338 アンジュの組合等級試験
大型魔法飛行艇のリンドバーグが出来上がり、アイザックの豪雷と疾風も完成して、いよいよマジェストンへ行く準備も整ってきた。
「さて、後はどうするかな?」
俺の問いかけにエレノアが答える。
「御主人様、入学のための準備もほぼ整いました。
後はアンジュの組合登録も兼ねて、マジェストンへ行く前に組合の等級も上げておいた方が良いでしょう。
そうすれば学校を卒業後の時に、その等級ですぐに仕事が再開できますからね」
「うん、そうだね」
アンジュもレベル170を越えた。
そろそろ組合に登録したほうが良いだろう。
「では組合に連絡をしておいて、後日等級を上げる事にいたしましょう。
それとそれに合格したら、しばらくは組合員としての活動は休止した方がよろしいでしょう」
「やっぱり、その方が良いかな?」
そういえばこの間もエレノアはそんな事を言っていた。
まあ、これから学生になって勉学に励む事になるのだから当然か?
エレノアもその説明をする。
「ええ、これから魔法学校へ行くのですから、その間は学業に専念した方が良いですからね。
我々の等級を上げたら、その後で組合には「青き薔薇」の休止届けを出しておきましょう」
「では、そうしよう」
エレノアの説明に俺も納得する。
今回、俺とエレノアはアレナック等級に、ミルキィとシルビアは黄金等級に、アンジュは白銀等級に登録するつもりだ。
そして俺は豪雷と疾風の事を考えた。
「アンジュは組合登録するとして、やはり豪雷と疾風も組合に登録しておいた方が良いかな?」
俺がそう質問をすると、エレノアが首を横に振って答える。
「いえ、この二人は登録をしない方が良いでしょう。
アレナック等級となりますと、我々の義務ミッションもかなり難しい物になるでしょうし、この二人まで登録をしたら、さらに難易度が上がります。
それにアイザックの組合員は珍しいでしょうから、色々と重宝がられて仕事を要請される事になるでしょう。
なまじアイザックはジャベックと違って正組合員になれてしまうため、個別に仕事を請ける事が出来てしまいます。
ジャベックであるガルドやラピーダとは状況が違います。
しかしこの二人は本来の仕事は御主人様の護衛であって、組合の仕事をするのが目的ではございません。
ですから組合の仕事を単独で請ける訳にも参りません。
従って二人はミッションを受けた場合の、我々の予備戦力として確保しておいた方がよろしいかと」
「なるほど、確かにそうだね」
俺もエレノアの説明に納得する。
その結果、豪雷と疾風は組合員としては登録をしない事となった。
「まずは組合に昇級試験の申請をしておきましょう。
アレナックや黄金は、その日にすぐに試験と言う訳には行きませんからね。
そしてそれを待っている間に、金剛杉の仕事を終えておきましょう。
我々はこれからしばらくの間はマジェストンへ行くのですからね」
「そうだね」
俺たちは3年以上ロナバールからいなくなる可能性があるので、大森林の仕事をしばらく出来なくなる。
その前に一回ガーリン親方に話をしておいた方が良いだろう。
俺たちは大森林へ行く前に、組合にアレナック等級に上げる事を申告し、昇級試験を要請しておいた。
もちろん一緒にシルビアとミルキィの黄金等級と、アンジュの白銀等級の事も一緒に申請しておいた。
そうした後でロナバールにある、ガーリン親方の工房を尋ねると、マジェストンへ3年行く事を説明して、まずは金剛杉を1年分として100本切る事を説明した。
親方はそれを承諾して、俺たちと一緒にリンドバーグで大森林へと向かった。
ガーリン親方もリンドバーグに驚いたようだ。
「こりゃまた随分と乗り心地のいい、魔法艇だな!
しかも馬車で行くと、ロナバールから一日がかりなのに、これなら30分もかからんのか!」
「うん、この飛行艇は大きいから値段も高いけど、小型艇ならガーリン親方なら買えるんじゃないかな?」
俺がそう話すとガーリン親方もうなずいて考える。
「そうだな、こんな便利な物なら少々値が張っても、買うべきかも知れんな」
「作るならタッカー浮き馬車店と言う店がお勧めだよ」
「ああ、あのタッカー馬車店の弟がやっているとかいう店か?
なるほど、この飛行艇の出来からすると、腕は良いみたいだな?」
「うん、そう思うよ」
大森林へ到着すると、俺たちは早速金剛杉を切り出し始めた。
前回と違って、今度は俺とエレノア、ミルキィだけでなく、シルビアやアンジュ、豪雷、疾風、それにガルドとラピーダを始めとしたジャベック群までいたので、前回の倍の量にも関わらず、同じ2日間で終わった。
しかもその二日間はリンドバーグの中で生活をしたので、快適だった。
仕事を終えた俺たちに、ガーリン親方はあきれ返っていた。
「おいおい、何だこりゃ?
前回の倍の本数なのに、たったの二日で切り終わりやがった!
全くお前さんたちは大したもんだな!」
ガーリン親方は呆れたが、ちゃんと褒賞を金貨120枚払ってくれた。
その後でガーリン親方が俺たちに頼み始める。
「なあ、一つあんたがたに頼みがあるんだが?」
「なんですか?」
「そのエルフの姉さんが作る木こりタロスは全く凄い!
これからも俺が仕事をしている限りは、あんたたちにこの仕事を頼みたいんだが、何かの時のために、いくつかそのレベル500の木こりタロスをグラーノにして譲っちゃくれまいか?
そうすりゃ万一の時のために役に立つからな!」
「なるほど・・・どうする?エレノア?」
「そうですね・・・製作者を内密にしていただけるというのであれば、構いませんが・・・」
「おう!それは任せてくれ!
今ここには俺とあんたがたしかいないし、俺は絶対に誰にも話はせん!」
「それならばよろしいでしょう」
「おお、じゃあ一体金貨10枚でどうだ?
とりあえず、3つほど欲しい」
その金額に俺は少々驚く。
「金貨10枚?タロスにですか?」
「そりゃそうさ。
そのタロスが一体あれば、1日で枝払いも含めて金剛杉10本はいけるだろう?」
「そうですね、おそらくそれ位はいけるでしょう」
エレノアのタロスは平均的な金剛杉を20分ほどで切り倒す。
枝払いの時間も含めて、一本当たり、1時間から2時間ほどで処理が終わるだろう。
それならば、確かに一日で10本程度の金剛杉を木材に加工可能だ。
「しかも2日は持つんだろう?
ならば、その程度の金額は当然さ。
むしろ安くて申し訳ないくらいだが、こちらもそれほど懐があったかい訳ではないんでな。
いずれこの金剛杉で儲けたら、もう少し色をつけさせてもらうさ」
なるほど、言われてみればその通りかも知れない。
「それでいいかな?エレノア?」
「ええ、大丈夫です。
それでは帰りの飛行艇の中で作りましょう」
「ありがたい!これで何かの時には助かるぜ!」
こうして俺たちはガーリン親方にエレノアの上級タロスを3つ売って、金貨30枚を手に入れた。
一応1年後に時間を作って、また来てみるつもりだ。
俺たちが金剛杉の大森林から帰ってくると、試験の都合がついたらしく、ちょうど組合から返事が来た。
その翌日に俺たちは、青き薔薇外組の全員で組合へと向かった。
今や我々青き薔薇も10人以上だ。
町の人たちも俺たちの事を見て、少々振り返ったりはするが、さほど驚きはしない。
俺たちの紺と金色の制服も、すっかりこの町で定着したようだ。
組合に着くと、入口でアレクシアさんに挨拶をする。
「こんにちは、アレクシアさん!」
「あ、こんにちは、シノブさん、お話は伺っております。
組合長からあなた方がいらしたら案内するように言われております」
俺たちが組合の応接室で待っていると、グレゴールさんが姿を現す。
「やあ、こんにちは!皆さん!」
「こんにちはグレゴールさん」
「いよいよ今日はアレナックですね?」
「はい」
「まずは新規登録の方が1人いらっしゃるとか?」
「はい、このアンジュを白銀等級でお願いします」
「またもやいきなり白銀等級ですか?
いやはや慣れて来たとはいえ、相変わらず凄まじいですな?
本日も私が試験官を勤めさせていただきますので、よろしくお願いいたします」
「はい」
「ところでそちらの方々は?」
そう言ってグレゴールさんが豪雷と疾風を見る。
初めて見る二人が気になったようだ。
「ああ、この二人は私の護衛用のアイザックで今回は見学に来たのですよ」
「なんと!アイザックですか?
そちらの御二人は登録はされないのですか?」
「ええ、この二人は私の護衛に専念するので、組合員になる予定はないです」
「それは残念です」
グレゴールさんは本当に残念そうだ。
まあ、アイザックが組合員になれば、エレノアの言った通り、色々と使い手がありそうだからね?
組合長としてはガッカリするのも無理はない。
俺たちはゾロゾロと組合の闘技場へと向かった。
まずはアンジュが傀儡の騎士に挑戦する。
「よし、じゃあいいか?アンジュ」
「はい、大丈夫です」
「アンジュ、頑張るニャ」
「あはは、ペロンもそこで見ていてくださいね?」
「応援してるニャ」
俺たちのそんなやり取りの後で、グレゴールさんが申し出る。
「ではよろしいですか?」
「はい、いつでもどうぞ!」
アンジュは得意げに返事をする。
「ではいきます」
グレゴールさんの合図で、傀儡の騎士が放たれると、早速戦闘タロスを出現させる。
アンジュはタロスが出たのを確認すると魔法を放つ!
「グランダ・フラーモ!」
いきなり高位火炎呪文だ!
例え相手がレベル50でもアンジュは手を抜かない。
しかし傀儡の騎士程度に上位火炎呪文はないだろう!
案の定、傀儡の騎士は自分の出したタロスと一緒に燃やされて、消し炭も残らない。
「馬鹿!アンジュ!少しは加減しろ!」
呆れた俺が怒っても、アンジュはペロリと舌を出してどこ吹く風だ。
「申し訳ありません、何しろまだ加減がよくわからないもので」
絶対にウソだ!
傀儡の騎士辺りに上位火炎呪文なんか必要ないのわかっているだろ!
こいつわざとやっている!
まだ中二病の気が抜けきってないんじゃないのか?
そのままアンジュは三級のトロル、二級のマーダードール、一級のキマイラと順調に倒して行く。
アンジュは魔法使いを目指していただけあって、魔物の倒し方もかなり勉強していたそうだ。
しかもレベルはすでに150を越えているのだ!
それにここ数日は俺たちと共に迷宮へ行って様々な魔物たちとも戦っている。
そのおかげか、驚くほどあっさりと魔物たちを倒して行く。
そして瞬く間にアンジュはグリフォンも倒し、無事に白銀等級を手に入れる。
全くついこの間まで何も魔法が使えなかった魔人とは思えないほどだ。
「ふう・・・こんなもんですかね?」
「ああ、十分だ」
俺がうなずくと、アンジュも満足そうにうなずく。
「はいこれでアンジュさんは白銀等級として合格です」
少々言動に難があったアンジュだったが、俺やエレノアたちの部下だし、ペロンに懐いているのも見ているので、グレゴールさんも多少大目に見てくれたのだろう。
俺も一安心だ。
次はシルビアとミルキィだ。
もちろんシルビアとミルキィも、用意されたガルーダを問題なく倒し、黄金等級となる。
そしていよいよ俺とエレノアの番となった。




