347 魔道都市マジェストン
翌朝の遅い朝食の時間になって俺たちは起きた。
どうやら夜中の間も何も無く、無事に航行していたようだ。
俺たちはミルファが作ってくれた朝食兼昼食を食べる。
やがてマジェストンが見えてきて、俺はエレノアに聞いた。
「どこに着陸すれば良いかな?」
「高等本校舎の馬車置き場が広いので、そこが良いでしょう。
魔法飛行艇は大抵そこに置く事になっていますし」
「ではそこに頼む」
「はい」
さすがは魔法都市だけあって、魔法飛行艇も置く場所があるようだ。
エレノアの案内で馬車置き場にリンドバーグを着陸させる。
「では出かけましょうか?」
案内役に地理に詳しいエレノアが皆を導く。
ミルファを除いた全員がぞろぞろと外に出る。
「私は何かの時のために、ここでジャベックたちと留守番をしていましょう」
「うん、頼む、ミルファ」
留守番にミルファとジャベックたちを置いて、俺たちは魔法学校へと向かった。
マジェストンに着いて、まずはいつも通り、宿を探そうと思ったが、エレノアが先に学校に行った方が良いと言うので、魔法学校に行く事になった。
まあ、確かにいざとなれば、リンドバーグに住む事も出来るしね。
エレノアは迷うことなく、魔法学校の門をくぐり、手馴れたように受付につくと、そこにいた受付嬢に気軽にこう聞いた。
「こんにちは!マージェはいるかしら?」
「マージェ・・と言われますと・・?」
「ああ、ごめんなさい。
マージェ・リビングストンよ。
いるかしら?」
「リビングストン・・?
学長の事ですか?」
受付嬢が驚いたように質問すると、エレノアがホッとしたように答える。
「ああ、良かった。
まだ学長をやっていたのね。
他の人に代わっていたらどうしようかと思ったわ。
そのリビングストン学長を呼んでちょうだい」
いきなり、魔法学校の学長様を呼びつけるエレノアに、俺たちはギョッとした。
確かに昔ここでエレノアは魔法の教師をしていたらしいが、学長様を呼び出して大丈夫なのか?
それとも天賢者だから大丈夫なのかな?
案の定、受付嬢は不安げにエレノアに尋ねる。
「あの、御約束はしておいでですか?」
「いいえ、突然だから何も知らせてないの、驚かせてみたいしね。
でも大丈夫、エレノアが来たと言えばわかるわ」
当然の事ながら受付嬢は困ったように質問するが、エレノアは気にしないらしい。
「申し訳ありませんが、御約束のない方の御取次ぎはこちらでは・・・」
受付嬢が困惑していると、奥の方から声がする。
「エレノアですって?」
その人物は窓口まで早足で来ると、マジマジとエレノアを見る。
「まあ、本当にグリーンリーフ先生だわ!
またお会いできるなんて!」
「あら、ナターシャ!
あなたもまだいたのね?」
「ええ、もちろんですとも!」
どうやらこの人はエレノアの知り合いのようだ。
最初の受付嬢も戸惑っている。
「あの、事務長?こちらは?」
「ああ、いいのよ、バローナ、こちらの方は私が知っているから」
「はい、ではお願いします」
受付を引き継いだ事務長さんがエレノアに説明をする。
「マージェ学長は、ちょうど今、学長室に在室のはずですよ」
「それは助かったわ」
「ご案内しますので、こちらへどうぞ」
俺たちは事務長さんの案内でゾロゾロと後を着いていく。
学長室と書かれている部屋に到着すると、事務長さんが戸を叩いて中に問いかける。
「学長、ナターシャです」
「はい、どうぞ」
ナターシャさんに連れられて、俺たちもゾロゾロと一緒に部屋に入る。
「あら、たくさん、何かしら?」
「学長、エレノア・グリーンリーフ様をお連れしました」
そのナターシャさんの言葉に学長が驚く。
白髪頭を後ろでまとめた、ちんまりとした人だ。
この人を一言で表現するならば、上品でかわいらしい御婆さんと言うのがもっとも正しい表現だろう。
「エレノア?本当にあなたなのね?」
驚いて目をパチクリしている学長先生にエレノアが笑顔で答える。
「ええ、御久しぶり、マージェ」
「全く本当よ!
あなたったら何にも連絡をしないんだから!
20年ぶり位かしら?
でも会えてよかったわ!
それで今日は何の用事かしら?」
「ええ、実はこちらの人たちを、この学校に入れて欲しくて」
ぞろぞろと入って来た俺たちをエレノアが紹介する。
「あらまあ、みんなあなたの御弟子さんたち?」
「そうでもあるけど、こちらの方は私の御主人様よ。
御覧の通り、今の私は奴隷だから」
そう言ってエレノアは自分の首輪を見せながら俺を紹介する。
しかし学長先生はエレノアが奴隷なのをさほど驚いてはいないようだ。
「まあ、そうなの?」
「ええ、とっても良い御主人様よ」
「あら、うらやましいわね?」
「ええ、せいぜいうらやんでちょうだい」
「まあ、ご馳走様、それでどのクラスに入れたいの?」
「こちらの獣人のミルキィとポリーナは中等クラスだけど、後は全員高等学校よ」
「高等学校?いきなりで大丈夫?」
「ええ、大丈夫。
でもその前に紹介をするわね。
こちらが私の御主人様で天賢者を目指す、シノブ・ホウジョウ様。
そしてこちらから奴隷のシルビア、ミルキィ、アンジュ、そして御主人様の友人のフレイジオ・ノーベル、ポリーナ・パーシモン、それからケット・シーのペロン、この子は魔法学校には行かないわ。
そしてアイザックのゴウライとハヤテよ」
エレノアの紹介に俺たちが頭を下げると、学長先生も挨拶をする。
「まあまあ、皆さん初めまして!
私はエレノアの親友で、ここの学長をしている、マージェ・リビングストンと申します。
よろしくお願いしますね」
「はい、よろしくお願いします」
俺が代表として返事をして頭を下げると、それに習って全員が頭を下げる。
それにしてもこの学長先生はエレノアの親友なのか?
魔法学校の学長様が親友とはさすがにエレノアは凄いな。
その後でエレノアが説明を続ける。
「こちらのシルビアとフレイジオは中等部の卒業証書と、高等学校入学許可証を持っているから問題ないわ。
ポリーナは魔法士の免状を持っているわ。
他の5人は魔法学校は初めてだけど、私が基礎は教えてあるし、まずは短期初等魔法学校に入れて、魔法士になったら、ミルキィ以外はすぐに魔道士補一級の申請をして、同時に、魔道士検定を受けて、魔道士にするわ。
推薦状も書くから大丈夫でしょ?」
エレノアの言葉に学長先生もうなずく。
「ええ、天賢者のあなたの推薦状があるなら、もちろん何も問題はないわ」
「それではよろしくお願いするわ」
「ええ、それにしても懐かしいわ。
ねえ、まだお話しする時間はある?」
「悪いけど、今日はこれから宿も探さなければならないし、この子たちに学校の案内と説明もしたいから」
「宿?そう言えば、ここにどれ位滞在するのかしら?」
「この人たち全員がそれぞれ中等学校と高等学校を卒業して、少なくともその内の二人が天賢者になるまでよ」
「え?天賢者?二人も?」
さすがにいきなり連れてきた連中を天賢者にすると言われて学長先生も驚いた様子だ。
「ええ、こちらの私の御主人様とアンジュがね。
それとおそらくはこのフレイジオもね」
「三人も・・・?本気・・・なのね?」
「もちろんよ」
「どれ位の期間で?」
「賢者になるのに1年、天賢者には2年から遅くとも3年で」
そのエレノアの言葉に学長先生が俺たちをジッと見つめる。
どうやら俺たちの事を鑑定しているようだ。
「確かにこの3人なら出来るかもね・・・」
「ええ、私は確信しているわ。
この三人は間違いなく魔法学校史上最短で賢者になるわ。
そして天賢者にもね」
「・・・なら、この町に最低でも3年はいる訳ね?
だったらちょうど良い空き家を知っているわ。
住む人たちはこれで全て?」
「あと一人いるわ。
それとジャベックが10体ほど」
「なら、その家で十分だと思うわ。
学校にも近いし、とっても広くて良い家なのよ。
宿に泊まるよりいいんじゃないかしら?」
「それはそうかもしれないけど、そんなに良い物件なら家賃が高いんじゃないかしら?
それにわかってると思うけど、今の私は奴隷で、借りる借りないを決めるのは私じゃなくて、御主人様よ」
「大丈夫、あなたに決める権限があるわ」
そう言うとマージェ学長は俺たちの方を向いてニッコリと笑う。
「え?どういう事?」
驚くエレノアにマージェ学長が質問をする。
「あなた、この方たちを全員学校に入れるなら、その間、この方たちの授業中は、あなたはどうしているつもり?」
「え?
それは家の掃除をしたり、御主人様の食事の支度をしたり、いくらでもする事はあるわ」
その答えを聞くと、学長は天を仰ぎ、大きく首を横に振りながらため息をつく。
「天賢者ともあろう人に、そんな無駄な事はさせられません!」
「無駄じゃないわ。私は御主人様のために・・・」
「それはわかるけど、そういう事じゃないのよ!
いい?エレノア?
あなただってわかっているでしょう?
仮にも世界に5人しかいない天賢者の一人なのよ?
しかも、かつてこの魔法学園の副学長で、最高魔法師範まで務めた人が、期間限定とはいえ、この町に戻ってきたのよ?
私の目が黒い内にはそんな事はさせません!」
その学長先生の言葉に俺たちが驚く。
「ええっ?副学長?」
「最高魔法師範!?」
「エレノアさん、ここの副学長だったんですか?」
こいつはたまげた!
エレノアはただのこの学校の教師ではなく、副学長で最高魔法師範とやらだったのか!?
俺たちはマジェストンへ到着するなり、驚かされた!




