373 湖の主釣り
どうやらイシダさんはこの島に主を釣りに来たらしい。
「主?」
「ええ、それで釣ろうと思ったんですが、どうにも相手が大きい上に力が強くてね~
竿はペロンを真似してアレナックの強い竿を作ってみたのですが、どうしても糸が持たぬのですわ」
「なるほど」
「何とか強い糸があれば良いのですが・・・」
う~む、強い糸か?
この世界にはまだナイロンとかないしなあ・・・
俺が考えていると、エレノアが提案する。
「シノブ君?
糸をタロスで作ってみたらどうでしょう?」
「タロスで?」
うん、確かにそれならかなり強く作れそうだ。
だがイシダさんは首を横に振る。
「いや、実は私もそう考えて自分でもタロスの糸を作ってみたのですよ。
ですがあっさりと奴に切られて逃げられてしまいました。
もっとも私はレベル70程度なので、タロスの強度はレベル50程度でしたがね。
しかし実際に引っ掛けた私の感覚では、あの主はレベル100のタロスの強度でも切りそうですなあ・・・」
ほほう?レベル100のタロスの強度でも切れる?
そこまでなのか?
さすがは「主」と言われるだけの事はあるな?
「それじゃエレノア先生、レベル500位の上級タロスで釣り糸を作ってもらえますか?」
「はい、良いですよ」
それを聞いたイシダさんが驚く。
「レベル500ですと?」
「ええ、エレノア先生のレベルは600を越えているので、それ位のタロスは作れますよ」
「なんと!それは是非お願いしたいです!」
「承知いたしました。
それとホウジョウ君はレベルが300以上ありますから力もかなりありますよ」
「何と!それは是非、主釣りを手伝っていただきたいですね!」
「それは別に構いませんが・・・」
俺が同意するとエレノアが提案する。
「では早速、明日にでもその主とやらを釣りに行ってみましょうか?」
「ええ、そうしましょう」
次の日、俺たちはイシダさんと一緒にその主とやらがいる湖に行った。
エレノアとシルビア、エトワールさん、アンジュ、ヘンリー、イロナも一緒だ。
もちろんペロンもだ。
さらにカトー・インスローでの生活は暇だったとみえて、話を聞いたクラスの男子生徒の大半が面白がって引っ付いてきた。
まずはアインがちゃちゃを入れてくる。
「おいおい!シノブ!こんな所に本当に「主」なんているのかよ?」
「さあ、僕にだってわからないよ」
「はは・・・でも本当にいたら面白そうだね?」
シャルルは楽しそうだ。
「ま、暇潰し程度にはなるかなぁ?」
何のかんの言いながらも、ビクトールもついて来たようだ。
「ビクトールも一緒に釣ってみるかい?」
「いやぁ、ボクは遠慮しておくよ、ホウジョウくぅん」
「じゃあ、せめて主を釣ったら、みんなで一緒に食べようよ!」
「おいおい!そいつは食える魚なんだろうな?」
「さあ?それはなんとも・・・」
何しろ誰も見た事がない魚を釣るのだ。
そもそも魚かどうかも怪しい。
魔物の可能性だって無きにしもあらずだ。
そんな話をしながら俺たちは主がいると言われる湖までやって来た。
「ここですか・・?」
「ええ、ここに奴は潜んでいるのです」
「へえ・・・」
「この湖にねぇ・・・」
「結構でかい湖だな」
イシダさんの説明にみんなが何となく感心してうなずく。
俺たちがそんな話をしていると、イシダさんが用意を終えたようだ。
「さ、シノブさん、まずは喰い付くまでは私がやります。
主が喰いついたら後は頼みますぞ!」
あ、やっぱり俺の役どころはそれなのね?
しかし、主ってワニや6本足のシーラカンスみたいな奴だったらやだなあ・・
ましてや魔物の可能性もある訳だしね?
俺はそう思って、イシダさんに主の事を聞いてみた。
「ここの主って、どういう魚なんです?
いや、そもそも魚なんですか?」
もし主がオオサンショウウオやアリゲーターみたいな奴だったら、一応俺も心の準備をしておきたい。
「いや、私も引っ掛けたことはあるのですが、正体はわかりません。
ただ、奴はかなり黒っぽくて、全長は2メル以上あるのは間違いありません」
そのイシダさんの説明を聞いて、俺の男友人連中がどよめく。
「2メルだって?」
「そりゃ確かに大物だな!」
「ああ、そうだね」
「おい!シノブ!そんな奴がいたら是非見てみたい!
相手が魚だろうが亀だろうが必ず釣れよ!」
「そうだな」
どいつもこいつも他人事だと思って勝手に言うなあ・・・
「でもそんな大きな奴だったら、俺一人では取り込めないぞ?
そん時はお前らも手伝えよな?」
「おう!任せておけ!」
「これだけの数の魔道士がいるんだ!
楽勝だぜ!」
自信満々な友人たちに俺が念を押す。
「たとえ釣れたのが魔物でも絶対に逃げるなよ?」
「おう、大丈夫だ!」
アインが答えると、そこにいた男子生徒全員がうなずく。
うん、お前ら、その言葉、絶対に忘れるなよ?
「では、準備は良いですか?いきますぞ!皆さん」
「はい」
俺が返事をすると、イシダさんが釣り竿を湖に向かって振る。
餌はそこらへんの蛙一匹を丸ごとのようだ。
しばらくは何もおこらないが、やがて竿先がピクピクと動き始める。
「来ました!
シノブさん!お願いしますよ!」
「はい」
「もう少しです・・・もう少しで・・・
よし!完全に食いつきました!今です!
さあシノブさん!竿を放さないでくださいよ!」
「はいっ!」
俺はイシダさんから竿を受け取ると、強く握る。
その途端!いきなり竿を持っていかれるほどに強く引かれる!
「おわわわ・・・!」
俺は慌てて竿を引っ張るが、竿の引きは恐ろしく強い!
「こいつ・・・!」
俺は必死になって引っ張るが、引き釣りこまれないようにするので、精一杯だ!
「おい!どうした!シノブ!」
「君でも引っ張れないのかい?」
アインとシャルルが驚いて聞いてくる。
もちろんクラスの連中は、俺のレベルが300以上もあるのを知っている。
その俺が力勝負で互角なのを見て驚いているようだ。
「いや、こいつ凄いよ?
何だかわからないけど、みんな手伝ってよ!」
「よし来た!」
「任せろ!」
「ペロンも手伝いますニャ」
俺の言葉でシャルル、アイン、ビクトール、それに豪雷と疾風、ペロンも参加して俺の体を引っ張る。
さすがにレベル100を越えた者が六人掛かりでは、主とやらも勝てるはずがない。
ペロンも頑張ってくれる。
何だか童話の「大きなカブ」みたいな話になってきたぞ?
次第に竿は陸側にズルズルと引っ張られて、やがて主とやらが水面に浮かんでくる!
その姿が見えてくるとみんなは大騒ぎだ!
「おおっ!見えてきたぞ!
もうひと頑張りだ!」
「おおっ!」
「やってやるぜ!」
「頑張りますニャ!」
水面に出てきたそれは確かに全身が黒く、どうやら形的には魚のようだ。
しかし魚にしては、ずいぶんとズングリしているような気もする。
それでもおそらくは魚で、変な生き物ではなさそうなので俺も一安心だ。
俺は竿をしっかりと持ちながらみんなに話しかける。
「見えてきたけど・・・これ絶対に引き上げたらバレるだろ?」
「そうだな、この重さに奴の皮膚が耐えられるとは思えない」
「確かにな・・・引っ掛けた部分を引き裂いて逃げられるのが落ちだな」
「どうする?」
俺たちが困っているとイシダさんが名乗りを上げる。
「そこは私に任せてください!
アニーミ・デク・エスト!」
呪文と共に、黒い人型タロスが10体発生して、ジャバジャバと湖の中へ入っていく。
そのタロスは手馴れたように腰を落として身構える。
どうやらイシダさんは大物を取り込むときは、こんな風にタロスを使っているようだ。
ならば取り込みは任せよう。
「さあ、これで取り込みますよ~」
「わかりました、お願いします!」
「ええ、いつでもどうぞ!」
イシダさんの言葉に俺はうなずいて叫ぶ。
「よ~し!じゃあ合図と共に一気に引き上げるぞ!
みんな、いいな!」
「おうっ!」
「せーの・・・引っ張れっ!」
「「「「 おおおお~~~っ!!! 」」」」
人間とアイザックとケット・シーが六人掛かりだ。
さすがの主とやらも一気に湖の奥深くから飛び出し、岸辺近くまで引き寄せられる。
そこをすかさず、イシダさんの出したタロスたちが押さえつけて、そのまま陸に引き上げる。
巨大な黒い魚影はバシャ!バシャ!と大暴れに暴れるが、イシダさんの手馴れたタロスたちによって手際よく捕まえられる。
そしてついにドサッ!と黒い魚影が10体のタロスによって陸揚げされる。
ここまですれば、その巨体のせいで、もはやどんなに暴れても水の中へは戻れない。
「「「「「「 よっしゃ~っ! 」」」」」」
俺たちは歓声を上げる!
まだ釣り上げられた黒い魚状の物体はビッタン!ビッタン!と大きく暴れている。
それを見た俺たちはその物体を見て少々驚く。
「これは・・・」
「鯰だな」
「ああ、ナマズだ」
俺たちはその主の正体を確認する。
「ええ、間違いなく鯰ですね」
イシダさんもうなずいて保証する。
念のために俺は鑑定もしてみたが、間違いなく鯰だ。
それは確かに鯰だった。
但し、全長が2m以上はあろうかという大鯰だった!




