374 おいしく鯰を食べよう!
釣り上げられて陸に上げられて、未だにドッスン!バッタン!と暴れている大鯰を見て、俺たちは感心する。
「こりゃ凄いな!」
「ああ、こんなでっかい鯰がいるとはな・・・」
「頭から尻尾まで2メル以上ありそうだぞ?」
「いやいや、3メルはあるんじゃないか?」
俺は巻尺を持っていたので計ってみると、なんと長さ2メートル半もあった。
「うん、この鯰、2メル半以上あるよ」
「そんなにか!」
「うひゃ~凄いな!」
皆が動揺する中、一人俺は感心して呟く。
「ああ、こりゃ食べがいがありそうな奴だね」
それを聞いてみんなが驚く。
「何っ!シノブ、お前これを食べるつもりなのか?」
「ナマズだぞ?」
「え?当然だよ?
せっかく釣り上げたんだし、みんなで食べようよ」
「ナマズって食えるのか?」
「うん、おいしいよ?」
「本当か?」
「ああ、フライにするとかなりいけるね」
「フライって何だ?」
ああ、そういやこの世界にまだうちの食堂で出している以外にフライはないんだっけ?
それにどうやらみんなナマズを食べた事がないようだ。
そういや前世でもこんな事があったなあ・・・
俺は前世でもナマズを食べるのは好きだった。
自分で釣った事はないが、一回鯰を食べてみて以来、好きになったのだ。
鯰の身は白身で、鯛やカワハギなんかに似ている。
埼玉県の吉川市なんぞはなまずで町おこしをしていて、鯰の養殖をしているし、市のゆるキャラだって鯰だ。
吉川駅のまん前には金色のナマズの像が飾ってあるくらいだ!
俺は鯰のフルコースという物を食べてみたくて、わざわざ友人と吉川市まで行った事がある。
吉川市には鯰のフルコースを食べさせてくれる店が何軒かあって、そこでは鯰の刺し身に始まって、南蛮漬けやら、鯰フライ、鯰の天麩羅、鯰の蒲焼など、様々な料理が食べられる。
正直、中に「え~?これは・・・」と思う料理もあったが、おおむね鯰料理はうまい。
特にフライや天麩羅等はお薦めだ。
しかしなぜか世の中に鯰料理は受け入れがたいようだ。
もっとも地球でも、鯰は日本以外でも世界的に食べられている。
そして日本でも意外な所で食べられるのだ!
ある時、俺は知り合いの女の子とレッ○ロブスターで白身フライを食べた事があったのだが、そのフライを食べて、即座にそれがナマズのフライである事に気づいた。
しかし俺がその事を話すと、その女の子はそれに驚いたようだ。
俺は念のために店員を呼んで、白身フライの魚の種類を聞いたら、やはり鯰のフライだったので、その子は驚いたようだ。
またある時は東京の某区役所の食堂で白身のフライを食べたら、たまたまそれが鯰だったので、一緒に食べていた同僚にそれを言うとやはり驚いていた。
どうもその役所の食堂では、白身魚のフライというのは、たまに鯰を使うらしい。
それを一緒に食べていた仕事仲間たちは、区役所の食堂で鯰を使っている事にも驚いたらしいが、俺が一口食べただけで、それが鯰だとわかった事に驚いたようだ。
そして俺が「鯰はうまい」という説明に納得したようだ。
それ以来、俺には鯰鑑定家という異名がついたのは余談だ。
このように結構、日本でも鯰は知らず知らずのうちに食べている物なのだ。
どうやらこの世界でも一部では鯰は受け入れがたい食材のようで、みんなは鯰を食べる事に驚いている
しかしここでイシダさんが助けてくれた。
「いや、鯰はおいしいですよ?
皆さんもこれを機会に是非食べてみてはいかがですか?」
さらにエレノアやアンジュもうなずいて話す。
「そうですね。
マジェストンも山間の盆地ですから、結構鯰は食べますよ?
皆さんも知らない内に、どこかの料理屋で食べているかも知れません」
「ええ、私の村でも鯰は普通に食べていますよ?
皆さん食べた事がないんですか?おいしいですよ?」
どうやらこの世界でも鯰を食べる所では食べるようだ。
釣り師のイシダさんやエレノア大先生、ましてやロリッ娘アンジュにまでそう言われると、みんなも顔を見合わせてうなずく。
「じゃあ、食べてみるか?」
「そうだね」
「む、グリーンリーフ先生がそうおっしゃるなら・・・」
「アンジュですら食べるんじゃなあ・・・」
どうやらみんな鯰を食べる気になったようだ。
俺たちは釣り上げた巨大鯰を航空輸送魔法で宿まで運んだ。
その鯰を見た宿の料理長は驚いた。
「おいおい!こんな鯰がいるのか?
こりゃ凄いな!」
「ええ、これをみんなで食べようと思って持って来たんですよ」
「そうか?しかし俺は鯰なんてせいぜい焼く位しか出来んぞ?」
「もちろん僕が料理しますよ。
昨日の魚料理を見ていただいてわかったでしょうが、これでも料理は得意なんです」
「う~む、確かにな、昨日の料理は見事だった」
「ありがとうございます。
まずは庭先を借りますよ」
「庭先?」
「ええ、この大きさではまず捌いて小さくしないと調理場で料理は出来ませんからね」
「ああ、確かにそうだな」
俺が鯰を調理場では大きすぎて捌けないので、庭先で解体を始める。
こんな大きな鯰を乗せるまな板はないので、タロスで作る事にした。
まずはタロスでこの鯰の乗るまな板を出してその上に乗せると、井戸から水を汲んで来て、その水でザバァッ!と全体を洗い流す。
「さてと、まずは解体からだな」
「それにしてもこんな大きな鯰をどうやって解体するんだい?」
シャルルに言われて俺も考えこむ。
「そうだな・・・」
みんなも俺がこんな大きな鯰をどう料理するのかと興味津々で見学だ。
俺は少々考えると、自分のアレナック刀を取り出して、それを構えた。
それを見たアインがあきれ返る。
「おいおい、魚の解体にアレナック刀かよ?
まあ、もっともこのデカさじゃそれしかないかもな」
「ああ、そうだねぇ」
ビクトールもうなずく。
アレナック刀を構えた俺が周囲に注意を促す。
「みんな、危険だからちょっとどいてて!」
「ああ、わかった」
「そうだな」
全員が俺の周囲からどくと、俺はアレナック刀で一気に大鯰の解体にかかる。
「そりゃっ!」
まずは正中線に沿ってきれいに切って、その後もスパスパと切り取って行く。
まるで前世で見たマグロの解体ショーを自分でやっているような感じだ。
そういや前世ではよく築地に行って、魚を買ってきて捌いたっけ・・・
まあ、こんなでかい魚を捌いた事はないけれどね?
しかしマグロの解体は自分でやった事はないが、何回か見た事があるので、見よう見まねで何とか大鯰を解体して行く。
ま、多少おかしな切り方になっても御愛嬌だ。
とりあえずは食べられればそれで良い。
それを見た友人たちが感心してどよめく。
「おお~っ!」
「やるなぁ!シノブ」
「あんなでかい鯰を見事なモンだな?」
むむ・・・みんなが俺の刀捌きに注目しているな?
ここは一つ包丁ではなくて、調子に乗って白糸一本でこの大鯰をバラしてみるか?
鯰の宝分けっ!白糸バラシィ~ッ!とか言ってやってみるか?
それとも鯰に火薬を仕掛けて地雷包丁でドカ~ン!と一発・・・・
いやいや、そんな事、本当に出来る訳ないだろ!
仮に出来たとしても、火薬臭くてせっかくの鯰が食べられなくなるわっ!
そんなアホな妄想をしながらも俺は鯰を捌いていく。
流石にアレナック刀の切れ味は凄まじく、鯰はどんどんと小さく刻まれていく。
だが、ある場所でカチンと音がして、動きが止められた。
(おや?)
俺はその辺りをまさぐると、何やら骨のような長い棒状の物が出てきた。
「何だこりゃ?」
俺はしげしげとそれを見たが、まずは解体が先だ。
その骨のような物をシルビアに預ける。
「シルビア、これ洗ってマギアサッコにしまっておいて。
後で調べるから無くさないでね?」
「はい、畏まりました」
それをシルビアに預けると、俺は鯰の解体を続ける。
大分鯰の大きさが小さくなって来たので、今度はアレナックのナイフを使って切り分け始めた。
大体切り分けると、今度は部位ごとに何に使うかを考える。
「え~と、この辺は刺し身と湯引き・・・
ここは天麩羅だな・・・ここは蒲焼っと・・・」
刺身用は寄生虫が心配なので、先に凍結魔法で凍らせておいた。
「アンジュ、この部分は凍らせておいて」
「はい、承知しました!」
海の魚は大抵大丈夫だろうけど、淡水魚は結構寄生虫が心配だからね?
実際、エレノアにも聞いてみたら、この世界では海水魚にはまず寄生虫はいないらしいけど、淡水魚は怪しいそうだ。
しばらくの間、中心まで凍らせておいて、少々ルイベっぽくしておけば安心だ。
そして俺は料理長に様々な鯰料理を教えた。
刺身、湯引きに始まって、フライ、ムニエル、天麩羅、蒲焼と色々と作ってみた。
何しろ大きさが大きさなので、材料はいくらでもある。
そして味付けには今や残り少なくなって来た秘蔵の醤油、ダシの素、みりん、日本酒などをここぞとばかりに使う。
フライなどにはサクラ魔法食堂で作ったおいたデミグラスソースを使ってみた。
料理長は俺が様々な鯰料理を作るので驚いたようだ。
俺の指示で料理長だけでなく、エレノアやエトワールさんと何人かの女子が手伝ってくれる。
もちろんヘンリーとイロナもだ。
あ、シルビアは配膳だけね?
絶対に料理に手を出しちゃダメだよ?
そうしてようやく様々な鯰料理が完成した!
俺と料理長や女子たちが作った料理を、アインやシャルル、シルビアたちが食べる。
「へえ?こりゃ確かにうまいな?」
「うん、とてもおいしいよ!シノブ!」
「ええ、以前私が食べた鯰料理より、はるかにおいしいですわ」
それを聞いて、俺が得意げに鯰の宣伝をする。
「鯰は重要なタンパク源デース!」
「なんだそりゃ?」
「意味がわからん」
うん、前世のサバイバル動画の言葉は通用しないのはわかっていた!
しかし鯰はペロンやビクトール、イシダさんにも好評のようだ。
「すっごくおいしいですニャ!」
「む、確かにこれはうまい・・・」
「ほほう・・・これは私の故郷のミズホでも食べた事がない鯰料理がずいぶんとありますなぁ?
しかしどれもうまい!
この鯰の薄切りの刺身はフグ刺しのようで泣かせますなあ!」
「あ、それはこの特製ポン酢で食べた方がおいしいですよ?」
「なるほど、確かに!」
イシダさんは俺の作ったポン酢で鯰の刺身を食べてうなずく。
アンジュも大騒ぎしながら鯰料理を食べている。
「こんな鯰料理、うちの村では食べた事がないですよ!
御主人様!凄くおいしいです!
これの作り方をジャベックに教えて、そのジャベックを私にください!
父様と母様に食べさせてあげたいです!」
お前が覚えないのかよ!アンジュ!
しかし、鯰料理はおおむね好評のようだ。
それでもまだたくさん鯰はあったので、俺は匂いを嗅いで宿の庭先に集まって来たケット・シーたちにも振舞う。
「何かここからおいしそうな匂いがするのニャ~」
「何を作っているのかニャ?」
「ああ、ちょうど鯰の料理を作ったんだ。
たくさんあるから君達も食べて良いよ」
うん、ケット・シーは魚好きが多いってペロンにも聞いているからね?
せっかくたくさんあるんだし、ここは御馳走してあげよう。
ケット・シーは鯰を食べられると聞いて嬉しそうだ。
「え?いいのかニャ?」
「ありがとうですニャ~」
「うれしいニャ~」
「ナマズは大好きなのニャ~」
そしてケット・シーたちも鯰料理を食べて驚く。
しかしうちのペロンも箸を使って刺身を食べるけど、ここのケット・シーもみんなナイフとフォークを器用に使って食べるな~
何か凄く可愛いぞ?
「こんなおいしいナマズ料理は初めてですニャ~」
「ペロンはいつもこんなおいしい物を食べているのかニャ?
羨ましいニャ~」
「ナマズだけでこんな色々な料理を作れるなんて凄いですニャ!」
ケット・シーたちにも評判は上々のようだ。
これでマジェストンに戻っても、みんな鯰は食べるようになるだろう。
散々俺の鯰料理を食い散らかした友人たちが、その味の感想を話し合う。
「いや~食べた、食べた!」
「鯰って、こんなおいしい魚だったんだね?」
「ああ、俺の故郷じゃ、わざわざ養殖して町の名物にしている町もあるくらいだぞ?」
「へえ?でもそれもわかるなあ・・」
「ああ、俺も鯰なんぞ食えるのかと思っていたが、こいつぁ、とんだ思い違いだったぜ?
今度グロスマン先生とも一緒に食べてみるかな?」
「む、そうだな、今度、うちの料理長にも言ってみよう」
どうやら俺はかなり鯰の濡れ衣を晴らし、名誉挽回したようだ。
いずれ鯰の恩返しでもあるだろうか?
いや、まさか主を食べちゃったから、逆に呪われるなんて事はないだろうな?
「特にあの甘辛いタレをつけた奴がうまかったな」
「ああ!確かにアレがうまかった」
「蒲焼か?アレは鰻で食べるともっとうまいぞ?」
「何?ウナギだと?」
「あの黒ヘビみたいなウネウネした奴か?」
「あんな物を食べるのか?」
どうやらこの世界ではウナギもあまり食べられていないようだ。
今度はいつかウナギの蒲焼でも作ってみるか?
「ああ、うまいよ?機会があれば作ってやるよ」
「むう・・」
「ウナギをねぇ・・・」
「まあ、しかし鯰がこれだけうまかったんだ。
鰻もうまいのかも知れないな」
そして俺の鯰料理を食べた料理長は、鯰を名物料理にするといきまいている。
「よっしゃ~俺はこれをこの宿の名物料理にするぜ!」
いや、ここは海の方が近いから、わざわざ鯰料理を名物にする事はないんだが・・・?
せっかくなんだから海の幸を名物にしようよ?
それに醤油やみりんがないとこの料理は無理だよ?
でもマジェストンに戻ったらこれを名物にするのは面白いかも知れないな?
将来、魔法食堂のマジェストン支店を作る事があったらそれは考えてみよう。