってしまった気がするが、注意を促した方が良いからこれで良いか?
俺は間違っていないよな?




